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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-3「事件調査前日譚」
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歪曲された噂、その理由

 私の向かった授業は、「異能力基礎Ⅰ」。……ココさんと持木くんと、初めてちゃんと話した授業である。……あの後にあんなことになるなんて、全く想像してなかったけど。


 授業開始ギリギリに教室に入ったせいか、前の端っこの席しか空いていなく、そこに座る。本当は後ろの端っこの席に座りたかったが、仕方がない。

 さり気なく教室全体に視線を巡らせてみたが、やはりと言うべきか、ココさんと持木くんの姿は、この教室には無かった。まあ、昨日の今日だし、仕方ないと思う。


 ……それより……。



「ほら、あの転校生……」

「伊勢美さんでしょ?」

「生徒の1人を人を一方的にいたぶったって……」

「え、俺は戦闘訓練をしたって聞いたけど……」

「私は向こうが喧嘩を売って、返り討ちに遭ったって……」



 ……どうやら昨日の件がかなり婉曲されて伝わっているらしい。聞こえないとでも思っているのか、誰もが勝手な噂を話している。……別に気にしないから、良いんだけど……。

 恐らく、私の存在を良く思っていない人が2割、単に私の存在を良く分かっていない人が6割。後の2割はその他……というところだろう。ちなみに言葉ちゃんは完全に「その他」だ。私のこと、全然怖いとか気に入らないとかも考えていた様子、無かったし。「へー、転校生? まあ僕の方が強いよね」といった調子だろう。どちらかといえば。


 静かに、と、遅れて入って来た先生に諌められ、教室が静かになる。しかし前列に座った私への視線が収まる様子はない。気にしはしないけど、それを許してくれない空気に自然と、はあ、と小さくため息を吐いた。


「それでは授業を始めます。前回の続きから……」


 指定された教科書のページを開き、ノートも開いて、聞いたことを書き記していく。その傍ら、前回の内容も思い出していって。


「今回は、異能力を成長させるにあたってどのようなことを行うべきか、そもそも、何故我々は異能力を成長させんとするのか、その2つを扱っていきます」


 ……確かに、異能力は一見役に立つものであるとは思えない。私の「A→Z」、「Z→A」も、今後の人生で役に立つとは思えない。完全犯罪をするにはもってこいだと思うけど。

 先生はチラッと私を見ると、話を進めていった。


「それは簡潔に言うと、『異能力との共存を保っていくため』です」


 異能力との、共存。


「前回の授業でもやった通り、近年になってようやく、異能力の重要性が見直されてきました。しかし、異能力にはやはり未解明な部分が多い。そして人間というものは、理解出来ないものを怖がり、避ける傾向にある。……異能力者だという理由だけで進学、就職を断られた、という事例は今も残る話です。一部の、リスクとメリットを承諾した者、もしくはリスクを無視した者しか、異能力者は受け入れられない」


 ……その話は、私が無能力者だった時から聞いていた話だ。


 異能力者への差別が残るこの社会。女より男が優れている。障害者は役に立たない。そう心無い人に言われるのと同じように。


 異能力者は怖い。

 もし機嫌でも損ねたら、どうされるか分からない。

 普通は出来ないことが出来る。

 気持ち悪い──。


 ……そう、言われてしまう。


 それでも私はやはり、その時から全く興味は無かったが。


 ……でも「知らないものが怖い」、は、異能力者にも言える話なのだろう。だって、今も。

 ……きっと周りが私のことを好き勝手噂するのは、私が「分からない」から。

 知ったフリをして、「知らない」という恐怖から、逃れるため。


「……そんな人のためにも、我々は異能力をより深く、知る必要があります。他の人が知らないことを、自分も良く知らない、では困ります。それではいつまでたっても恐怖はこびりついたままです。そのため、自分の持つ異能力はどのような性質を持つのか、発動条件は、どういった時に強い力が発揮されるのか……そのような細かいことを、知り続けていく必要があります。そして人間は成長を続けるもの。その作業は永遠に終わることはありません。……」


 授業を聞きながら、私は自分の手に視線を落とす。ノートに書いていたせいで、側面が少し黒く汚れてしまった、何の変哲もない手。

 ……そんな細かいこと、考えたこともなかったな……。

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