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91、天界 〜バレてる

 それから3週間ほどの時が流れた。


 俺の核の傷も、ようやく治ったようだ。たまに自分の能力サーチをしているが、昨夜、怪我による能力低下の記載が消えたことに気づいた。



「カオル、もう大丈夫だ」


(へぇ、やるな)


 ほぼ毎日、ヒーリング魔法をかけに来てくれていたドムから、完治宣言が出た。サーチ結果とも一致する。ドムの能力の正確性がわかる。



「そうか、ドム、ありがとう」


 俺が素直に礼を言うと、ドムは慌てたような表情を浮かべた。


(なんだ?)


「カオル、天界に戻るんだな」


 ドムは、小さな声で呟いた。寂しいと思ってくれているのか。3ヶ月もの時間を、ずっと一緒に居たからな。


「そうだな。怪我が治るまでの置物ミッションだったからな」


「そうか……」


 ドムは、言葉が続かないらしい。


 スパーク城から戻ってからは、あの森の話はしなかった。魔王ムルグウが、俺達の動向を気にしていたこともある。だが、俺は、あえて話さなかった。ドム達マチン族にも、考える時間や逃げる選択肢が必要だと思ったからだ。



「天界に戻ったら、箱庭を買う。たぶん、たいした広さは買えないと思うけど、友と約束したからな」


 俺が、あの森の話を始めると、ドムは、神妙な表情に変わった。


「そうか。天界人らしくないな、カオルは」


 ドムの言葉は、褒め言葉だろう。天界人のくせに、スパーク城の使用人との約束を果たすと言っているのだからな。だが、これは、魔王スパークの願いでもある。


「ふっ、俺は天界人が嫌いだからな。もしドム達にその気があれば、移住希望者を集めておいてくれ」


「わかった。だが、あんな深い森の小さな集落には、たどり着ける気がしない。あの場所へ通じる道はないらしいぜ」


 あの森に入ったら、ドム達なら、古の魔王トーリのパワースポットが誘拐するはずだ。だが、それは、ここでは言えないな。


(聞き耳を立てやがって)



 俺は、扉の方を睨み、そして、ドムにタオルを渡した。レプリーの村で買った白いタオルだ。


「あんな場所まで、行かなくていい。箱庭を買ったら迎えに行く。移住したいなら、ここで待っていてくれ」


 ドムは、俺が言いたいことがわかったらしい。タオルを振って、ニヤッと笑みを浮かべた。


「あぁ、わかった。どれくらい先のことだ?」


(その質問は困る)


 天界に戻って、箱庭を買って、魔王スパークのミッションを探して受注する……。転生塔の管理者に捕まる可能性もあるか。だが魔王スパークが、至急用件にしていれば、時を遡って来ることもできる。


「時差が半端ないから、正確なことはわからない。早ければ、数日後、遅くても1年以内って感じかな」


「あはは、全然、目安にならないな」


 ドムは、白いフードを深くかぶって笑った。ドムが時々やる癖だ。気分が不安定なときの仕草だと思う。俺が適当にはぐらかしたと、感じたのかもしれない。


(何か、渡しておこうか)



「ドム、これを預けておくよ」


 俺は、魔法袋から細い剣を取り出した。魔王スパークが俺にくれた剣だ。


「えっ!? カオル、これは……すごく貴重な物なのだろう? もし、失くしたりすると……」


 ドムも、魔王スパークの名前は出さない。今、言いそうになったみたいだがな。目をパチクリさせている。


「あぁ、失うとマズイ。だから、ドムに預けておく。天界でアイテムボックスにうっかり入れちまうと、地上では取り出せなくなるからな」


「俺を……信用してくれるのだな」


「ふっ、当たり前だろ。ドムも、俺の友だからな」


 俺がそう言うと、ドムは目を見開き、そしてフッとやわらかな笑みを浮かべた。




 コンコン!


「アウン・コークン様、天界より業務終了の連絡が届きました。魔王ムルグウ様の謁見の間へ、お越しくださいませ」


 扉の外から声がした。この声は、魔王ムルグウの娘婿か。俺を怖がって、近寄ろうとはしない獣系魔族だ。


「あぁ、わかった」


 そう返事をすると、逃げるように足音が遠ざかっていく。


「あれは、相変わらずだな」


 ドムは、吐き捨てるように呟いた。マチン族は強いから、使われる弱者の気持ちがわからないのだろうな。




 俺は、魔王ムルグウの謁見の間へと、移動した。


 魔王ムルグウは、なんだかんだと言い訳まがいのことを話していたが、俺は、適当に聞き流していた。


 あまりにも長い言い訳に、苛立ちを感じ始めた頃、強制転移のアナウンスが頭に響いた。転移塔の魔女っ子も、しびれを切らしたらしい。


「あー、転移が発動するようです。では皆さん、お世話になりまし……」


 そう挨拶している途中で、俺は転移の光に包まれた。




 ◇◇◇




「アウン・コークンさん、おかえりなさい。大丈夫ですか?」


 俺は、転生塔の10階に戻ってきていた。俺としては3ヶ月ぶりだが、天界では、6〜7時間しか経過していないだろう。


「フロア長、もう完治したみたいです。というか、完治した直後に帰還転移でしたが」


 すると、なぜか魔女っ子が、仁王立ちで俺を睨んでいた。


「うん、ちょっと急いでたんですよ。アウン・コークンさん、戻ってきたばかりで申し訳ないんですが、スパーク国からの至急用件をお願いできないかな」


(至急用件にしたんだな)


「わかりました。ちょっと、自室に戻ってからでいいですよね?」


「まぁ、うん、そうだね。あぁ、ムルグウ国の報酬をもらいに、経理塔に行ってからでも構わないが……」


「フロア長! そんな暇はありませんっ」


 仁王立ちの魔女っ子が怒鳴った。


「まぁ、でも、時を遡れるからさ」


「緊急要請になりますよっ! もう、その連絡が来ています。アウン・コークンさん! なぜ魔王スパークに、キニク国の件を教えたのですかっ!!」


(なぜ、バレてる?)


 あぁ、そうか。俺がスパーク城へ行ったことを見ていたか。その上で魔王スパークが、キニク国の調査依頼を出せば、俺が教えたとバレる。置物ミッションの終了条件は、俺の完治だったから、行動を追われていたのだな。



「あの深い森が焼失すると困るから、お願いしますね」


(は? 焼失?)



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