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俺は悪役令嬢の幼馴染。

【外伝:IFエンド】魔法学園の劣等生による魔王討伐記。冥府の王妃編

作者: ゆす

 ここは、異世界。

 この世界にとって『魔王』とは、災厄であり、災害であり、周期的に発生する天災のようなものである。


 俺の名前はケイ。

 王立魔法学園に通う貧乏男爵家の次男である。

 ある休日の朝、魔法学園の男子寮で詠唱魔術理論に関する課題レポートを作成していると、勇者ユーリが訪ねてきた。


 ユーリは、黒目黒髪の美少年。

 俺と同じ日本人転生者だが、最近ちょくちょく遊びに来る。


「やぁ、ヒマだろ。僕と一緒に魔王ゼウスクトニオスを討伐しに行こうよ!」

「いや、普通にお断りしたいのだが?」


 勇者ユーリは、ラノベ主人公のようなチート魔法剣士なので、ゲーム感覚で俺を魔王討伐に誘いに来るので困る。

 一方、俺は実践魔術が不得意な魔法学校の劣等生なので、争いごとは苦手なのだ。


「今度の魔王は、アンデットを大量に発生させる広域災害型魔王でさ、みんな困っている。主に僕の領地の住民が」


 聞けよ!

 俺は今、はっきりとお断りしましたよね?


「それに対アンデットなら、勇者パーティーに専門の神官職がいるじゃないか」

 ユーリのパーティーメンバーである聖女は、上級神官職で癒しと聖域浄化の専門家である。


「もちろん彼女を中心として神聖教会の精鋭がアンデットの鎮魂を行っているよ。でも、魔王本体の討伐までは手が足りていない状況だ」


「そんなところに俺が顔を出しても、焼け石に水じゃないかな?」

「殴って倒せるような魔王なら君に声をかけないよ。僕が欲しいのは武力じゃくて、君の知力と機転だよ」


 あっ、その誘い文句はちょっと嬉しい。

「そういうことなら行ってもいいが、でもディアナがなんて言うかな」


 ディアナは、容姿端麗な黒髪の美少女で、魔法学園の成績もトップクラスに優秀という完全無欠な公爵令嬢だ。

 色々あってディアナは俺の婚約者、かつ学園公認の恋人同士になっている。


「ディアナは、ちょっと心配性というか独占欲が強いというか」

「こ、こいつ急にのろけ始めたぞ」


 ユーリが怪訝な表情をしているが構わず続ける。


「まぁ、聞いてくれよ。俺、ディアナに三か月先までのスケジュールが決められていてさ、急に魔王討伐とか言われても行く暇なんてないし、絶対に反対されると思うんだよな」

「えっ?それって重くない?」


「そうか?いずれ公爵家の人間になるためには教養とか礼儀作法のレッスンも必要だ。とか言われたら断れないし、普通だろ恋人同士なら」

「あっ、ハイ」


 ユーリが生暖かい目で見てくる。

 なんだよその目は?

 まぁ、俺はディアナ以外とお付き合いしたことは無いけどさ。


 そのとき、俺の部屋のドアがノックされた。

 このノックの仕方はディアナだな?


「お話は聞かせてもらいましたわ!」

 俺が返事をすると、予想どおりディアナがドアを開けて入ってきた。


 今日のディアナは、黒いゴスロリめいたフリルの付いたドレスを着ていた。

 長い黒髪に良く似合っていて、とても可愛らしい。


「ユーリさん、お久しぶりです」

「やぁ、ディアナ嬢。ちなみに、どこから話を聞いてたの?」


 ディアナが目を細めて首を傾げた。

 あっ、あれはいたずらをするときの目だな。


「んー『僕と一緒に魔王を討伐しに行こうよ』ってあたりかしら?」

「ほぼ最初からじゃないか!魔術発動の気配は無かったから、まさかどこかに盗聴の魔道具が!?」


 ユーリが油断なく周囲を見回している。

 おいやめろ。

 俺の部屋に盗聴器とか、こわい想像はやめてくれよ……無いよな?


「ふふふ冗談よ。魔王発生のお話は、すでにお父様から聞いていましたから」

「優秀とは聞いていたけど、なにその洞察力」


 あのユーリが驚愕していたが、本気のディアナは俺より何倍も優秀だ。


「そうだ。俺の代わりにディアナに魔王討伐を頼んだら?」

「それはいけませんわ」

 俺の提案にディアナが素早く反対した。


「今日は、その魔王討伐の件で相談に来たのです」

「ディアナもか。でも、なんで俺に?」

「実は、父がそろそろ公爵家の婚約者としての実績が欲しいと言っていましたの」


 あー、なるほど。

 貴族同士の婚約は、極めて政治的な要素が強い。

 通常は、貧乏男爵家の次男が公爵令嬢と婚約なんてできるはずがない。


 いくら俺が公爵様のお気に入りでも、内心では納得していない貴族たちもいるだろう。

 そこで『広域災害型魔王の討伐者』の称号は、大きな実績になる。


「そういうことなら、今回アーサーは連れて行けないな」

 アーサーは親友だが王族だ。

 あいつが参加したら、それは王家の偉業になってしまう。


「ふふ。今回は二人っきりで旅行ですわね」

「あっれ?僕はお邪魔ですか?」

「言葉のあやですわユーリさん。ところで最近開業したという温泉付きの宿泊施設を視察したいのですが?」

「完全に旅行気分だ!」

「私が参加すると公爵家の成果になってしまいますから、今回は一緒に行くだけですわ」


 ディアナの許可も出たので、俺たちは広域災害型魔王ゼウスクトニオスの討伐に出かけることになった。


--

 翌日。

 俺たちは、ユーリの管理する領地の魔王対策本部に到着した。


「はじめまして。聖女職のリリアです。魔王の討伐期待しています。割と、マジで」


 リリアは、清楚な神官服を着た金髪ツインテールの美少女である。

 可愛らしい顔をしているのに目のハイライトが消えている。

 ずいぶん疲労が蓄積しているようだった。


「いくらアンデットを鎮魂しても、魔王がアンデットを量産するので全然休めないのです」

 神聖教会が魔王発生直後から迅速に対応してくれたおかげで、周囲の住民に大きな被害は無いらしいがその負担は大きいようだ。


 前回、魔王ゼウスクトニオスが発生したのは約二百年前。

 滅多に発生しないため、その性質や攻略方法もよくわかっていない。


「住民の避難は完了しているが、せっかく開墾した農地が荒れるのは避けたいんだ」

 文献によると、前回は極大魔法で周囲一帯を消し飛ばして存在自体を無かったことにしたらしい。

 そんなことをしたら、領地に壊滅的な被害が出る。


「まぁ実際に魔王を見てみよう。何か解決の糸口が見つかるかもしれないし」

「そうだな。僕とリリアで案内するよ」


 なお、ディアナは予定どおり温泉付き宿泊施設の視察のため別行動となった。


--

 今回のパーティーメンバーは、勇者ユーリ、聖女リリア、俺の三人である。

 ユーリの他のパーティーメンバーは、広域発生したアンデット討伐のため参加できない。


 俺たちはアンデットが徘徊している中、リリアを中心とした半径約三メートルの球形の聖域結界に守られながら魔王を目指した。


「リリア、そんなに長時間結界を維持して大丈夫なの?」

 聖域結界は、神官職が数人がかりで達成する奇跡である。


「大丈夫ですよ。こんなの大迷宮の攻略に比べたら全然余裕です」

 聖女リリアの結界に触れたアンデットは、一瞬で鎮魂されてまったく脅威になっていない。


「大迷宮でうっかりテレポーターの罠を踏んでしまったことがあったのです。一時は死を覚悟したのですが、アンデットしかいない階層だったので聖域結界を維持して生き延びました」


 なるほど、聖女リリアは窮地で能力を発揮するタイプか。

 さすが、ラノベのヒロインである。


「そのあと、すぐにユーリが助けに来てくれてですね」

「あっ、うん」


 その後、勇者ユーリのラノベ主人公のような活躍を延々と聞かされるハメになった。


--

 しばらくして、魔王ゼウスクトニオスを発見した。


 間近で目撃した魔王の容姿は、一言で言うと大柄な黒い騎士の亡霊だった。

 だが、魔王はこちらに襲い掛かって来ることも無く、ゆっくりと前進している。


 地面からアンデットが次々に生えてきているので迷惑なことには変わりがないが、思っていたより大人しい魔王だった。


「ユーリの魔法剣でも倒せなかったのか?」

「斬って済むなら、君に助けを求めたりしないさ」


 魔王ゼウスクトニオスは、不死の概念が擬人化した存在だと言われている。

 存在自体が不死なので、討伐は不可能と言われているが本当にそうなのだろうか。

 これは俺の持論だが、いくら理不尽に見える魔王でも、必ずその存在理由というものがあるはずなんだ。


「今は情報が少なすぎる。討伐できないようであれば、封印もしくはどこか遠くに移動させるしかないな」

 魔王はゆっくりと移動するのでアンデット被害が拡大する傾向にある。

 魔王が立ち去るのを待つ消極的な作戦は現実的ではない。


「ユーリ、魔王の進行方向には何があるんだ?」

「うちの領地は王国のはずれだから何もないぞ。魔王の進行方向は王都の反対方向だしね」


 確かに魔王の進行方向には山しかない。

 山を越えると隣国の領地だが。

 ……ん?


「おい、ユーリそれってヤバくないか」

 このまま魔王ゼウスクトニオスを放置して隣国に侵入するようなことがあれば、侵略行為と曲解されて戦争状態になるおそれがある。

 そのとき一番に被害を受けるのは、ユーリの管理するこの領地である。


「おいユーリ。ほかに忘れていることは無いのか?」

「そう言えば、山のふもとに新築した温泉旅館がある。つまり、魔王の目的地は温泉だ!」

「温泉好きの魔王。それは盲点だったな……」


「えっ?えっ?二人とも本気で言っているんですか?」

 聖女リリアが狼狽しているが、もちろん俺とユーリの冗談である。


 新築した温泉旅館には、ディアナが視察に行っている。

 ディアナなら何か異変があれば知らせてくれるだろう。


--

 一方、その頃。

 ディアナは、新しく建築したという温泉付きの宿泊施設を視察して感嘆の声をあげた。


「極東の宿泊施設を参考にしたというけど、ユーリさんはどこからそんな発想を得ているのかしら?」

 なにしろ温泉を発見したユーリが全力で趣味に走ったら、なぜか立派な温泉旅館になっていたという、ラノベ主人公らしいエピソードがある施設である。


 外観は、ファンタジー世界に建築された和風の高級旅館。

 木材をふんだんに使った内装に、畳敷きの客室。

 障子窓を開くと、見事に設計された中庭が見える。

 そして露天風呂は、広い敷地内に草木や岩石が贅沢に配置され、雄大な山の景色を楽しむことができる。


「うわぁ、露天風呂……いいなぁ」

 ディアナは周囲を見回す。

 現在は魔王発生の影響で来客者が居ないため貸し切り状態。


 ディアナは公爵家の業務で視察に来たのであって、施設の安全性や使用感を確認するために露天風呂を利用してもなんら問題は無いのである。

 うん、理論武装完了。と、頷いてディアナは露天風呂に入浴することにしたのであった。


 なお、日本人転生者のユーリが設計したため、内湯と露天風呂は男女別に分けられており、防犯対策も万全である。


--

 ディアナは、ちょうど良い湯加減の露天風呂につかって目を細めた。


 地下から自然と湧き出る天然温泉。

 なんだか、肌がしっとりすべすべになったような気がする。


 雄大な自然の景色と屋外で湯につかる解放感。

 人目を避けるための木造の塀は、草木や岩石と一体となって気にならない。


 そして、ディアナは露天風呂の敷地内で、石作りの女神像を発見した。

 真新しい温泉旅館のなかで、その女神像だけがとても古く違和感があった。


「これは元々ここにあったものかしら?それともどこかの遺跡から運んで来たの?」

 ディアナは、気になることは放っておけない性分である。

 彼女は、ざぶざぶとお湯をかきわけて女神像に近づいて観察した。


「んー?これは古代神聖文字。冥府の王妃……ペルセフォネー。あっ、しまった!」

 ディアナは、古代神聖文字が読めるために、ついうっかりとその女神の名前を呼んでしまった。


 この世界で、忘れ去れた神の名前を呼ぶことは禁忌である。

 なぜなら、それが神を称え、神の信徒となることに繋がるから。


 そのため、ディアナはこの世界でたった一人の信徒として、冥府の王妃ペルセフォネーの巫女に選ばれてしまった。

 ディアナの中に、神がかった何かが入ってくるのを感じる。

 おそらくそれは、冥府の王妃の加護である。


『――呼んでいる』

 いつの間にか、ディアナは女神像によく似た白い神秘的な衣装を身に着けていた。


 ディアナの瞳が金色に輝く。

 彼女が見つめる先には、魔王ゼウスクトニオスがいる。


 ディアナは、魔術的にふわりと浮き上がると、その方角に飛び去るのだった。


--

 魔王ゼウスクトニオスは、アンデットを量産しつつゆっくりと前進する。

 勇者ユーリと聖女リリアは、周囲のアンデットを退治しているが魔王の進行を阻止することはできていない。


 これと言って情報も得られず、そろそろ退却しようかと考えたとき、ユーリが警告を発した。

「強い気配が接近してくる。速いぞ!」


 魔王の進行方向から、白い人影が空を飛んでこちらに向かってくるのが見えた。

 白いドレスを着た、長い黒髪の女性のようだ。

 神々しい圧力を感じるが、あれはディアナじゃないのか?


『みなさん、大丈夫ですか!』

 俺たちの前にふわりと着地した女性は、やはりディアナだった。


「ディアナ、どうしたんだ?」

『わたしは冥府の王妃ペルセフォネーの使徒。ディアナではありません。彼女は宿泊施設の視察に行っていますから』


 なるほど。

 公爵令嬢のディアナがこの場にいると、魔王討伐の功績が公爵家のものになってしまうということか。

 相変わらず真面目だなぁ。


「それにしてもその格好、何があったんだ?」

『あっ。この服、やっぱり変……でしょうか?』


 普段のディアナは黒髪にあわせて暗い色のドレスを着用していることが多い。

 だが、今日のディアナは、金の装飾の付いた神秘的デザインの白い服。


「いや、その衣装もとても似合っているよ。今日は神々しさが増して、まるで女神様のようだ」

『やだ、女神様だなんて褒めすぎですわ』

 ディアナは顔に両手を当てて頬を赤らめた。


「なぁ、リリア。あいつら急にイチャつき始めたんだけど」

「ダメですよユーリ。もう少し様子を見ましょうよ」


 まずい。

 勇者ユーリ聖女リリアに呆れられているぞ。

 話を戻そう。

 アイコンタクトでディアナに続きを促した。


『私は、偶然にも冥府の王妃ペルセフォネーの加護を得ました。この状態がいつまで続くかわかりませんが、魔王の権能を一時的に封印することができます。その隙に聖属性の攻撃で魔王を退治してください』


「魔王ゼウスクトニオスは冥府の王妃に関係があるのか……。よし、聖女リリアに勇者ユーリの魔法剣を祝福してもらおう」


 ディアナのおかげで、魔王を退治する目途がついた。

 俺にできることは、応援くらいしか無いな。


「ディアナ。何があっても俺が責任を取ってやる。だから、今は全力で魔王を倒そう!」

『せ、責任?魔王を倒したら、責任をとるって、そういうことですよね!?……私、頑張ります!』


 ん?

 なぜかディアナが、がぜんやる気を出している。

 ディアナは真面目だから、冥府の王妃の使徒の義務を果たすとかそういう方向かもしれないな。


「よ、よし。ディアナ頑張れ」

「はい!」

 ディアナの瞳が金色に輝く。

 魔王ゼウスクトニオスの周囲に、魔王の権能を封じる結界が構築された。


「勇者に神の祝福を。エンチャント・ホーリーウェポン!」

 聖女リリアの祈りによって、ユーリの魔法剣が清浄な光を放つ。


「魔王よ!これが愛と勇気と絆の力だ。神聖魔法剣シャイニングクロスブレイド!」

 そして、さりげなく必殺技を捏造した勇者ユーリの斬撃によって、魔王ゼウスクトニオスが討伐され、量産されたアンデットも同時に消滅したのであった。


 なお、ディアナは冥府の王妃の加護が消えると女神めいた衣装が消滅してしまうため、加護が消える前に急いで温泉旅館に飛んで帰った。


--

 その後、王立魔法学園の図書館で冥府の王妃ペルセフォネーについて調査したところ、魔王ゼウスクトニオスは冥府の王ハーデースの化身であることが判明した。


 この事実は、ディアナが冥府の王妃の使徒となったときに得た知識と合致した。

 魔王ゼウスクトニオスは、露天風呂に安置されていたペルセフォネーの像に残った僅かな神気に向かって移動していたと推測される。


 そこで俺たちは、魔王の復活を防ぐため、温泉旅館の隣に冥府の王と王妃、二柱を祭った神社を建立こんりゅうした。

 神社の名称は、夫婦温泉神社。

 誰でも自由に参拝できる明るく開かれた雰囲気で、冥府の王の威厳は欠片も無い。


「本当に良いのかユーリ?勝手に冥府の王を温泉の神様にしてしまっても」

「もともと君が言い出したことじゃないか。神はその権能を信仰によって後付けされるって」

「いや、まさか本当に神社を建立することになるとは思わなかったんだ」


「君の書いた報告書レポートを読んだよ。――冥府の王と王妃は夫婦であり、冥府も温泉も地下にその源を持っている。よって、二柱を同時に祭れば夫婦温泉神社のご神体となって地域の発展に寄与するだろうってね。僕は、君の報告書を信じるよ」

「ありがとう。ユーリ」


 ディアナは、冥府の王妃の使徒となった。

 本人にその気が無くても、やがて闇や死といったネガティブな要素に巻き込まれるおそれがある。


 だが、仕える神が夫婦温泉神社のご神体に変じたならばどうだろうか。

 子孫繁栄をもたらす夫婦と、けがれを落とす温泉からはポジティブな要素しか感じられない。


 これは、ディアナに幸福になって欲しいという俺の願いなのだ。


「ダメでもともと。やるなら徹底的にやらないとね。お客さんをたくさん呼べば信仰が広まるし、領地も儲かる」

 そう言って、ユーリは笑った。


 現在、神社の周辺には、飲食店やお土産屋さんが軒を並べて建築されつつあり、やがてここは神社と温泉を中心とした観光地になるだろう。


「そして、メイド喫茶に着想を得た、巫女さん茶屋を出店する。これは流行はやる!」

 ユーリが全力でプロデュースした、巫女さん茶屋の給仕は、ユーリのパーティーメンバーが担当する予定である。


 なお、給仕の衣装は、着用者の個性に合わせて少しづつデザインを変える凝りようである。

 周囲の人たちは、その斬新な企画を賞賛していたが、俺だけは知っている。

 あれは完全にユーリの趣味だ。


--

 夫婦温泉神社の様子を見に行くと、純和風巫女衣装に着替えたディアナがやってきた。


「ねぇ、どうかしらこれ……変じゃない?」

 ディアナは、冥府の王妃の使徒となってしまった都合上、三ヶ月に一度程度は巫女として奉仕することに決まったのである。


「ヤバい。かわいい。尊い!」

 ディアナは、ファンタジー世界の黒髪の美少女である。

 巫女衣装が似合わないわけがない。


「どうして語彙が貧弱になってるの?」

 しまった。

 巫女衣装のディアナに見とれて、呆れられてしまった。

 話題を変えよう。


「実は、ずっと心配だったんだ。冥府の王妃の使徒となったディアナが、そのままどこかに行ってしまうような気がして……」

「その結果が夫婦温泉神社なの?」

「やっぱり、マズかったかな?」

「いえ、王妃は王と一緒に祭られてとても喜んでいると思うわ。だって、好きな人と離ればなれになるのは、とても寂しいもの」

「あぁ、そうだな」


「だから、あなたはずっと私の傍に居てね?」

 不意に真剣な表情で、じっと見上げられてしまった。

 ディアナは、心配性だな。


「もちろん一緒にいるよ。夫婦温泉神社の神様に誓って」

「うん、ありがとう」

 ディアナがようやく微笑んでくれたので、俺は調子に乗ってこう言った。


「でもさ。夫婦温泉神社って名前、ちょっとえっちじゃない?」

「あぁっ!今、ここで、そういうことを言う?あなたって、ほんとに……」


--

魔法学園の劣等生による魔王討伐記。冥府の王妃編おわり。


拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

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