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89、深き森 〜混乱と説得

 俺の宣言に、その場にいた男達がざわついた。


「カオルくん、僕達を……でも、カオルくんは天界人で、天界人は魔王トーリ様を許さないから……」


 ロロは、混乱しているようだ。


(なるほど、それが理由か)



 ロロ達の反応から、古の魔王トーリの末裔であるマチン族が、しいたげられている理由がわかった気がする。


 彼らは、定住の地を探していた。だが、まさか、こんな深い森に彼らの住むべき場所があるなんて、知らなかったのだろう。


 この森には、人の住む集落はないと言われていたようだ。これは、このパワースポットに近づけさせないために天界人が仕組んだ嘘だろうな。


 おそらく天界人は、魔王トーリの刻印を持つ者を魔王クースにしないために、他にもいろいろなことをしているのだろう。マチン族をしいたげるように仕向けていたのも、天界人か。マチン族なら、より多くの者に、その刻印があるはずだからな。


 だが、元凶は、古の魔王トーリか。いや、そもそも、こんな魂の転生システムを作った天界がおかしい。


 なぜ、マチン族や魔王トーリの国の住人だった者達が、こんな目に遭わないといけない? 自分達のケンカに、後世の民を巻き込みやがって!



『魂の記憶に、古の魔王トーリの刻印がある全員だよ』


 魔王スパークがそう言っていた。そして、この森は、マチン族が住むべき場所だとも言っていたよな。


(アイツは反天界派か)



 魔王になってしまうと様々な縛りがあるから、天界の批判も言えないんだったな。だが、俺をこの場所へと向かわせたのは、魔王スパークだ。


 もしかすると、アイツは、そろそろ俺が来る頃だとわかっていて、ロロ達をこの森に近づけたのかもしれない。そうすれば、俺が捜しに行くに決まっているからな。


 俺は魔王スパークに、まんまと踊らされているような気がする。だが、それを言うなら、シルバー星のバブリーなババァか。


 天界の縛りを受けず、天界からの干渉をはね返す戦闘力のある天界人……。俺は、そんな手駒として選ばれたらしい。


 魔王クースに転生する者は、天界の魂の転生システムは適用されないようだ。それが、刻印転生。だが魔王クースは、古の魔王トーリに縛られた可愛そうな存在だと感じる。




「カオルくん?」


 ロロが心配そうに俺の表情をうかがっている。俺が、少年を睨んでいるように見えたのか、魔王クースと俺の顔をチラチラと見ている。


「あぁ、ロロさん、ちょっと考え事をしていました」


 俺は、掴んでいた少年を解放した。すると、彼は再び目を見開いた。


「キミは、本当に我を喰わないのか?」


「は? 喰って欲しいのですか? 俺は、まだ一度も、鎌にエサを与えていない。だから、この衝動にも耐えられる。天界では、鎌にエサを与えると強くなれると、エサやりを推奨していますけどね」


「そう、なのか。キミは……魔王トーリ様が憎くないのか?」


 少年は、俺を真っ直ぐに見て問いかけた。


「古の魔王トーリか。会ったこともない奴のことを尋ねられても、俺は答えようがないですよ。天界と魔王トーリの関係にも、特に興味はありませんね。そんなことより、俺の連れを返してもらいますよ」


 俺は、マチン族の二人がいる小屋へと向かって、歩き始めた。後を追ってこようとした男達を、ロロが制している。




 コンコン!


 一応、ノックしてみたが、誰も出てこない。俺は、扉を開けた。


(あっ、壊れたか)


 結界か何かが割れるような音が聞こえた。まぁ、仕方ない。



「あっ! カオル、無事だったか」


 俺に気づいたドムが、ホッとした表情を見せた。俺の生死を心配していたかのようだな。


「ドム、迎えに来た。二人とも、帰るよ」


「そういうわけにはいかない。キミはどうやって忍び込んだ?」


 マチン族の二人を監禁していた者達が、一斉に剣を抜いた。


(面倒くさいな)



「カオルくん、殺さないでくださいよ?」


 背後から、ロロの声がした。ロロの登場に、剣を持つ者達が混乱しているようだ。


「ロロさん、俺の連れを返してもらいますよ」


「わかっています。カオルさん、さっきの話は信じていいのですね?」


 ロロは表情には出さないが、その目は、俺を信じたいと語りかけてくるようだ。


「俺が、ロロさんに嘘をつくと思いますか? それに、どうやら、俺はいろいろな奴らから、こうする役割を押し付けられたようです」


「えっ? まさか、魔王スパーク様ですか」


「ふっ、魔王スパーク様だけじゃなさそうですね。スパーク国南部を治めていた元魔王が、俺を……いや、転生塔の管理者かもしれませんね、俺を手駒にしようと選出したのは……」


「カオルくんを手駒に? やはり、天界人の……」


 ロロの表情は、揺れ動いている。まぁ、信じられないだろうな。俺も、どこまでが反天界派なのか、わからない。


「ロロさん、俺は、天界人が嫌いです。理不尽な転生を強いられた。俺を手駒に選んだのは、天界を嫌う天界人だと思いますよ」


「そう、なんですか」


 戸惑いの表情を見せるロロに、俺は微笑みを向ける。


「とりあえず、箱庭を買うには天界に戻る必要があります。とは言っても、俺は今、ムルグウ国で療養中なので、数週間後かな? 箱庭を買ったら、また来ます。それまで、アンゼリカを死なせないでくださいね」


 俺がそう言うと、ロロは素直に頷いた。


「カオルくん、怪我をしているのですか」


「まぁ、ね。シルバー星で、やられました。そのうち、機会があれば話しますよ」


 シルバー星への憧れが強いロロ達に、現状を話すわけにはいかない。それに、おそらく禁止事項だろう。



「ドム、帰るよ」


「あぁ、だが、どうやって?」


「空の旅かな」


 俺は、ドムと、トーリの名を継ぐ男の腕を掴んだ。


「ロロさん、じゃあ、また」


 ロロは、マチン族の二人を見逃してくれるようだ。軽く頷き、道を開けた。



 俺は、浮遊魔法を使う。


 空へと上がっていくと、集落を覆っていた結界に裂け目ができた。意思を持つパワースポットも、俺を信じてくれたようだな。



 俺達は、そのまま、スパーク城へと飛んで行った。



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