81、スパーク国 〜古の魔王トーリの国
「えっ? 古の魔王トーリの国の一部? それなら、この北の深い森は……」
(マチン族が住むべき場所だ!)
魔王トーリの末裔であるマチン族は、このとんでもなく広い森が、自分達の国があった場所だと知っているのだろうか。
思わず俺は、ドムの顔を見た。ドムは、微妙な表情だな。だが、トーリの名を継いだ男は平然としている。彼は、わかっていたらしい。
「僕の国も、魔王トーリの国の一部だった場所だよ。この北の森の先、この辺までだよ〜。僕がこの世界に転生して来たときには、ブロンズ星で最大の国だったんだ」
魔王スパークは地図を指差して、楽しそうに僕に説明してくれる。もしかして魔王スパークは、魔王トーリの国を奪ったのか?
そう考えていても、知りたい答えは魔王スパークの口からは出てこない。俺の考えは、完全に隠せているみたいだな。
いや、だが、そう思わせる作戦かもしれないか。油断はしない方がいい。
「スパーク様は、なぜ魔王トーリの国だった場所に、城を建てたのですか?」
そう尋ねると、魔王スパークは、マチン族の二人の方を見た。彼らの思考は見えるからか。
「あー、うん、トーリの名を継いだ彼も、それを知るためにここに来たのかな?」
魔王スパークからの視線を向けられ、マチン族の二人が緊張したのが伝わってくる。
「はい、俺は一度、魔王スパーク様に会ってみたかったのです。言い伝えを確かめたくて」
トーリの名を継いだ男は、ドムと俺に視線を向けた。そして、何かを悩んでいる。魔王スパークには、彼の悩みも文字として見えるのだろう。
(俺も、わかるようになるのか?)
あぁ、それは封じられたままか。俺は、自分で自己解決した。バブリーなババァは、天界人が嫌がる能力は封印したままにしたのだな。
だから、勲章の星が20個の状態の俺が、50個の制限を解除されても、再封印をしなかったのだろう。
行動に制約のない状態で、天界人の頭の中が覗けることになるとマズイのだろうな。
「覚悟は決まったかい? トーリの名を継いだ者だけに語り継がれた言葉は、口に出してくれないとわからないな」
(わかってるだろーが)
魔王スパークは、自分のチカラを隠しているのか。いや、もしかして、伝承のようなものは文字として見えないのかもしれない。
トーリの名を継いだ男は、ドムや俺の顔を見て、まだ迷っているようだ。俺は席を外す方がいいか。
「俺は他言はしない。カオルも信頼している」
ドムがそう言うと、トーリの名を継いだ男は、やっと覚悟が決まったらしい。力強く頷いた。
「魔王スパーク様、言い伝えによると、我々マチン族が帰るべき場所に立つと、トーリの名を継ぐ者は魔王となる、とされています。そして、その場所を知るのは、二つ名を持つ魔王だと……」
(は? 魔王になる?)
すると魔王スパークは、ふわりとやわらかな笑みを浮かべた。
「よく言えました。ふふっ、心配しなくても大丈夫だよ。この部屋は重要な言葉は漏れない。だから今のキミの言葉も、魔王の宣言には当たらないよ」
(魔王の宣言?)
「よかったです。俺には到底、そんなチカラは備わっていませんから」
「うん、でも、それは今は、ってことでしょ? これからは、わかんないよね、カオル」
(はい? いきなり話を振るか?)
俺が首を傾げると、魔王スパークはケラケラと笑った。爽やかなアイドル風イケメンがそんな顔をすると……ムカつく。
「カオルの面白い顔が見れたから、そろそろ話を戻そうか」
魔王スパークは、スッと表情を引き締めた。威圧感とは違った強制力を感じる。つまらない反論ができないような空気感を、一瞬で作り出した。
(コイツ、かなりヤバイな)
「マチン族が帰るべき場所というのは、ここだろうね。僕から国を取り上げるかい?」
魔王スパークは、不敵な笑みを浮かべる。当然、トーリの名を継いだ男は、ぶんぶんとちぎれんばかりに首を振って否定している。
「ふふっ、冗談だよ」
(おい!)
魔王スパークは、マチン族の反応を見て楽しんでいるのか? いや、バブリーなババァのやり方と同じか。いろいろな感情を引き出して、彼らを調べているのかもしれない。
「その立つべき場所というのは、古の魔王トーリが創り出したパワースポットだね。そのひとつは、この城にあるよ。正確に言えば、中庭だよ。カオルも知ってるよね〜」
「はい? 中庭……魔法陣ですか」
「ふふっ、半分だけ正解! 外で迷子になっても、朝、目覚めたら、必ず草原でしょ? あの草原がパワースポットだよ。かなり使ってるから、だいぶ弱くなってきてるけど」
あれは魔王スパークのチカラだと、ロロから聞いたのに、違ったのか?
だが魔王スパークには、帰還転移の仕掛けをする能力がある。アンゼリカが転生前、宿屋でベッドから浮かび上がったところで転移阻止したのは俺だ。
「スパーク様、そのパワースポットを利用して、帰還転移を組み込んだのですね」
俺がそう尋ねると、魔王スパークは、ケラケラと笑った。
「カオルってば、ドヤ顔だよ〜。ふふっ、当たり〜。古の魔王トーリのパワースポットがあるから、ここに城を建てたんだ。もちろん、トーリ消滅後だけどね」
(奪ったわけじゃないのか)
「他にも、パワースポットがあるんですね?」
「うん、あるよ〜。北側の森の中にね。僕が知るのは、この2つだ。大魔王リストーなら、すべてを知ってるんじゃない?」
(毒舌幼女か)
「大魔王様ですもんね。ん? いま、北の森って言いました?」
俺が聞き返すと、魔王スパークはクスクスと笑う。
「うん、魔王クースが生まれる場所だよ〜。最近、不安定なんだ。僕の城の帰還転移が乱されて困ってるんだ」
(嫌な予感がする)
「まさか、それが俺を呼び寄せた本当の理由ですか」
そう尋ねると、魔王スパークはペロッと舌を出す。
「ふふっ、さっきのカオルの質問に答えるよ」
(話を変える気か?)
「ロロや、アンゼリカは、あっちのパワースポットに誘拐された。何とかしてくれるよね? カオル」