夫婦喧嘩? 痴話喧嘩?
すると言葉ちゃんは苦笑いを浮かべ、脚を組み直す。
「帆紫くんが1回目に言っていた通り、あくまで現時点では『可能性がある』、だよ。……まだ正確なことは分かっていない。……その可能性すら、正確なものかの判断が難しいからね」
「……?」
「んんっと、つまり、詳しく言うと、帆紫くんに対し異能力が使われた形跡があった。でもそれだけじゃ、帆紫くんが誰かに操られた証拠にはならないの」
首を傾げた私に対し、同じく首を傾げた言葉ちゃんがそう告げる。……言葉ちゃんも言葉ちゃんで、説明に難儀しているようだ。
「僕たちはほぼ、帆紫くんが異能力によって誰かに操られたと思っている。でも他の可能性も否定は出来ないからねぇ……」
「……と言うと?」
「例えば、火事があったとする。そういう時、真っ先に疑われるのは、帆紫くんのような炎を扱う異能力者だ」
言葉ちゃんが持木くんを指差すと、彼も、俺? とでも言うように自身のことを指差した。
「でも炎を扱えるのは、何も彼だけじゃない。『火』と一口に言っても、それが発生する条件は無数に存在する。……可燃物に湿気、そしてそこに電気でも流せば簡単に着火するし。そうなると、それに関連した異能力者まで捜索範囲は広がる」
「……そうですね」
「それと一緒。僕たちが思い至ってないだけで、異能力者を操ることの出来る手段が存在するかもしれないってこと。OK?」
「……ええ、理解しました」
私は顎に手を添え、冷静に1つ1つ頭の中で整理しながら返事をする。まあまあ、元無能力者の私でも理解出来た。
「何にせよ……情報がありませんね」
「うん。……相手は相当な手練れらしい。『異能力を使ったらしい』くらいの情報しかないから、どういった異能力が使われたのかも分からない。……操られた、というのも、あくまでこちら側の憶測にすぎないからね」
「……」
……こうして改めて考えると、相当面倒なことになってきているようだ。言葉ちゃんは笑ってこそいるが、その表情は凛々しく、威厳がある。……その顔に、行き場のない静かな「怒り」が込められていることは、火を見るより明らかだ。
……言葉ちゃんは怒っているのだろう。持木くんが、知らない誰かに好き勝手されたことが。
「……帆紫くん。僕は、生徒会長として君に誓うよ。僕は本校の生徒たちのためにも、君を利用した犯人を、確実にあぶり出す」
「……はい」
いつになく真面目な様子の言葉ちゃんは、とても美しかった。……それは、普段人に興味のない私も、見惚れそうになってしまうくらい。だからこそ持木くんも、少しばかり頬を染めて、言葉ちゃんを見つめている。
……すると、当たり前だけど。
「……ふんっ」
「いっでぇ!? ……こ、心音、何すんだよ!?」
持木さんの脇腹を、ココさんが思いっきりド突く。持木さんはというと、訳が分からない、とでも言うように目を白黒させていた。
「……別に。会長にみっともなく鼻の下を伸ばすアンタが見てられなかっただけ!!」
「は、鼻の下なんて伸ばしてねぇし!!」
「へぇどうだか!! 見惚れてたんでしょ、会長は美人だもんね~」
「見惚れてもねぇ!!」
「じゃああたしの能力で確認してみる!?」
いつものことながら、夫婦漫才と言われても仕方のない会話……? 痴話喧嘩……? を見せつけてくる2人。……でも、ここで異能力を使ったら、圧倒的に不利なのはココさんなのでは……。あと、ここで異能力は使えないらしいし。
……全てを把握している私と言葉ちゃんは、思わず顔を見合わせる。私たちからしたら、この光景は、何と言うか……。
「心音ちゃん、素直になりなよぉ~」
言葉ちゃんがケラケラ笑いながらそう言う。誰のせいだと、と言うようにココさんは軽く言葉ちゃんのことを睨みつけてから、「余計なお世話です!!」と叫んだ。
……確かにこれは、「誰のせいだ」と思われても仕方ないだろう。




