閻魔娘の思いのままに(怜)
此処は魂が甦える場所、消える場所
良い魂は還れ、悪い魂は消失する
全ては閻魔様の差配(本来は)
「おい、小娘!またこんな仕事してタダで済むと思ってんのか?」
「ごめんなさ〜い」
「ほら、そこ、右、次左だ、次も左」
俺、東江怜は銀髪の女の方へと向かい
次々と指示を出す
右は新しい命を、左は死だ
「え!?待って下さいよぉ〜簡単に決め過ぎですってぇ」
「さっさと進めないと帰れないだろ、アホか」
「ア、アホって何ですか!?私、一応閻魔代理なんですよ!」
「一応な、俺はお前とここ任されてる責任者なんだよ!」
そう、ここの責任者…
面倒事を押し付けやがってクソ閻魔!
心の中で悪態をつく
この煩い小娘は閻魔の最愛の娘(閻魔と人間とのハーフ)の大王花だ
「何をそんな迷うんだよ?相手は強盗や人殺しだぞ?」
「人殺しは消滅で良いですけど…強盗はお金が無くて仕方なくって…」
「甘い!絆されんな!そんな事言ってたら警察いらねぇーんだよ!」
「怜さん、そんな怒らないでくださいよぉ〜」
「いいか?お金が無くても真っ当に生きてる人間も居るんだ!また問題起こされても責任が取れん!左だ左」
「…わかりました〜」
俺はさっさと仕事を終わらせて
定時に帰りてぇーんだよ!
花は優しいのか優柔不断なのか
判断に時間が掛かる
ハッキリ言って閻魔が向いて無い
なのに、閻魔ときたら
風邪を拗らせたとかで療養中だ
もう、三ヶ月経っている
仮病なのは明らかだ
職務放棄じゃねーか!
「クソ閻魔がぁああああーーーー」
壁に拳を当てるとメリメリと音がした…
ああ、給料から天引きだな……。はぁ…。
♢
「怜さーーーん」
「……」
職場の自動ドアを抜けると
ぶんぶんと手を振る花が居た
ここは交通の便も良く
流通や商業が発展している都市に比べると劣るが
人通りが多い。
チラッと姿を把握して
迷わず無視をしさっさと帰る事にする
それに限る。
「ちょっと、ちょっと怜さん!無視は無いです!無視は!」
「小娘は早く家へ帰れ、俺は予定があるんだ」
「どうせ一人でお酒、飲むんですよね〜?」
「…悪いか」
何で当たるんだよ。
俺だって女のひとりや、ふたり………居ねぇな。
それもこれも仕事が忙しいせいだ。きっと。
「私が注ぎますって〜」
「缶だ、注がない」
「え!注ぎましょ?私が注いだらもっと美味しくなりますから!」
「…ばーか」
何処からくるんだその自信は。
「む、ばかって言わないで下さいよ!本当に馬鹿になりそうです!こう見えてそこそこ勉強は出来るんですからね!」
「はいはい」
結局、花は家まで着いてきた。
あーあ、家バレた
面倒だから職場の徒歩五分の所に住んでるのに
逆に面倒だぞ…これ
今までこんな事なかったのに何で
付いて来るんだよ
ガチャリと鍵が鳴り扉が開く
花は帰るつもりが無さそうだ…
「小娘、警戒心なさ過ぎじゃないか?…一応俺も男だぞ?」
「…そうですねぇ、怜さんも気を付けた方が良いんじゃ無いですかねぇ」
「ん?何をだ?」
「何でもないです〜」
なんなんだ…何を気を付けるんだ?訳わからない事を言いやがる…。まぁいいジュース用意するか
「そこ座れ」
「はーい」
リビングにあるL字の黒いソファへ
小娘が座り、テーブルに菓子やジュース、酒を出す
偶々、ジュースがあって良かった
昨日買い物に行ったばっかだし…って
何考えてんだ!?
別にコイツに気を使うことねぇーのに!
酒を飲みつまみを食べ
テレビを観ながらあーだこーだ言って
良い気分で寛ぎ始めた頃
小娘がやけに静かになった
「ん?」
あれ…おいおい、何で目が潤んでんだ
間違えてお酒飲んだんじゃねぇよな?
…ジュースで酔うとか本当にあるのか?
あるわけねぇー、漫画か!
「なんでですか〜?」
「……は?」
こっちな、聞きたいの
なんなの?
「私に魅力無いですか?」
ガバっと抱きついて来て
押し倒される
「は?」
「さ、触って欲しいんですぅ」
触る?…え?
「どういう?」
「女として見てほしいんです〜!」
「いや、ちょ、ま、え?」
「パパには許可取ってますぅ〜後継産むまで…それまで閻魔代理になるなら、交際OK!寧ろ責任取れって言ってました〜!」
「…あんのクソ閻魔…そういう事か」
ちっ!!!
「……怜さん、私優良物件じゃないですか♡」
「小娘、何言ってんだよ…俺はぜってぇ閻魔の策にはのらねぇからな!」
上になられたまま密着…
俺、お酒飲んでるし…やばいかも
「そんな事言わずに!!」
「言うわ!!」
ガバッと半分起き上がりこちらを見てくる花に
負けじと言い返す
「怜さんの事が好きなんです!大好きで仕方がないんです!」
「す、す…だい…!?…いや、わかってねぇー」
好きって…簡単に言うなよ
俺は、嫌なんだよ!
「お前、人間とのハーフだろ」
「はい」
「…お前の父親と母親見て何とも思わねぇの?」
「……え?」
「お前が慕ってくれてんのは、嫌でも分かるけど俺とお前は寿命が違うだろ」
そう、閻魔の娘とは言え人間とのハーフだ。
成長は人間よりもかなり遅いが俺達、冥界の奴らとは
進む時間が違う。
残された方はたまったもんじゃねー。
「…じゃあ、それ抜きにして…私の、事は?」
は?
「寿命が同じだったら!?」
そ、そうだな…
「か、可愛いとは思ってる、っ…周りをくるくるついて来て
犬みたいだし?か、勘違いすんなよ!…そうじゃなきゃ…面倒なのに助けたりしねぇ…」
詰め寄られて思わず口に出てしまった。
恥ずかしさに目が見れなくなる。
あーーー酔ってるせいだ。そうだ。
いつも、玲さん玲さんって寄ってこれば愛着湧くってか…見た目も凄く可愛いし、アホな所も何つーか可愛く見えてきてる守ってやらなきゃなーって思ったり思わなかったり…?
「…そ、そうなんですか…嬉しいです」
おい。
「お、おい…何喜んで…」
嬉しいって何だよ、犬って言ってんのに
何喜んでんだよ
「嬉しいんですっつ!可愛いと思ってくれているんですよね!?」
なんなんだよ…
「好きです」
迷いもなく綺麗な瞳がこちらを見る。
っつ……揺れるだろーが
「だから…それは、答えられねぇって」
「怜さん、忘れてません?」
「……」
「魂は還るんです」
そんなの、分かってる。
「私を何度でも迎えに来て下さい」
でも、俺だけが覚えている
お前は忘れるじゃねーか
「記憶を失っても私は何度でも好きになります」
…わからねぇよ、そんなの
「って言ってみたかったんです♪
けど、私は閻魔の娘ですし!融通効きますって!」
……は?
「おい、ちょっと待て」
「はい?」
「融通ってなんだよ」
「記憶、閻魔の権限で記憶消さなければ大丈夫です!なので次期閻魔代理になって下さい!まだまだ先ですが」
なんだそれ、知らねぇんだけど…
「俺の切ない気持ち返せよ」
「えー?」
「えー?じゃねーわ」
なんなんだ
「好きです」
なんなんだよ!もう!
それ…
じゃあ…俺は…
「それ、さっきも聞いたし…俺も、寿命の事さえクリア出来るなら…考えてみても…いい…かもな…」
「え?何です?もう一度…」
「言わねー」
「ハッピーエンドですね?」
「…ちょ、まだ決まってねーし、恥ずかしいわ」
本当、振り回されっぱなしだな
でもそれも良いかもな。