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明け星学園  作者: 秋野凛花
間章1
110/534

After the case 1 -1-

  あたし、持木もてぎ心音こころねは、義理の兄である持木もてぎ帆紫ほむらに呼び出されて、2年生の教室に向かっていた。


 帆紫は理事長先生が逮捕されたあの事件の後……学園で課題をさせられていた。何てことはない。ペーパーテストで散々な結果を取っていたらしい。帆紫らしいというか……。


「帆紫~、お弁当持ってきたよ~」

「あ。ありがとな」


 あたしが声を掛けると、帆紫は勢いよく顔を上げた。その表情は……嬉しそうでもあり、どこか……気まずそうでも、ある。


「課題はどう?」

「……無理……ああ、あの時、解答欄を1個ずつずらして答えなければッ……!!」

「そんなミス、あんたらしいというか……。まあ、それでこの課題だけで済んだんだから、良かったんじゃない?」


 そうだな……と、暗い声で答える帆紫。仕方ないなぁ、と思いつつ、私は息を吐き出す。


「……で?」

「……え?」

「あたしを呼び出した理由は何? まさかお弁当を届けさせただけ……じゃ、ないよね?」


 そう、あたしは帆紫の忘れていったお弁当を届けに来た。……でもそれは不自然だ。だって夏休みに入ったとはいえ、購買は開いている。それに、近くのコンビニでお昼くらい買えばいい。あとは帆紫の性格的に、わざわざあたしをこの炎天下、歩かせたりはしない。

 すると帆紫は、小さく笑った。その表情に、やはり私の予想は当たっているのだと、そう思った。


「……お見通しなんだな」

「伊達にあんたの妹、人生の半分以上もやってないわよ」


 ふぅ、と帆紫はため息を吐き、シャーペンを課題の上に滑らした。そして天井を仰ぎ、またため息を1つ。


「……理事長が逮捕された件……詳しいことは、会長か伊勢美いせみからか、聞いたか?」

「ううん。……帆紫の口から聞くといいって、会長が」


 同様に灯子とうこちゃんも、言葉ことはちゃんがそう言うならそうします、と言って、何も教えてはくれなかった。


 そうか、と帆紫は呟く。……あたしは、少し怖かった。何で2人がそう言うのか、あたしには分からなくて。何より……。

 ……帆紫とあの日から、目が合わない。


「……理事長は、ある計画を実行しようとしていた。それは、俺たちの平穏を脅かそうとするものだ。……俺は理事長の命令で、無差別に生徒を襲った」

「……え?」


 淡々と語り始めた帆紫に、その話の内容に、あたしは思わず聞き返す。

 無差別に、生徒を襲った?


「俺は、暴走するフリをしていただけだ。……どんな理由があれど、俺はお前を裏切った。だから……ごめん」

「ちょ、ちょっと、待って」


 謝られたところで、あたしの頭がまだ、事態を理解していない。帆紫がわざと生徒に攻撃をした? あの時、帆紫は正常だった? 帆紫が……あたしを、裏切った?


「……分かんないよ……」

「……」


 帆紫は、黙っている。ただ、暗い顔で俯いて。……あたしと顔を、合わせてくれない。

 頭は理解を拒むけど、1つだけ分かった。……会長と灯子ちゃんが、帆紫から話を聞けと、言ったこと。その意図だ。


「……ねぇ帆紫、教えて」

「……何だ?」

「それをあたしに言って、帆紫はどうしてほしいの? ……あたしに許さないでほしいの? 許してほしいの?」


 帆紫は、顔を上げた。

 でもやっぱり、目は合わない。


「……え、っと……」

「っ、」


 あたしは、ついカッとなってしまった。気づいたら帆紫の胸倉を掴んで、平手打ちをしていた。


「……っ……」

「……あたし、分かんない」


 震えている。帆紫の胸倉を掴む手も。平手打ちをかました手も。

 何より、声が。



「あんたが何を考えてるか、全然分かんないっ……!!」



 帆紫の顔が、ゆっくり、私の方を見た。

 目が、合った。



「異能力なんて使いたくない!! あんたの声で、あんたの選んだ言葉で、何を思ってるか教えてよ……!!」


 分かるんだ。今異能力を使ったら、きっとこいつの心の声が聞こえることは。あの時と違うのだから。

 でも、そんなのは嫌だ。


「……俺、は……」


 帆紫が、口を開く。その唇の隙間から、薄く息が漏れて。


「……心音を裏切りたく、なかった。例え、人質を取られたからって、そんなの理由にならねぇ……でも、俺は、弱いから」


 帆紫の声も、震える。



「心音のことを守るために、心音を裏切らないといけなかった……!!」



「……」


 あたしは黙る。黙って。


 帆紫のことを抱きしめた。


「……馬鹿なんじゃないの。ほんとに」

「……」

「あたし、絶対許さない。あんたのこと、絶対。……あんなに心配したんだもん、それくらいしたって、いいでしょ」

「……うん」

「でも、」


 抱きしめる腕に、力を込める。

 帆紫は、きっと人質として、あたしのことを出された。帆紫は、あたしを守ってくれた。理屈は分かる。……あたしが逆の立場でも、きっとそうする。

 あたしたちは、弱いから。


「話してくれて、ありがとう」


 異能力なんてなくても気持ちが伝えられるほど、近くにいたい。

 もっと近くに。

 そうすることが出来たら、きっと、こんな悲しい事件は……起きなかった。


「……叩いてごめんね」

「いや……俺は、そのくらいのことをしたから」


 心音。名前を呼ばれ、背中に手を回される。


「大好きだ。これまでも、これからも」

「……」


 その言葉を、しばらくあたしの頭は、理解を拒んだ。

 そしてしばらくしてから、頭は今の状況と言葉の意味を理解する。あたしの顔は、一気に真っ赤になってしまうのだった。

 ほむここです(開き直る作者)。


「持木帆紫─一番─」では、帆紫が心音ちゃんのことをどう思っているのか……というのを初めて書きました。というかそもそも、灯子ちゃん以外の語り手って初めてなんですよ笑

 あそこで語られた限りでは、少なくとも帆紫くんも心音ちゃんのことを、「ただの妹」とは思っていないみたいですね。


 そして「After the case 1 -1-」(今回の話)では、心音ちゃんは、帆紫くんを「許さない」ことを選びました。

 今後2人がどうなっていくのか。それを書くつもりはないので、皆さんで好きに想像してくださればと思います。


 でも2人はきっと大丈夫でしょう。それを皆さんにも感じていただければ幸いです。

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