After the case 1 -1-
あたし、持木心音は、義理の兄である持木帆紫に呼び出されて、2年生の教室に向かっていた。
帆紫は理事長先生が逮捕されたあの事件の後……学園で課題をさせられていた。何てことはない。ペーパーテストで散々な結果を取っていたらしい。帆紫らしいというか……。
「帆紫~、お弁当持ってきたよ~」
「あ。ありがとな」
あたしが声を掛けると、帆紫は勢いよく顔を上げた。その表情は……嬉しそうでもあり、どこか……気まずそうでも、ある。
「課題はどう?」
「……無理……ああ、あの時、解答欄を1個ずつずらして答えなければッ……!!」
「そんなミス、あんたらしいというか……。まあ、それでこの課題だけで済んだんだから、良かったんじゃない?」
そうだな……と、暗い声で答える帆紫。仕方ないなぁ、と思いつつ、私は息を吐き出す。
「……で?」
「……え?」
「あたしを呼び出した理由は何? まさかお弁当を届けさせただけ……じゃ、ないよね?」
そう、あたしは帆紫の忘れていったお弁当を届けに来た。……でもそれは不自然だ。だって夏休みに入ったとはいえ、購買は開いている。それに、近くのコンビニでお昼くらい買えばいい。あとは帆紫の性格的に、わざわざあたしをこの炎天下、歩かせたりはしない。
すると帆紫は、小さく笑った。その表情に、やはり私の予想は当たっているのだと、そう思った。
「……お見通しなんだな」
「伊達にあんたの妹、人生の半分以上もやってないわよ」
ふぅ、と帆紫はため息を吐き、シャーペンを課題の上に滑らした。そして天井を仰ぎ、またため息を1つ。
「……理事長が逮捕された件……詳しいことは、会長か伊勢美からか、聞いたか?」
「ううん。……帆紫の口から聞くといいって、会長が」
同様に灯子ちゃんも、言葉ちゃんがそう言うならそうします、と言って、何も教えてはくれなかった。
そうか、と帆紫は呟く。……あたしは、少し怖かった。何で2人がそう言うのか、あたしには分からなくて。何より……。
……帆紫とあの日から、目が合わない。
「……理事長は、ある計画を実行しようとしていた。それは、俺たちの平穏を脅かそうとするものだ。……俺は理事長の命令で、無差別に生徒を襲った」
「……え?」
淡々と語り始めた帆紫に、その話の内容に、あたしは思わず聞き返す。
無差別に、生徒を襲った?
「俺は、暴走するフリをしていただけだ。……どんな理由があれど、俺はお前を裏切った。だから……ごめん」
「ちょ、ちょっと、待って」
謝られたところで、あたしの頭がまだ、事態を理解していない。帆紫がわざと生徒に攻撃をした? あの時、帆紫は正常だった? 帆紫が……あたしを、裏切った?
「……分かんないよ……」
「……」
帆紫は、黙っている。ただ、暗い顔で俯いて。……あたしと顔を、合わせてくれない。
頭は理解を拒むけど、1つだけ分かった。……会長と灯子ちゃんが、帆紫から話を聞けと、言ったこと。その意図だ。
「……ねぇ帆紫、教えて」
「……何だ?」
「それをあたしに言って、帆紫はどうしてほしいの? ……あたしに許さないでほしいの? 許してほしいの?」
帆紫は、顔を上げた。
でもやっぱり、目は合わない。
「……え、っと……」
「っ、」
あたしは、ついカッとなってしまった。気づいたら帆紫の胸倉を掴んで、平手打ちをしていた。
「……っ……」
「……あたし、分かんない」
震えている。帆紫の胸倉を掴む手も。平手打ちをかました手も。
何より、声が。
「あんたが何を考えてるか、全然分かんないっ……!!」
帆紫の顔が、ゆっくり、私の方を見た。
目が、合った。
「異能力なんて使いたくない!! あんたの声で、あんたの選んだ言葉で、何を思ってるか教えてよ……!!」
分かるんだ。今異能力を使ったら、きっとこいつの心の声が聞こえることは。あの時と違うのだから。
でも、そんなのは嫌だ。
「……俺、は……」
帆紫が、口を開く。その唇の隙間から、薄く息が漏れて。
「……心音を裏切りたく、なかった。例え、人質を取られたからって、そんなの理由にならねぇ……でも、俺は、弱いから」
帆紫の声も、震える。
「心音のことを守るために、心音を裏切らないといけなかった……!!」
「……」
あたしは黙る。黙って。
帆紫のことを抱きしめた。
「……馬鹿なんじゃないの。ほんとに」
「……」
「あたし、絶対許さない。あんたのこと、絶対。……あんなに心配したんだもん、それくらいしたって、いいでしょ」
「……うん」
「でも、」
抱きしめる腕に、力を込める。
帆紫は、きっと人質として、あたしのことを出された。帆紫は、あたしを守ってくれた。理屈は分かる。……あたしが逆の立場でも、きっとそうする。
あたしたちは、弱いから。
「話してくれて、ありがとう」
異能力なんてなくても気持ちが伝えられるほど、近くにいたい。
もっと近くに。
そうすることが出来たら、きっと、こんな悲しい事件は……起きなかった。
「……叩いてごめんね」
「いや……俺は、そのくらいのことをしたから」
心音。名前を呼ばれ、背中に手を回される。
「大好きだ。これまでも、これからも」
「……」
その言葉を、しばらくあたしの頭は、理解を拒んだ。
そしてしばらくしてから、頭は今の状況と言葉の意味を理解する。あたしの顔は、一気に真っ赤になってしまうのだった。
ほむここです(開き直る作者)。
「持木帆紫─一番─」では、帆紫が心音ちゃんのことをどう思っているのか……というのを初めて書きました。というかそもそも、灯子ちゃん以外の語り手って初めてなんですよ笑
あそこで語られた限りでは、少なくとも帆紫くんも心音ちゃんのことを、「ただの妹」とは思っていないみたいですね。
そして「After the case 1 -1-」(今回の話)では、心音ちゃんは、帆紫くんを「許さない」ことを選びました。
今後2人がどうなっていくのか。それを書くつもりはないので、皆さんで好きに想像してくださればと思います。
でも2人はきっと大丈夫でしょう。それを皆さんにも感じていただければ幸いです。




