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97、深き森 〜意外と鈍いカオル

「この少年に何をしたのですか!」


 アイさんが、目の前に転移してきた。


 すると、この場にいたすべての者が、彼女にひざまずいた。


 彼女は、自分が天界人だと知られないようにしているようだが、それにしても、この扱いはすごいな。まるで、神か何かのようだ。



「俺と話していて、突然倒れたんですよ」


 俺がそう話すと、アイさんはロロ達の方を見ている。だがロロ達は何も話さない。ただ、跪いたまま、ジッとしている。


(頭の中を覗いているのか)



「この少年には、それは強いストレスになるのですよ」


「はい? 何がストレスなんですか」


 彼女の言葉に、俺は反射的に反論してしまった。良好な関係を築きたいのに、失敗したな。


 やはり彼女はカチンときたのか、俺を睨みつける。なんだか、アイさんっぽくない表情だ。


「尋ねる前に自分の頭で考えろ! ス……あっ……えーっと……」


(うん? このセリフ?)


 どこかで聞いたことのあるような威勢のいい毒舌。そして、ス……なんだ? 俺と話すこともストレスになると言いそうになったのか?


 彼女は、何か慌てている。もしかしたら、こっちの方が素なのかもしれない。気取った話し方をしているが、実は口が悪いのか。


(ふっ、悪くない)



 自分で考えろ、か。だが、俺にはなぜ少年が倒れたのか、わからない。ただ、口論をしていただけだ。そして少年、魔王クースが、まるで自分のことを、古の魔王トーリかのように……。


 あぁ、そうか。魂の記憶に古の魔王トーリの刻印があるということは……。


「魂の記憶の刻印は、術者の呪いか」


 ポツリと独り言のように呟くと、アイさんは頷いた。


 おそらく、その呪いには、古の魔王トーリの意思が込められている。感情を強く揺さぶられると、古の魔王トーリの意思が表に出てくるのか。


 そして、そこで不調和を起こし、少年は気を失った。魔王クースが霊体だからだろう。上手く切り替わらずに、意識がとんだのか。



「呪詛ですね。そうでなければ、長きに渡り刻印を維持することなどできませんわ」


(口調が、戻ったな)


「あの、アイさん、無理してませんか?」


「何のことかしら?」


 すっとぼけているが、この丁寧な話し方は、彼女にとってストレスなのだろう?


「その話し方は、自分らしくないのでは? 気楽に接してくださいよ、セ・ン・パ・イ」


 少しおどけた言い方をしただけだが、なぜか彼女は、怒りのオーラに包まれた。


(あっ、失言した)


 今の俺の、先輩発言は、彼女が天界人だとバラしてしまうことになったか。ロロ達の顔色が青ざめている。



「その、セ・ン・パ・イっていう嫌味な言い方は、どういうことかしら?」


 ピキピキと怒りに震えるアイさん。だが、悪くない。


 何の先輩かと、尋ねているのか? ロロ達には天界人だとはまだ、ぎりぎりバレてないかもしれねぇな。


「あー、えーっと、人生の先輩、的な?」


「はぁ? 何を言っているのだ! スカタン!」


(スカタン?)


 勢いよく毒を吐いて、ハッとしている彼女。ふっ、だが、その方が話しやすい。


「毒舌ですね、アイさん。でも、その方がいいですよ。気取った話し方をするのは、ストレスなのでしょう?」


「チッ! いつから知っていた? この者達には私のことは、何も話さないように命じていた。私は、とんだ道化どうけではないか!」


(何を言ってんだ? コイツ)


「何のことでしょう? あぁ、照れ隠しですか。でも、そんな風にポンポンと話してくれる方が、俺は好きですよ」


 俺がそう言うと、アイさんは妙な表情を浮かべている。戸惑っているのか?



「もしや、気づいてないのか。はぁぁ、どっちだ? なぜ、そんな魔王の波動を覚えた? いや、尋ねる必要もないことだ。彼女がそうしたのだろう」


 なんだか地団駄を踏みそうな……チビッ子な……うん?


「何をおっしゃっているのか、イマイチわかりませんが……まぁ、俺の今の状態は、ちょっと訳ありでしてね」


 バブリーなババァの話をしてはいけない。アイさんが、どっち派かはわからないからな。


「ふむ、まぁ、よい」


 彼女は、急に落ち着いた様子で、転がっている少年に手をかざした。ふわりと柔らかな光が放たれると、少年は目を覚ました。




「あっ、だっ、えーっと、アイさん」


 少年、魔王クースは、彼女を別の名で呼ぼうとしたようだ。念話か何かで、制したのか。


 アイさんは、俺には知られたくない秘密を抱えているらしい。だから、挙動不審だったのだな。


(ふっ、面白い)



 俺は、おそらく彼女に、好意を持ち始めている。魔王クースに何かの術を施す姿は、まるで女神のように美しい。だが口を開くと、親しみやすい毒舌キャラだ。


 あの毒舌幼女アイリス・トーリと、やはり血縁関係があるのだろうか。なんだか、とてもよく似た部分がある。


 アイリス・トーリは、俺の教育係であり、大魔王リストーでもある。本来なら新人転生師の俺には、近寄ることもできない高貴な身分だよな。


 最初はムカついたが、毒舌幼女と話すことは嫌いじゃない。逆に楽しいとも思う。だから、彼女の素性は知りたくなかった。


(まさか、俺は……)


 アイさんに好意を抱き始めているのではなく、アイさんが毒舌幼女に似ているから惹かれる? いや、はぁぁ、わからねーな。




「あー……ウンコくん……さん」


「は? あー、俺の名前を呼びました?」


「何を呆けているのですか。そろそろ時間ではなくて? ここにいると、天界の強制転移は発動しないわ」


(また、口調が戻ってる)


 そうか、パワースポットの結界か。失敗したな。できれば、ドム達にも知らせに行きたかったが。



「アイさんも戻りますか?」


「いえ、私は別件で来ているから」


(だよな)


 彼女は、自由にブロンズ星に出入りする財力があるのだろう。それに、ロロ達とも面識がある。


「アイさん、頼みたいことがあるんです。前にお会いした場所に行けば、会えますか?」


「転生塔かしら?」


(ん? 天界人だとバレるぞ?)


 俺は軽く頷いた。


「わかったわ。報酬の精算をしたら来なさい。その頃には戻っておくわ」



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