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78、ムルグウ国 〜突然の客人

 風車のある古い塔に登った数日後、朝、部屋から出るとすぐに、魔王ムルグウの配下が声をかけてきた。


(待ち構えていたのか?)



「アウン・コークン様に、お客様です」


「俺に、ですか?」


「はい、護衛は、こちらで……」


「彼の体調管理をしているのは、俺だぞ。何かあったときに、おまえらは適切な対応ができるのか」


 マチン族を遠ざけようとした魔王の配下の言葉に、ドムがキレた。


「えっ、あ……では、謁見の間の扉までなら……」


(ふぅん、見せたくないのか)



 どうやら、ムルグウ城の中にマチン族がいることを知られたくないらしい。ということは、客は天界人だろうか。


 天界人は、マチン族を非友好族に指定しているが、その理由は知らされていない。一部の天界人が、天界に攻め込んだ古の魔王トーリの末裔まつえいを、遠ざけたいのだろうが。


 ムルグウ国では、もう2ヶ月以上過ごしているが、古の魔王トーリの名を聞いたことがない。ムルグウ兵も知らないようだ。すっかり忘れ去られた過去の名前なのだろう。


 マチン族が古の魔王トーリの末裔だということも知られていないのに、なぜ、白いフードの連中はうとまれるのだろうか。


 俺は、彼らと接していて、ますますわからなくなった。マチン族は、なぜ嫌われるのだ? もしかして放浪民だから、か?


(いや、まさかな)



 今日の護衛は、いつものドムと、トーリの名を継いだ男か。


 彼らは、城の謁見の間の前で立ち止まった。一応、指示には従うようだ。


「カオル、何かあれば、すぐ部屋に入るから安心しろ」


「あぁ、よろしくな」


 ドムは剣に手をかけ、謁見の間の扉の前に立つ兵を威嚇するような素振りを見せた。


 白いフードを深く被っているから、表情はよく見えないが、おそらく楽しげな顔をしているだろう。




「アウン・コークン様をお連れしました」


 魔王の配下が、大声で叫んだ。謁見の間の扉が、ゆっくりと開く。


(は? なぜアイツが?)


 謁見の間には、魔王ムルグウと多くの近衛兵、そして、黒いローブを着た男がいた。


 魔王ムルグウは、客人のこともビビっているのか、かなり距離を取っている。



「アウン・コークン様、あの、彼は……」


「魔王スパーク様の側近ですね。名前は存じませんが、顔は覚えていますよ。俺に、ご用ですか」


 長い挨拶をされそうな予感がして、俺は魔王ムルグウの話をぶった切った。そして、客人の方を向く。


 レプリーの村で魔王ムルグウの軍隊を追い払って以来、魔王ムルグウと顔を合わせるのは初めてだ。ドムが言うには、彼は俺を恐れて、会わないように逃げ回っているらしい。



「ふっ、カオルさん、随分と変わられたようですね」


 魔導ローブの男が、俺の何を変わったと言ったのかはわからない。態度か? いや、コイツはサーチができる。俺がサーチを弾いているのかもしれないな。


「まぁ、あれから、ブロンズ星では10年近く経ったようですし」


「天界人にとっては、ほんの10日でしょう?」


(コイツも、詳しいな)



「それで、何のご用でしょうか? もしかして俺が依頼していた件の報告のために、わざわざお越しくださったのかな」


 そうカマをかけてみると、魔導ローブの男は一瞬、考える素振りを見せた。いや、魔王スパークと念話でもしているのか。


「ええ、それもあります。カオルさんが担当された転生者の少女は、今、スパーク城で預かっていますよ。お会いになりますよね?」


(ふぅん、本題は別件か)


 魔王スパークは、俺を城に連れて来いと命じたのか。やはり、遠視で見たあの男は、魔王スパークだったのだな。俺が、ブロンズ星にいるとわかって、使者を寄越したらしい。



「あ、あの、彼は、我が城でのミッション中ですから……」


 魔王ムルグウは、必死だ。だが、その先の言葉は見つからないらしい。


「もちろん、存じてますよ。だから私が参りました。2〜3日、借りるだけです。まだ、期間は残っていますよね? 天界に確認したところ、あと19日だと聞きましたが」


 魔導ローブの男は、魔王ムルグウに対して、強い口調で言い放つ。一切反論させないような威圧感を漂わせている。


(コイツの方が、魔王らしくないか?)


「あ、あぅ、だ、だがしかし……」


 魔王ムルグウは、やはり言葉が見つからないらしい。



「ムルグウさん、俺、ちょっと出掛けてきますね」


 俺がそう言うと、魔王ムルグウは、この世の終わりかのような絶望感を漂わせた。俺が魔王スパークとつるんで、ムルグウ国を潰しに来るとでも思ったか。


「あ、うぅ……」


 だが、やけくそで、またレプリーの村を潰しに行くと困る。追い詰められた妄想癖のある魔王は、何をしでかすかわからない。


「そんなに心配なら、部屋にある、お気に入りのタオルを置いていきますよ。村の少年が特別に倉庫から出してきてくれた逸品だから」


 俺がそう言うと、魔王ムルグウの表情は、明らかに安心したような、ふぬけた顔になった。


「そ、それは、大切な……」


 また、言葉が続かないらしい。




「じゃあ、カオルさん、今からでも大丈夫ですね」


 魔導ローブの男がそう言うと、扉が開き、ドムが姿を見せた。


「彼は、怪我を負っている。俺が体調管理を任されているから、同行させてもらう!」


(ドムは、心配性だな)


「ほう? マチン族か。天界人とマチン族、妙な組み合わせですね」


「俺は、治癒魔術に精通しているからな。それに、カオルには恩がある」


 ドムは、魔導ローブの男にもひるまない。


「まぁ、いいでしょう。カオルさんが白帽子の護衛をつけていることは、わかっていましたから。扉の先の彼にも同行してもらいましょうか」


(トーリの名を継ぐ男もか?)


「いや、彼は……」


 ドムは、咄嗟に断ろうとしたようだが、言葉を飲み込んだ。彼が、部屋の中へ入ってきたためだ。


「構いませんよ。俺も、魔王スパーク様には会いたいと思っていましたから」


 彼の言葉に、魔導ローブの男はフッと不敵な笑みを浮かべた。



「では、彼らをお借りしますね」


 魔導ローブの男は、すぐさま転移魔法を唱えた。



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