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明け星学園  作者: 秋野凛花
間章1
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持木帆紫─一番─

 これは、遠い日の記憶。確か俺は、突然じいちゃんに呼び出された。いつも通り、和菓子をくれるのかと思っていた。ばあちゃんの作った和菓子……それを最初に食えるのはじいちゃんで、俺はそのおこぼれをもらうのが好きだったから。特に桃色の花の形をしたやつが、好きで。


 だから意気揚々と部屋に入って、じいちゃんに真顔でそこに座れ、と言われた時、とても怖かった。じいちゃんは本家で一番偉い人。いつもはニコニコしているが、本当はとても怖いんだ。いつか父さんが言っていた意味が、その時ようやく分かった。それに気圧され、少しちびったのは内緒だ。

 俺は言われた通り正座をした。じゃないと怒られるからだ。


「……帆紫ほむら。お前ももう5つになった。しっかりと言葉も話し、自立もしてきた。よって、私の一考で、お前にある事実を伝える」

「……」


 無言で頷いた。返事が出来なかったのは、声を出すことすら恐ろしかったからだ。本家の当主であるじいちゃんは、とにかく威圧感がすごかったのだ。


「実はお前の妹、心音こころねは、お前の本当の妹ではないのだ」


 あっさりと告げられたその事実に、俺は。


「へ????」


 思いっきし驚きの声を上げてしまった。じいちゃんはそれ以上、何も言わなかった。





 同じく心音も、5才の時に同じ事実を告げられたらしい。お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃないの? と泣き付かれたのが懐かしい。今ではすっかりその事実を受け入れてしまっている。でも俺たちは、確かに「兄妹」だった。

 例えそれが、義理だとしても。


 心音は自分がこの家の人間ではないと知り、それはとてもふさぎ込んだ。「本当の家族じゃないくせに!」と当たられたことも一度や二度ではない。だが根気よく話しかけて、何とかした。同じ家にいるのに、そんなのは絶対に嫌だったからだ。次第に心音は、前と同じような笑顔を取り戻してくれた。いや、もはや増していた。それを確認できた時は、心底安心した。


 俺は心音のことを、本当の妹だと思って可愛がった。愛した。そこに嘘偽りなんて一切ない。対して心音も、俺のことを「少しアホで不甲斐ないお兄ちゃん」という風に思ってくれているだろう。いつからか心音は俺のことを、「お兄ちゃん」とは呼んでくれなくなってしまったけれど。


 俺は心音より1年早く、明け星学園という高校に入学した。正直入学出来たことに、自分でも驚いた。家の人間皆驚いていた。俺よりも驚いていた。マジで失礼だな……まあ、俺馬鹿だから、仕方ないけど……。

 ……ああ、でも、心音だけは……「あんたは本気になれば出来るからね」って、言ってくれたか。


 ……その言葉に答えられないのは、正直申し訳ない。俺は単位をいくつか落とした。だって分かんねぇんだもん。皆よくこんなんに付いていけるよなぁ……なんて感心した。それほど俺にとっては、どの授業も呪文に等しかったのだから。


 学年が上がる直前、俺は理事長に呼び出された。……正直心当たりがありすぎて、腹が痛かった。だが行かないわけにもいかず、俺は約束の刻限に理事長室で向かった。

 だがそこで俺が聞いたのは、成績不振の話ではなく。


「君には一度、異能力を使って無差別に生徒たちを襲ってほしいんだ」

「……は?」


 何を言っているんだ、と思った。異能力を使って? 無差別に生徒たちを襲う? 脳が理解を拒んだ。


「……それは、どういう……」

「私は近い将来、異能力者のみで構成された軍隊を編成したいと考えている。そのためにこの学園を、巨大な実験装置にしたいんだ」

「は……」


 理事長先生は、それが当たり前かのようにペラペラ喋る。いつもより饒舌だった。それを聞いてふつふつと沸いてくるのは、怒りの感情。


 この高校、明け星学園は、とても平和な学校だ。異能力者のみが通っているとは、思えないくらい。血塗られたものではなく、皆の顔には笑顔がある。異能力での戦闘を、1つのコミュニケーションとして所持している。

 俺はこの学園が好きだった。だからこそ、それを危険に晒そうとするなんて……不可能だった。


「お前──」

()()()()()1()()()()()()()()()?」


 その短い言葉に、俺の呼吸が冗談でも何でもなく止まるのが分かった。

 どうして急に、心音の話を始めるのか。流石の俺でも理解出来た。


「……心音を、どうするつもりだ……!?」

「彼女も同様に異能力者だと聞いている。きっと来年はこの学園に足を運ぶのかな?」

「質問に答えろ!!!!」


 俺は思わず怒鳴りつける。無意識に異能力を使っていたらしい。俺の足元を、紫色の炎が立ち込めた。熱い、が、それ以上に。


 ──俺の心が、怒りに燃えている。


「何もする気はないさ。……君が大人しく、協力してくれるならね」


 理事長が、俺に近づく。そして、黙って俺の肩に手を置いた。

 何も、出来ない。何も、言えない。脳裏に、心音の笑顔が浮かぶ。ようやく笑ってくれるようになったのに。それを俺のせいで、潰すなんて。


 足元の炎が、消え去る。残るのは、何とも言えない肌寒さ。

 理事長は笑うと、ご協力感謝するよ、なんて言った。





 俺はあの後……転校生の伊勢美いせみと出会い、彼女と戦うことになった。最終的には会長に負けたけど……。


 そして俺は、伊勢美に願いを託した。どうか彼女が、心音の心の拠り所になるように。……友達に、なってくれるように。

 体育祭の時、どうやら2人は喧嘩をしてしまったらしい。でも事件を経て、仲直りをしてくれたようだ。しかもきちんと友達になってくれたようで……嬉しそうに語ってくれた心音の表情は、今までで一番可愛かった。俺の妹は世界一可愛いと思う。うん。


 そして俺は、同時に安心したのだ。

 もし伊勢美たちが理事長の悪事を突き止めたら……きっと俺は、もう心音の隣にはいられないから。


 ──俺がいなくなっても、伊勢美が……。


 そんなことを思いつつリレーの準備をしていると……ふと、声が聞こえた。


持木もてぎちゃん、すごいこっち見てんね」

「帆紫がいるからじゃね?」

「え、でも睨みつけてんじゃん」


 それを聞きつつ、俺は心の中でツッコむ。……それは睨んでるんじゃなくて、集中して見てるだけなんだ。


「……なあ、俺さ、このリレーで勝ったら、持木ちゃんに告ろうかな」


 聞こえたその台詞に、俺の肩が少しだけ跳ねた。


「え、マジで?」

「マジマジ。……ほら、イベントマジックってやつ、あるだろ? なんかしてぇんだよ。……それに案外持木ちゃんも、男慣れしてないかもだしなー。オッケーしてくれるかも」

「楽観的過ぎだろ!」


 会話が終わったのを見計らって、俺はようやく振り返る。……2人組。歩く後ろ姿。確かあいつは……白組のアンカー……。

 俺が身に着けているアンカーの印、赤色の襷に、目を落とす。……。


「……馬鹿だなー、俺」


 ここでは本当なら、友達だけではなく恋人もいてくれたら、きっと自分がいなくてももっと平気だろうと、思うのが正解だろうに。


 ──心音のことを分かってない人間に、心音を任せるわけにはいかない。


 心音のことは、俺が一番。……その先は、言わないままで。


 リレーが始まり、番が巡り、巡り、巡って。やがて俺はスタートラインに並ぶ。隣に、あの男も並んだ。


 ……絶対負けない。負けるわけには、いかない。


 バトンを受け取る。俺は勢いよく、走り出した。

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