殺人現場……?
そんなことを考えつつ、私は生徒会室の奥へ奥へと進む。生徒会室の奥には大きな机と、いかにも「偉い人が座ります」と言わんばかりの立派な椅子がある。一旦その机の上に集めた書類を置いてしまおう、とそれに近づいた、その瞬間。
「……ん……?」
私はあることに気が付いた、というのも。
机の下、何かいる。
ここからだと影になっているが、これは……。
「……言葉ちゃん?」
んん、と、彼女は小さな寝言でそれに答えた。何でこんなところで寝ているんだ。そう思って足を踏み出す。
ぴちゃ……。
そこで、何かを踏んだ。そしてそんな音がした。水? と私が首を傾げて足元を見て……わ、と、思わず悲鳴を上げる。
何故なら私が踏んでいたそれは、赤い液体だったからだ。
机の下で倒れる人物。付近には赤い液体。……そこから連想される、のは。
「……言葉ちゃん!!」
たまらず私は、大きな声を上げた。普段私は、大声を上げることなんて無い。でも今回は……今回ばかりは、仕方がない。
私は赤い液体の出先を辿る。液体はとても赤い。ということは、出血してすぐ、ということだろうか。傷の出所は? 彼女は無事なのか? ……嫌な想像ばかりが頭を掠めて、全然目の前の彼女に集中出来ない。落ち着け、違う、この人は、違う──……。
私の大声に気が付いた服部先生が、こちらに近づいて来る。そして目を見開いた。
「会長……!? これは一体……」
「わかりません……ッ、とにかく、どうにか、どうにかしないと……」
心臓が嫌な音を鳴り響かせて私の思考を邪魔するばかりなものだから、私は荒い呼吸を繰り返すことしか出来ない。どうする。どうにかするってどうやって。私に何が出来る。消して、生み出すだけの私に、何が……。
「…………ん、んん……うるさい、なぁ……」
そこで彼女が……体を起こした。何でもない感じで、あっさり。
というわけで、私の脳内がバグを起こす。あくまで例えだ。そういう感じなのだと思ってほしい。意味が分からない。この赤い液体の量で、こんなにあっさり起き上がれるわけが……。
「……あれ、とーこちゃん? それに……服部センセー? ……どしたの?」
起き上がった言葉ちゃんは、不思議そうに私と服部先生の顔を見比べている。不思議な顔をしたいのはこっちだ。困惑したまま、また赤い液体の方へ目を落すと……。
……彼女の体の下にあったのは、トマトジュースの紙パック。彼女の体重に耐え切れず、無残に潰れている。……。
「……ギャグ漫画みたいな紛らわしい倒れ方、しないでもらっていいですか!?」
「わぁとーこちゃん!?!?!? 君そんな大声出せたんだね!?!?!?」
結局我慢出来ずに私が叫ぶと、言葉ちゃんが本当に驚いたように叫び返してくる。ちなみに言葉ちゃんの方がうるさかった。当たり前だ。
「ねぇねぇとーこちゃん……」
「……」
「ごめんってばぁ……ねぇ、怒ってる?」
「……怒ってません」
「怒ってるじゃぁん!!!!」
背後から大声をあげてくる言葉ちゃん。うるさい。鬱陶しい。先程落ち着けたはずの苛立ちが、また音を立てて湧き出るような感覚がして気持ち悪い。これも全部、言葉ちゃんのせいだ。責任転嫁とかでは一切なく。
……で、まず言葉ちゃんが私のことを迎えに来なかったのは、生徒会室で調べものの最中のところ、うっかり眠ってしまったらしい。そして適当に買ったトマトジュースをどういうわけか背中で圧し潰しながら寝てしまったと。
散らばった書類、倒れる少女、床に広がる血だまり(?)……あっという間に、殺人現場の完成だ。まったく、人騒がせな……。
ちなみに入った時にした甘ったるい匂いは、トマトジュースより前に飲んでいた大量のココアのせいらしい。その量、ざっと15本。この人、糖尿病で死ぬ気なのだろうか。
「……それで? その調べものの成果を教えてください」
「アッ、はい……こちらです……」
すっかり小さくなってしまった言葉ちゃんが、私に分厚い書類を渡してくる。その弱々しい態度に特にツッコむことなく、私はそれらを受け取った。
その書類に書いてあったのは、生徒会室で見たのと同じ。ここ、明け星学園に通う生徒の簡易的生徒情報だった。
「……いいんですか。こんないかにも大事そうなもの、私みたいな生徒会に所属しない生徒に渡して」
「んー、まあ、非常事態だし……これでも、人はちゃんと選んでるからね。それに、協力を要請したのはこっちだ」
「……まあそこまで言うなら、私からはもう何も言いません」
逸らしていた目を、書類に戻す。パラパラめくって、ここに集められた生徒たちを大方把握していく。年齢もクラスも、所属する部活も委員会もバラバラ。……1つ共通点を挙げるとしたら。
「……精神干渉系の異能力者」
「そ。昨日言った通り。……生徒数が少ないと言っても、流石にこの学園全員を調べるのは一晩かかっちゃったよ」
言葉ちゃんは何気ない口調でそうぼやくと、ふああ、と小さく欠伸をし、眠気を振り払うように大きく伸びをした。……その様子はまるで猫の様だ。そんなことを思いつつ、私は思わず言いかけたことを胸の中にしまう。
私を呼んで、手伝わせれば良かったのに。言いかけたが、過ぎたことをとやかく言っても仕方がないし、何より、そんなことするわけないでしょ、と言われそうだ。




