79、スパーク国 〜立体的な映像
「久しぶりだね、カオル。なるほど、そういうことか」
魔王スパークは、俺の後方に視線を移すと、ニヤッと笑みを浮かべた。マチン族を見て笑ったのか?
あれから10年ほど経っているが、相変わらずのアイドル系イケメンだ。
黒い魔導ローブを着た男は、俺達を直接、スパーク城の謁見の間に転移させた。使者としては抜群に有能だな。誰にも見られることなく、対象者を誘拐することも可能だろう。
「ご無沙汰しています、魔王スパーク様。ロロさん達は、どうしてますか? あの少女は無事ですか?」
俺の言葉が意外だったのか、魔王スパークは少し怪訝な顔をした。
(なぜそんな顔をする?)
魔王スパークは、すべての人の考えが文字として浮かんで見えるのではないのか?
「カオル、僕に伝言はないのかな?」
「はい? 誰からの伝言ですか?」
(俺の質問は無視かよ)
「カオルのその歪な状態は、誰の仕業だろう? 勲章の星は何個集めた? 30個以上だと縛りが発生するはずなんだけどね」
「20個です」
「ふふっ、じゃあ、僕の素性がわかったよね〜。しっかし、器用だなぁ。この星でそんなことができる者はいない。シルバー星の誰かかな?」
(何が器用なんだ?)
俺が不快感を感じても、やはり魔王スパークは、とぼけた表情だ。まさか、俺の考えが見えないのか?
「あぁ、僕の配下のことなら気にしなくて大丈夫だよ〜。そちらのマチン族の二人に知られたくない? でも二人とも、きっとわからないから大丈夫」
「あの、スパーク様、まさか俺の考えが見えてないですか」
そう尋ねると、反則級のアイドルスマイルを浮かべやがった。
(くそっ、なんかムカつく)
「まぁ、いいや。僕への伝言があるよね? 胸を斬られたときに装備していた物に書いてあるかな?」
「はい? あのときは軽装だったから……」
「それを出してくれる? まさか天界に置いてきちゃった?」
ズタボロの服を出せと言っているのだろうか。伝言どころか、文字など何も書いてなかったはずだが?
「血塗れですよ?」
「うんうん、いいよ〜」
魔法袋からボロボロの服を出して、ニコニコしている魔王スパークに渡した。
「おやおや、ボロボロだねー」
彼はそう言うと、血塗れの服に何かの術を使った。すると服はふわりと浮かび上がり……。
『キミは、ダイヤか? それともクラブか?』
(は? 服が喋った?)
「あはは、そう来たか。えーっとね、僕は、ハートだよ〜」
魔王スパークは、そう言うと、手でハートを作った。アイドル風の爽やかイケメンが、何をやってんだ?
すると服は青紫色に輝き始める。そして、立体的な3D映像のような物に変わった。
(バブリーなババァか?)
『色欲か。まぁ仕方ない。これを受け取るのはチビっ子かと予想していたが、おまえの方が逆に動きやすいとも言える』
(チビっ子? 幼女のことか?)
魔王スパークは、ニヤニヤしながら何も言わない。映像では対話はできないのか。
映像のバブリーなババァ……ライールの皇帝は、俺が帝都の皇帝の館に潜入したときの話を始めた。
俺がエルギドロームに触れた記憶喪失者のふりをしていたことや、シルバー星に入る権限がなかったこと、そして管理者リーナさんが俺を送り込んだことなどを次々と暴露していく。
魔王スパークは、たまに、へぇっと頷きながら、楽しそうに話を聞いている。
『……ということで、カオルは合格だ。エルギドロームを使うのは、カオルが失敗した後にする。養豚場解放作戦の具体的な方法は、諸君らに任せる。なお、この作戦に失敗してキミ達が死んでも私は知らん。健闘を祈る。例によって、この映像は自動的に……』
そこまで聞こえた瞬間、魔王スパークは映像の前に壁のような何かを出した。
ボムッ!
立体的な映像が爆発した。謁見の間の壁は吹き飛び、天井からも何かが落ちてきた。なかなかの威力だ。
魔王スパークが咄嗟に作り出した壁がなければ、マチン族の二人は確実に死んでいただろう。
(これって、あの映画の真似か?)
バブリーなババァが生きた時代、そして俺は、そのリメイク版を観たことがあるが……。
「あの人は、なぜいつも、こんな派手な証拠隠滅をするのだろうね。みんな、怪我はないかな?」
(いつも、か)
魔王スパークは皆を見回して、ふーっとため息をついた。
「スパーク様、ダイヤかクラブかと尋ねられて、なぜハートなんですか」
「ダイヤもクラブも、どちらを選択しても伝言を伝えずに爆発するんだ。知らない合言葉は、やめてほしいよね〜。何度も爆発して、やっと法則がわかったよ」
(完全に遊んでるな)
魔王スパークは迷惑そうな口ぶりだけど、その目はキラキラと輝いている。
「あーあ、カオルの服が爆破されたね。あの人に請求書を回しとくよ〜。じゃあ、作戦会議を始めようか。キミ達も、参加するよね」
マチン族の二人は、突然話しかけられて戸惑っている。
「魔王スパーク様、お初にお目にかかります。俺は……」
古の魔王トーリの名を継いだ男が口を開いた。だが魔王スパークは、すぐにそれを制するように手を振っている。
「堅苦しい挨拶は要らないよ。キミはトーリ、そしてもう一人がドムだね」
「えっ、いつの間にサーチ……」
「ふふっ、サーチではないんだ。僕の個性かな? 僕も、カオルと同じく天界人だからね〜。カオルとは、職業も能力も異なるけど」
魔王スパークが天界人だと明かすと、マチン族の二人は身構えたようだ。天界人は、マチン族を非友好族扱いしているからだな。
「スパーク様、俺の考えは見えなくなってますか」
そう尋ねると、彼はチロッと短く舌を出してスルーした。答えたくないのか。
「カオル、お金ある?」
「へ? スパーク国の通貨は持ってませんけど?」
「天界のポイントだよ。ムルグウ国で置物をやってるくらいだから、領地はないんだよね?」
「まぁ、はぁ」
「じゃあ、カオルの領地を作ろう。天界が干渉できない独立自治区だ。マチン族は、そこに住めばいい」
反則級のアイドルスマイルを浮かべた魔王スパークは、とんでもないことを言い出した。