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明け星学園  作者: 秋野凛花
プロローグ
2/534

まるで小説や漫画の世界みたいな

 私が呆れていた、その時。



「お前が噂の転校生か?」



 そんな風に、後ろから声を掛けられた。


 私たちが振り返ると、そこには8人くらいの学生と思しき人たちが。

 ……。


「違います」

「違うってー。残念だねー」


 すぐに反応した私に、言葉ちゃんがそう便乗する。……ノリがいい。


「そうか、違うのか。それはすまないことをした……って、そんなわけあるかぁ!!!!」

「おお、君、ノリいいねぇ」


 そんな風に言葉ちゃんはケラケラ笑い出す。うっかりノリツッコミをしてしまっていた男子学生は、言葉ちゃんに笑われたことが悔しかったのか、真っ赤になって震え出した。


「~~~〜ッ、生徒会長!!!! ここで会ったが100年目!!!! 俺と勝負をしろ!!!!」

「おっ、いいねぇ!! やる~!?」


 そこで、言葉ちゃんの雰囲気が……変わった。


 とても楽しそうに。それでいて綺麗に。美しく。なにより、凛々しく。

 それは間違いなく……強者。そんな言葉が似合う、背中で。


「僕に喧嘩売ったこと、後悔しないでねっ!!」

「会長の無敗記録……今ここで!! 俺が!! 途切れさせてやる!!」


 そして2人は、同時に構えた。


 男子学生は……その手に「炎」を携え。

 一方言葉ちゃんは、パーカーのポケットからノートを取り出し……そこから、「文字」を取り出し。


 2人は笑っている。そして私のことなんかお構いなしに、笑いながら睨み合い……そして。



 ドンッ!! と、その力が衝突した。



 衝撃波に、こちらがよろめいてしまう。……今まで見たことが無い景色に、思わず目を見開いて。見逃さないよう、意識を集中させて。


「……すごい」


 気づけば口から、そんな言葉が零れ出ていた。すごい。私の拙い語彙力じゃ、それしか言えない。

 魂のぶつかり合いを、見ているようだった。

 時には命のやり取りをするような……それでもそれを全力で楽しんでいるような、そんな光景。

 これが、日常的に行われているんだ。

 私の知らない、日常。

 まるで小説や漫画の世界みたいな。そんな世界が、私の目の前に広がっている……!!


 胸が高鳴る。鼓動が速い。柄にも無く、ワクワクしてしまっている。

 ……今日から私も、この学園で過ごすんだ。



 ──



 この世には、はるか昔から、2種類の人間に分かれている。

 それは──異能力を持つ人間か、それ以外か、だ。

 昔、異能力者は無能力者より圧倒的に少なかった。そのため、異能力者は迫害され、時には虐殺され、奴隷のような労働力として活用され……。


 しかしいつしか人々は気が付いた。異能力者の持つ異能を用いれば、人類の更なる文明の発展に繋がるのではないか、と。

 もちろん最初は一筋縄ではいかなかった。異能力者を酷使していたことにより、異能力者と無能力者には、大きな心の溝が生まれてしまっていた。

 しかしいつしかそのわだかまりは消え去り、異能力者と無能力者は、共存をするようになった。結果的、異能力者の生存率は無能力者とほぼ変わらなくなった。

 遺伝により異能力を得る者。何か衝撃的な出来事のショックで、異能力を得る者。……()()()()()、ある日突然理由もなく、異能力を得る者。

 この世は、異能力者で溢れている。



 ──明け星学園。

 この辺りで、その名前を知らない人はいない。……それほど有名な、エリートの中のエリートの集まる高校。

 その正体は……。

 ……日本で、いや、世界で初の、異能力者による、()()()()()()()()()()

 そして私……伊勢美灯子は、()()()()()()()()()()()()()()()()()、この学園にやって来た。





「ふい~!! 僕の勝ちだねっ!!」

「くそ~っ……会長の連勝記録の援助をしちまった……」

「いやいや、君もいい線行ってたよ~? 自信持って!!」

「ほんとかよ……」


 言葉ちゃんがそう言って手を差し出す。男子学生はその手を取って、立ち上がった。お互い、すっきりしたような顔で、笑い合いながら。

 自然と周りには沢山の人が集まっていて、拍手が沸き起こった。言葉ちゃんも男子学生も、照れたように周りに手を振る。私も小さく拍手をしていた。それほど……やっぱりそれは、すごい景色だったから。

 私の元に言葉ちゃんが戻ってくる。軽く肩を回しながら、言葉ちゃんは苦笑いを浮かべた。


「いやぁ、ごめんねぇとーこちゃん。寄り道しちゃって……」

「……いえ……」

「そっか。……」


 そこで言葉ちゃんは黙ったかと思うと……ズイ、と、私に勢い良く顔を近づけた。キスでもしそうな距離だった。驚いて、私は思わず一歩後退る。

 しかしそんな私に構わず、言葉ちゃんはニッ!! と笑った。


「ね、楽しかった?」


 その問いかけは、恐らく意味を成してなかった。言葉ちゃんにとって、きっと私の答えなんて決まりきっていた。だから私は答えるのが嫌で。……でも嘘を吐いて答えるのも嫌で、私は、少し言い淀んでから、告げた。


「……少しだけ」


 すると言葉ちゃんは、私から顔を離して、告げる。


「なら良かった!!」





 その笑顔を見て、私は確信する。

 私はこの学園で、絶対に忘れられない、そんな経験をするんだ──って。

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