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85、深き森 〜離れ離れ

 俺は、一瞬、思考が停止した。


(なぜ、消えた?)


 俺だけがこの場に取り残されている。マチン族の二人との違いは……彼らが倒れた魔物に触れていたからだろうか。


 魔物の飼い主が帰還魔法か何かを発動したなら……いや、そもそも帰還魔法を仕掛ける能力があるなら、交戦中の敵を招き入れるような失敗はしないか。


(考えていても仕方ないな)



 俺は、付近にサーチ魔法を使う。頭の中に一気に情報が飛び込んでくる。だが、魔物ばかりだ。


 さらに広域にサーチの範囲を広げたが……。


(くそっ、頭イテー)


 情報が一気に届いて頭がズキズキする。だが、マチン族の二人は、サーチに引っかからない。これ以上の広域サーチは、今の俺には厳しいか。



 マチン族の二人が、忽然と消えたのは、やはり転移魔法だよな。帰還魔法も、転移魔法の一種だ。だが、発動時に現れるはずの転移の光には気づかなかった。


(跡を探すか)


 転移魔法なら軌跡を辿ることができるはずだ。俺は、この場に残る魔力の痕跡を探す。しかし、何の魔力も感じない。


(あっ、風か?)


 彼らが忽然と、魔物と共に消えた後、ふわりと生温かい風が吹き抜けた。あの風が、魔力の痕跡を消し去ったのか?



 ふと、頭の中に、魔王スパークの言葉がよみがえってきた。


『魂の記憶に、古の魔王トーリの刻印がある全員だよ』


 そうか、意思を持つパワースポットが、ロロ達を誘拐していると言っていた。マチン族は、古の魔王トーリの末裔だ。魂の記憶に、その刻印があってもおかしくない。


 そもそも、スパーク国も、古の魔王トーリの国の一部だったなら、多くの住人の魂にその刻印が刻まれている可能性もある。



 俺は、高く跳躍し、空中で静止した。


(とんでもないジャングルだな)


 かなりの距離をドム達と歩いてきたが、俺が浮かぶ場所は、この深き森の南端だ。


 背後には、すぐ近くにスパーク国の畑が見える。そして前方も左右も、見渡す限り森が広がっている。


 目に少し魔力を込めて見てみると、やっと前方には、森の先に砂地が見える。左右は、森林しか見えない。


(あれは、古い地図か)


 魔王スパークが見せた地図とは、現状は少し違うようだ。あの地図では、深き森は、国境代わりの緩衝地帯に見えた。まぁ、広すぎるとは思ったが。


 だが、こうして上空から見てみると、森は地図よりも、かなり広がっている。


 魔王クースが生まれるパワースポットの位置は、正確に記憶したつもりだった。だが、不安しかない。もともとの地図が、実態とは異なるのだからな。


(一応、向かってみるか)


 俺は、記憶に従って、空中を飛んでいく。あまりスピードは出さない。マチン族の二人の姿を捜しながら、そして、深き森の様子を探りながら進んでいった。




 ◇◆◇◆◇



「はっ? ここは……」


 マチン族のドムは、気がつくと見知らぬ集落に居た。すぐ隣には、トーリの名を継ぐ男が倒れている。


 そして、カオルが動きを奪った16体の魔物も、すぐ近くに倒れていた。だが、カオルの姿はない。



「おい、大丈夫か? 起きろ」


 ドムは、トーリの名を継ぐ男にヒーリング系の術を使いながら、周りの様子を確認する。


「広い集落、か?」


 ドムは、カオルと行った人間の集落よりも、さらに原始的な印象を受けた。時の流れから置き去りにされているような、粗末な小屋が隙間なくグルリと並ぶ。


「なんだ、ここは……」



「うぅ……」


 しばらくすると、トーリの名を継ぐ男が目を覚ました。


「えっ? ドム、俺は一体……カオルさんは?」


「わからない。俺もさっき、目が覚めたばかりだ。どうやら、ここに、魔物と一緒に転移して来たみたいだな。カオルは、来ていないようだ」


 カオルがいないと聞き、トーリの名を継ぐ男の顔は、血の気が引いたのか、サーッと白っぽくなっていく。


「俺達は、カオルさんの護衛なのに……何かに巻き込まれたのか?」


「ふっ、カオルの方が俺達の護衛みたいなもんだけどな。しかし、とんでもない失態だな。俺は、仕掛けに全く気づかなかった」


 ドムが自嘲気味に笑う。


「俺も……だけど、カオルさんも気づかなかったんじゃないか? 彼が気づいていたら、こんな風に、離れ離れになることはないと思う」


 マチン族の二人は頷き合い、そして、そろりと立ち上がった。



 彼らの周りには、傷ついた魔物レヌーガがいる。魔物も、何体かが目を覚ましたようだ。


「ドム、まずくないか? これまでにないほどの危機かもしれない」


「この場所のサーチをしてくれ。俺では、サーチが効かない。そもそも、この出口もわからない」


「だから、これまでにないほどの危機かもしれないって言っただろ。俺も、サーチできない。それどころか、全く魔法が使えない」


 トーリの名を継ぐ男がそう言うと、ドムは、目を見開いた。


「俺は、さっきヒーリング魔法は使えたぜ? おまえの方が、魔導系の力は、圧倒的に高いじゃないか」


「そんなの、知らないよ。それより、ここから離れないと」


「あぁ、とりあえず、魔物からは離れよう」



 マチン族の二人は、魔物を刺激しないように、ゆっくりと移動する。だが、この場所は、質素な小屋にグルリと囲まれていて、外に出る隙間がない。


「ドム、あの小屋だけ、扉がある」


「あぁ、扉を開けるしか、他に選択肢はないか」



 魔物を避けて、二人は扉のある小屋に近寄っていく。マチン族の二人が扉の前に立った瞬間、ギィイッと扉が開いた。


 中から顔を出したのは、土色の服を着た男だった。


「あっ、その服は、魔王スパーク様の使用人?」


「キミ達は、なぜ魔物の飼育場に入り込んでいるんだ? もしかして、古の魔王トーリの関係者かな?」


 土色の服を着た男は、興味の無さそうな表情で、そう尋ねた。


「なぜ、ここに来たかはわからない。俺達は……マチン族だ」


 ドムがそう答えると、土色の服を着た男は無表情のまま、口を開く。


「もうすぐ傷ついた魔物が、回復する。そこに居たら死ぬよ?」



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