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95、深き森 〜落ち着きのない彼女

「貴方が、なぜ……ここに」


 アイさんは目を見開き……言葉が続かないらしい。俺が先に来ていたこの偶然に驚いているのだろうか。


(それは、俺のセリフなんだがな)


 この集落は天界人を嫌っている。なぜ、転生塔の管理者の補佐をする彼女が、こんな場所に出入りしているのだ? しかもロロ達は皆、彼女に頭を下げ、ひざまずいている。



「アイさんこそ、なぜ? この集落の人達は、天……」


「わぁぁっ! ちょっと待って!」


 彼女は、俺の言葉を遮った。なるほど、天界人だということは秘密にしているのか。


(ふっ、そんな顔もするのか)


 アイさんは、俺に口止めをしつつ、なんだかハラハラしているようだ。跪いている奴らを見回し、ソワソワと落ち着きがない。



「わかりました。俺は何も言いませんから安心してください」


 俺は、なるべくやわらかな笑顔を浮かべ、彼女に軽く会釈をしておいた。


(ロロと話したいが……)



 アイさんは、俺がロロを見ていることに気づき、集落の奥へと歩き始めた。気を遣ってくれたのか。


 彼女の姿が見えなくなると、ようやくロロ達は立ち上がった。


 アイさんは、天界人だという素性を隠して、この集落を助けているのだろうか。いや、監視か。魔王クースが生まれるパワースポットを、転生塔の管理者が放置するわけがない。




「カオルくん、大魔王様とも普通に話せるんですか」


(は? 何だ突然?)


 大魔王リストーは、天界人アイリス・トーリだ。俺の……いや、死神の鎌持ち全員の、教育係をしているんだったか。


 彼女は天界では、幼女アバターを身につけている。あのアバターは、チカラを抑えるためのものらしいが、見た目を可愛らしく見せることで、近寄りがたさを排除しようとしている気がする。


(ふっ、それでもボッチだが)


 俺も見た目がクールすぎる暗殺者みたいだから、少しはわかる。常に笑顔を心がけていないと、周りが怯えるからな。



「まぁ、大魔王リストー様は、俺の教……じゃなくて、俺は、大魔王様と共闘したことがありますからね」


(あ、あぶねー)


 大魔王の素性は、ブロンズ星では秘密なはずだ。転生直後の俺にも教えられていなかったからな。危うく、俺の教育係だと言いそうになってしまった。



「そうなんですか! カオルくんって、すごいですね」


 なぜかロロは、目をキラキラと輝かせている。近くにいた他の人達も、スパーク城の使用人はもちろん、この集落の住人も同じ反応だ。


 もしかするとロロは、俺の地位を上げるために、突然、大魔王の話をしたのかもしれないな。



「ロロさん、そんなことより、この森の箱庭を買うことができましたよ。だから、もう他の天界人や魔王に怯える必要はないんです」


「えっ? もう、買えたんですか」


「はい、ちょうど、いろいろなことが重なったので、時間を遡って知らせに来ました。だから正確には、もう半日ほど未来のことですが」


「わぁっ、カオルくんの領地なんですね! じゃあ、カオルくんは魔王……じゃないから領主様かな」


 ロロが大きな声で騒ぐから、あちこちの小屋から俺を見ようと、いくつもの顔が、こっそり覗き見をしている。


(直視するのは怖いのだろうな)


 だが、どの顔も不安そうに見える。天界人が領主だというのは、さすがに抵抗があるだろう。この集落に、ドム達マチン族を招こうと思っていたが……ちょっと距離を離す方がいいな。


 ムルグウ国のレプリー達の村も、保護してやりたい。あのままだと、俺が落ち着かない。彼らの意向も聞いてみる必要があるが、できれば、俺の領地に住まわせたい。


 だが、レプリー達のような人間は、魔族と同じ集落では暮らせないだろう。ブロンズ星では、人間は最も魂の格が低いらしいからな。


 ふむ、それそれが交流できる距離感で、別の集落を作ろうか。深い森だから直線距離が近くても、草原よりは、互いに気にならないだろう。



「カオルくん? どうしたんですか? まだ怪我が痛みますか」


 ロロが心配そうに、俺の顔を覗き込む。


(ふっ、いい奴だな)


「怪我は大丈夫ですよ。領地をどう活用しようかと考えてたんですが……」


 俺がそこまで言いかけると、この集落の住人が緊張したのが伝わってきた。奴隷にされるとか、変なことを考えてる顔だ。


「カオルくん、でも、山火事が……」


「北側がかなり焼失しましたね。まぁ、それは、いいんです。もう山火事は消えたから」


 ロロは、うんうんと頷いている。だが、ここの住人……原住民は気が気じゃないようだ。


「南側が大丈夫なら、よかったです。えっと、領地の活用ですか?」


 ロロは、スパーク国を心配していたのか。やはり、魔王スパークの民を想う気持ちは、しっかりと伝わっている。まぁ、ロロ達は、魔王スパークの子供だけどな。



「ええ、領地の活用ですよ。山火事の後片付けも俺の仕事になりそうなので、移住計画を先に進めようと思います」


 そう話していても、俺達の話を聞いている原住民の表情は変わらない。その話を先にしてやるべきか。


「移住? この森にですか? 魔物が絶えず湧いてくるから、危険ですよ。北側は特に……あっ、山火事になったから、この付近に強い魔物が逃げてきたかも」


 ロロは、困った顔をして考え込んでいる。ふっ、お人好しすぎるだろ。真剣に考えてくれている姿は、俺の心を温かくしてくれる。


「魔物が増えている話は、魔王スパーク様からも聞いています。それは逆に、変な奴らが近づかないから、悪いことばかりでもないですよ」


「そう、ですけど〜」



 話が途切れる瞬間を待っていたかのように、一人の男が口を開く。


「あの、領主様は、この集落に住むのですか」


 怯えながらも、口にできたことを褒めてやりたい。ここの原住民の魔族は、ロロ達よりも、かなり弱そうだもんな。


「俺は、ここには住まないですよ。死神の鎌持ちだから、魔王クースが生まれる集落にいると落ち着かない。少し離れた場所に、マチン族の集落を作ろうと考えています。俺の家を建てるなら、そこかな?」



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