80、スパーク国 〜魔王スパークとライールの皇帝の関係
「カオルさんの領地に、我々が定住できるのですか」
古の魔王トーリの名を継いだ男が、驚きに目を見開きつつ、魔王スパークに問いかけた。
「うん、そうだよ〜。これも何かの縁だと思うんだよね。魔王にならないと国は作れないけど、天界人は金次第で何でもできるんだ。領地を持つくらいのことは、箱庭好きな天界人なら誰もがやってるよ」
(箱庭……か)
俺は、箱庭に並べる橋だけは持っている。箱庭は、ブロンズ星の領地だったか。
魔王スパークの返事を聞き、マチン族の二人は、まだ信じられないという表情だ。定住地を探して放浪している種族だからな。
しかし、なぜ、どこにも定住できなかったのだろう? なぜ、マチン族は疎まれる?
そんなことを考えていても、やはり魔王スパークは俺の思考に気づかない。それを認めたくないのは、彼のプライドか。
バブリーなババァが俺に施されていた封印の鎖を切ったことで、備わっていた阻害系の能力を使えるようになったらしい。勲章の星50個の能力だろうな。
「カオル、お金はどれくらいある? 養豚場解放作戦には、それなりの広さの独立自治区が必要だよ。天界の縛りを受ける魔王には、それができないんだ」
(完全に決定事項かよ)
まぁ俺としても、天界から追放された後のすみかは欲しいと思っていたが。
「箱庭の価格情報は見たことがないんです。買えるかどうか……」
「そこは僕に任せて。ドムの息子を転生させたのは、全員命令だよね? 僕の報酬も出たはずだし、あっ、ビルクの転生もしたんだっけ。あれは、なかなか高いよね〜。うーん、500万ポイントくらいはある?」
「まさか! せいぜい100万ポイントですよ」
「そっか〜、いろいろ使っちゃったんだね。まぁ最初は、魔道具枕を買うもんね」
(はい? 買ってねーし)
もしかして、俺は報酬を中抜きでもされていたのか? いや、全員命令のイベント関連の報酬を、勲章の星にしたためか。それでも、500万にはならないよな?
魔王スパークは、天界にあるのと同じような画面を空間に表示している。ブロンズ星にいても、使えるのか。
そして別の空間には、巨大な地図のような物を表示している。
マチン族の二人には、その映像が恐ろしいものに見えるらしい。ジワジワと距離を取り、警戒している。また爆発するとでも思っているのか。
この地図は、ブロンズ星の地図だな。
こうして見ると、ムルグウ国の周りには、いくつもの国が隣接していることがわかる。だから、戦乱が多いのか。
天界人ではない魔王の国は、あちこちにいくつか密集して作られているようだ。自然が豊かで気候も良さそうな土地に集まっているか、もしくは密集することで助け合っているのだろう。
だが多くの国では、国と国との間に広い緩衝地帯があるようだ。これは強い魔王の国の特徴か。いや、天界人の魔王の特徴だな。
天界人が魔王をしている国は、荒れ地でも豊かな土地へ改良できるから、もともとの環境は気にしないだろう。それよりも、適度な距離を保つことが、互いのために重要らしい。
(まぁ、わかる気はする)
あっ、例外を見つけた。セバス国だ。まるでセバス国を守るかのように、いくつもの小さな国が隣接している。
(そういえば、そうだったな)
ルブレ国に、魔道具塔の橋ミッションで行ったとき、俺は少し違和感を感じた。まるで魔王セバスのハーレムかのように、女性魔王の国が集まっていたのだからな。
魔王ルブレのような弱い魔王が、集まっているのか? 彼女は、熊アバターを着ていたから、本来の力はわからないが。
「カオル、この辺がいいと思うんだけど、お金が全然足りないなぁ〜」
魔王スパークが指差した場所は、周りに何もない広大すぎる未開の地だった。近くに火山があるから暑そうだ。
「火山が近いんですね」
「うん、この辺は地面の温度が高くてね〜。作物も育たないし、小屋を建てると自然発火するし、火の魔物がときどき大量発生するから、誰も国を作らないんだよ〜」
(最悪な土地じゃないか)
「スパーク様、それはさすがに……」
「でも、すごく広いよ? カオルなら統治できると思うんだけど」
「暑いじゃないですか」
アイドル風イケメンは、うーむと考え込んでいる。そもそも、なぜ俺をここに連れてきたんだ? バブリーなババァから連絡でもあったのだろうか。
「スパーク様、俺を城に呼び寄せた理由って、この伝言ですか」
「うん? カオルと目が合ったからだよ〜。僕に用事があるのかなって、ピンときたんだよね」
(やはり、あれは魔王スパークか)
「なぜ、あんな広い畑に、ぽつんと立ってたんですか」
「ふふっ、魔道具枕の予知だよ。あの日、あの場所に立っていると、何かが動き始めるってね。カオルも魔道具枕を使ったから、僕を捜したんじゃないの?」
「いえ、あれは、ムルグウ兵の監視から逃げただけですよ」
そう答えると、魔王スパークは僕ではなくマチン族の二人の方を見た。ドムが頷く。
「ふふっ、面白い追いかけっこをしたんだね。イングムラドルは、僕の国の名物って言われてるけど、前魔王の時代からの物なんだ。さっきの彼女ね〜」
「えっ? バブリーなババァ……じゃなくて、皇帝が魔王をしていた時代の……」
(だから、カレーまんがあるのか)
「うん、そうだよ。彼女の国は小さかったんだけど、隣国の僕に、丸投げされちゃったんだよね。だから僕の国の南部は、少し雰囲気が違うんだ」
「統合したのですか」
そう尋ねると、魔王スパークは、なぜかため息をつく。
「押しつけられちゃった感じかな。南部の人達は、シルバー星に行きたがるんだよね」
(元魔王を追うために、死にたがるのか)
俺は、返す言葉が見つからない。
「カオル、やっぱり100万ポイントだと緩衝地帯しかないよ。あっ、いいこと思いついたよ〜」
魔王スパークは、マチン族の二人に視線を向けた。
「何ですか?」
「ふふっ、僕の国の北側の深い森はどうかな? 古の魔王トーリの国の一部だったんだよ」