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98、天界 〜画面に釘付けのフロア長

 俺は、ロロ達と、新たな集落の候補地の件について細かな打ち合わせをした後、集落のパワースポットの結界から出た。


 すると待ち構えていたかのように、すぐに天界への強制転移が発動した。アイさんが言っていた通り、この集落の結界はあらゆるものを防ぐ能力を備えているのだ。


 この結界の源は、古の魔王トーリのパワースポットだ。天界が干渉できないことがわかったのは、ちょっとした成果だな。



 ◇◇◇



「アウン・コークンさん、おかえりなさい。こちらの確認が追いつかないほどのスピード解決、ありがとうございました」


 転生塔の10階に戻ってくると、見知らぬ男が声をかけてきた。その雰囲気から推察すると、除霊塔の管理者だろうか。


 いつもならフロア長が待ち構えているが、今回は俺の帰還が遅れたのだろう。フロア長は、いつもの席に座り、画面を凝視しているようだ。


(また、何かあったのか?)


 そして、その背後には、緊急要請の際に謝っていた男と、見知らぬ陰気そうな男もいる。コイツが、やらかした新人除霊師だな。確か、霊鳥の卵を割ったのだったか。



「いえ、別に……」


 俺は彼らを咎める気にはならない。短く答えて、フロア長に視線を移す。彼はまだ、画面から目を離さない。


 アイさんの話から、今回の山火事は、なんだか陰謀のようなものを感じた。何者かがキニク国を滅ぼすために、あんな場所にいるはずのない炎の霊鳥の卵を置いたのだろう。


 金色に輝く巨大な鳥……魔王キニクの転生体が、アイさんに何かを語ったのだろうな。俺には鳥の言葉はわからなかったが、アイさんは頭の中を覗く力がある。意思疎通ができるのだろう。


(別件だと言っていたか)


 なぜアイさんは、魔王キニクの転生体と関わり、そして、古の魔王トーリのパワースポットがある集落へと行ったのだろう? 


 まぁ、ブロンズ星にいたときに山火事を知って、たまたま魔王キニクの転生体と遭遇しただけかもしれない。あの集落に用事があるようだったからな。



「あ、あの……」


 俺が黙っていたためか、俺を待ち構えていた三人は、さっきよりも顔色が悪い。


「はい? 何ですか」


「いえ、あの、大変申し訳ないと……」


(聞こえねー)


 消え入るような小さな声だ。俺は、ただ、フロア長がこちらに気づくのを待っているだけなんだが。


「もう山火事は消えましたから、そんなに謝ってもらわなくても大丈夫ですよ」


 俺が返事をしたことで、彼らの表情は少しやわらかくなった。カチコチに緊張というか、ビビっていたようだからな。


「アウン・コークンさんには、大変な損害を与えてしまいました。これからの、森林の再建にも莫大な資金が必要になってしまいます……」


 そう言うと、除霊塔の管理者らしき男は、深々と頭を下げた。新人らしき男も、今にも死にそうな暗い表情で頭を下げている。


(はぁ……うっざ)


 天界人が、箱庭売買や権利株売買にハマっているから、ここまで死にそうな顔をしているのだろうか。


 女神から与えられた知識によると、これは、領地侵害に当たるようだ。復興のための費用と、箱庭の下落による損失補填要求、さらには慰謝料請求など、いろいろな措置にでる奴が多いのだろう。


 そして、払えなければ借金地獄が待っている。


 ふと、毒舌幼女が借金地獄のことを語っていたことを思い出した。塔の入り口にある趣味の悪い像は魔道具で、アイツはそれをぶっ壊して、経理塔から借金をしたらしい。


(ふっ、バカなやつ)



「そんなに気にされると、こっちまで暗くなります。新人がやらかしたのなら、仕方ないですよ。わざとやったことなら、俺はキレますけどね」


「わざとではありません! 知らなかったのです。触れると割れてしまうだなんて……あ、いや、知っていたのですが……じゃなくて、うわぁあ〜」


 新人らしき男は、頭を抱えてその場に崩れるように、しゃがみ込んだ。まるで、下手な芝居を見ているようだ。


(はぁ、うっざ)




「アウン・コークンさん、おかえりなさい。一撃で消火したそうですね〜」


 フロア長が俺の方へとやってきた。だが、吸血鬼のような顔は、いつものように笑えていない。


(やはり、何かが起こっているか)


「フロア長、画面に釘付けでしたが、何があったんですか」


「あー、うん、ちょっとまだよくわからないんだよね。現地の状況は、大魔王も自ら調査を始めたみたいだ」


(げっ、アイリス・トーリが?)


 フロア長は、チラッと、俺の近くでへたり込んでいる新人除霊師に視線を移した。大魔王の正体は知られていないから、余計なことは言うなということか。



「キニク国の滅亡は、誰かの陰謀ですかね?」


 俺がそう尋ねると、フロア長は少し驚いたようだが、しばらくして微かに頷いた。なるほど、それを探っているのか。


「スパーク国は、さすがに大丈夫だとは思うけど、あの付近の土地は、ちょっと様子がおかしくてね。活動期に入ったのかもしれない」


(は? 活動期?)


「火山か何かですか?」


「へ? あー、いや、土地自体ではないんですよ。天界人にはいろいろな考えの人がいるからね。ゴールド星での会議が荒れたみたいでね」


(はい? 会議?)


 あー、バブリーなババァが、天界にメルキドロームを使うとか何とか言っていたアレか?


「ブロンズ星に武力介入ですか」


 俺がそう尋ねると、フロア長は目を見開いた。なぜ、驚く? ゴールド星での神々の会議を、バブリーなババァが途中退席したことを俺が知っていると、気づいてないのか? 俺がなぜシルバー星に行ったか、フロア長はわかっているはずだ。


 天界人の一部が、ブロンズ星で何かをしようとして動いている……そう考えるのが自然な流れだと思うがな。


「調査中ですよ。アウン・コークンさんが買った箱庭は、山火事の復興が終わったら、手放す方がいいと思いますよ。あっ、それから、報酬を取りに行った後でいいので、天災塔へ行ってあげてください」


(天災? 人災だろ)


 フロア長はそう言うと、いつもの席へと戻っていった。



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