オカルト少女(?)
そしてのこのこ私が別館までやって来てしまったのは、やはり私では事情聴取に役立てないこと。加えてその、この学園に所属していながら言葉ちゃんに会いたがらない、という稀有な人間──もとい同士の存在の可能性に興味が沸いたからだった。
だがやって来てすぐに後悔する。人間、楽なことを覚えてしまうと、どうしても不便なことが耐え難く感じてしまうものだ。私も例に漏れずそうなってしまっていた。いつもの校舎はあんなに綺麗なのに、別館はとにかく……まあ言葉を選ばずに言うなら、古いし、汚い。もうどれくらい人がまともに出入りしていないのか、簡単に伺えた。
どうしてこんな所がまだ残っているのか……壊されないのか……私にはとても不思議だった。
ぎぃ、ぎぃ、と歩くたびに床が軋む音が響く。……こういうの、ホラー映画で見たことあるな……古い学校に侵入して肝試しをしようとした子供たち……最後には、幽霊に呪い殺されて……。
……。
……別に私は幽霊など信じていないし、怖くもない。いざとなればこの異能力で消してしまえばいいだろうし。……幽霊に効くか、分かんないけれど。
そんなことを考えながら、私は別館の中を進んでいく。しばらく歩くと特に何にも遭遇しないまま、「オカルト同好会」と書かれた古びた看板を発見した。すぐ横には建付けの悪そうな扉。……ここか……。
私は扉を前に小さく深呼吸をすると、ノックをした。すると中から「開いてるよー」と間延びした声が。……確かにここが鍵の掛けられるような部屋だとは全く思っていないが……とにかく、入っていい、ということだよな。と判断し、私は扉のくぼみに手を掛けた。
……が。
「……、……? ……」
力んでも、全然開かない。恐らくこの扉、建付けが悪いのだろう。予想はしていたけど……予想以上だ。
本当に全く扉が横に動かないものだから、念のため押したり引いたりしてみる。が、やはり動かない。
……面倒になってしまったので、私は扉に手をかざす。そして扉を……消した。
「……どうも」
「ああ、いらっしゃ……ってええええ!?!?!? 扉が無い!?!?!? 何したの君!?!?!?」
「……どれだけ力を入れても開かなくて、面倒だったので……」
中にいた生徒の叫び声が耳に響く。……この人も言葉ちゃん並みにうるさい。てっきりこの人が言葉ちゃんに会いたがらないのは、私と同じ理由だと思っていたのだが……宛が外れたか。いや、それとも灯台下暗し、というやつか? ……まあ今はいいか。
扉が扉が、あれは冬を越すのに必須なのに、どうしてくれるんだ。といったことをあまりにもうるさく喚くものだから、私は面倒になって先ほどまで扉があったところに手をかざす。そして扉を生成した。ついでに油を敷いて滑りを良くする。これで出入りしやすくなったし、何よりうるさく喚かれることもない。
……すると今度は、今のどうやったんだ!? とうるさかったので、無視した。
「……小鳥遊言葉に言われてきました。手紙を預かっています。どうぞ」
端的に用件だけ伝え、私はその生徒に手紙を渡す。すると生徒はキョトンとしていた。
「……入部希望じゃないの?」
「違います」
えー残念。と口を尖らせた生徒は、ひったくるように手紙を受け取ると、その場で読み始める。
……何となく出るタイミングを失ってしまった私は、することも無かったので、その生徒を観察していた。
……。
……男、だよな。
そう、扉のことに気を取られて驚き損ねたが、彼(?)は……一見すると、とても素晴らしい美少女だった。言葉ちゃんにも後れを取らないくらいの。紺を基調とした長袖のセーラー服、同色の膝丈まであるスカート。漆黒のロングボブ。ステンレス製の真面目そうな印象を与える眼鏡。長いまつ毛に白い肌。薄く引かれた唇にはあどけなさが残る。
だが声を聞けば男。頑張れば地声の低い女、と誤魔化せるかもしれないが、彼は誤魔化そうとする様子が無かった。というか、別に女になりたいからこの格好をしているわけじゃない気がする。……勘だけど。
「……なるほど。事情は把握した。……久しぶりに昼間っから向こうに出向かないといけないのか……あの腹黒生徒会長め……」
「……あの」
「ん?」
私が声を掛けると、彼は拍子抜けしたような顔で私を見つめる。まるで、今私の存在に気が付いたような……。そう思っていると、彼は、ああ、と声をあげた。
「手紙、届けてくれてありがとう」
「……はあ」
「俺は墓前糸凌。2年生で、このオカルト同好会のたった1人の部員。……お前は?」
「……伊勢美灯子です。1年生で……最近この学園に転校してきました……」
「……転校してすぐにあの腹黒生徒会長に駆り出されてるなんて……可哀想に……」
「……私が私のことを、1番そう思っています……」
が、半分は自分から巻き込まれに行っているため、あまり大きなことは言えないが。
「で、先に言っておく。俺は好きでこの格好をしている。罰ゲームじゃない」
「……はあ」
「俺はオカルト少女というものが好きで、昔からオカルト少女になりたかった!! それでこういう格好をするに至った。こうしてオカルト同好会も立ち上げられたし……流石天下の明け星学園。色々自由にやらせてくれる」
「……そうですか」
「あ、ちなみに女の子になりたいわけではない。俺はあくまで男だし、なりたいのは『オカルト少女』一択だ。それ以外には興味がない」
「……」
もう返事をするのが面倒になってしまった。よくわからないが──いや、言っていることは分かるのだが、私が持ち合わせていない新たな考え方だった──そういうものだと思っておこう。




