75、ムルグウ国 〜睨み合い
魔王ムルグウの軍隊が、村の中へと入ってくる。その数は、約50人か。村人の数と同数程度だ。
(ちょっと違うな)
レプリーの村にいる人間達の大半は、死を怖れている。一方で、魔王ムルグウの軍隊は、逆だ。爆発物を扱う村だとわかっていて、火を使おうとしている。
魔王ムルグウの軍隊の奴らも、スパーク城にいた奴らのように、死にたがっているのか。
村人が、何人か武器を手に持って出てきた。
(あー、コイツらは一緒か)
勇敢に村を守ろうという気持ちもあるだろうが、その表情は、スパーク城で見たものと同じだ。
死にたがる奴らは、魂の格を上げたいんだよな。そして、シルバー星にいけば、素晴らしい人生が待っていると信じている。
シルバー星は、ほんの一部しか知らないが、魔王クラスの住人ばかりで戦闘力は高い。だが、特別幸せそうには見えなかった。
ブロンズ星から転生してきた者は、従順な盾となる奴隷と呼ばれていたか。シルバー星で兵になるのも、そういう奴らだろう。
帝都ライールの皇帝……バブリーなババァは、転生システムを潰そうとしている。
だが一方で、彼女の行動に一番反対しているのは、シルバー星の住人達のようだった。従順な盾となる者を利用する住人にとって、このシステムは最適なのだろう。
彼女が、ブロンズ星を養豚場だと思っていることに、俺も納得だ。従順な奴隷を育てる飼育星だな。
(あまりにも理不尽で異常だ)
「人間のくせに、我々に刃向かうつもりか。魔王ムルグウ様の直属の軍隊だぞ!」
魔王ムルグウの旗を掲げた軍隊は、十数人が剣を抜いている。武器を手に持つ村人を上回る数だ。
そして魔導系の兵は、手に持つ杖から炎を浮かべている。
軍隊からの死角にいるマチン族の二人も、剣を抜いた。だが、先制攻撃はしないだろう。ジッと様子を窺っている。
タオルにまみれていたダンは、そのまま固まっている。6〜7歳の子供だから、とりあえず怯えたフリをしているようだ。
「皆さん! やめてください。なぜ、この村を潰すのですか! ムルグウ城へも、タオルを献上しています。数が足りないなら、そう言ってください!」
レプリーが、店の中から飛び出し、村人とムルグウ兵の間に立った。
「人間が、何を言う? 格の低い人間ごときがよぉ」
(は? なんだと?)
魔導系の兵が、レプリーにいきなり炎を飛ばした。
俺は、咄嗟にレプリーにバリアを張った。
何も気づいていないレプリーは、水魔法で炎を相殺しようとしたが……炎の勢いが勝り、レプリーをボォッと包み込む。
「えっ? あっ」
衝撃に備えたレプリーは、パッと俺の方を見た。そして、キラキラな笑顔だ。
「なっ? なぜ燃えぬ?」
魔導系の兵は、人間に自分の術が効かなかったことを焦っているようだ。他の兵への体裁を取り繕いたいのか、キョロキョロと何かを探している。
ムルグウ城にある自動防御結界でも探しているのか。こんな人間の集落にあるわけがない。
「人間に格落ちした元魔族じゃないのか? 火を放て! 武器倉庫は、あっちだ」
魔導系の兵は杖を振り、大きな炎を飛ばした。レプリーが、必死に消そうと水魔法を放つ。
(ちょっと、助けようか)
俺はこっそり、レプリーの水魔法に俺の魔力を重ねた。ぴゅーっと飛んでいった水は、大きな炎を消火した。
「げっ! こ、コイツ、格落ちした魔導系の魔族か」
レプリーが炎を消したと思った魔導系の兵は、冷や汗をかいている。
一方、レプリーは俺に、さらにキラキラな笑顔を見せた。
(ふっ、楽しんでるな)
「皆さん、お引き取りください!」
レプリーが強い口調でそう叫ぶと、剣を抜いているムルグウ兵が、ビビっている。だが、引き返すわけにもいかないだろう。
「魔導系の魔族だったなら、剣は使えないだろう。面倒だが、一斉に行くぞ」
(面倒なのは、こっちのセリフだ)
レプリーが剣を抜こうとしたところを、俺が鞘ごと奪い、レプリーの前に立った。
「えっ、カオルさん?」
「レプリー、おまえは、その子を守ってやってくれ。俺が片付ける」
すると、ムルグウ兵の死角に隠れていた二人が、加勢しようとじわじわ動く。だがムルグウ兵に斬りかかると、マチン族は、居場所を失うだろうな。
「でも……」
「俺だけで十分だ。他の者は手を出すなよ? 俺は運動不足で死にそうなんだ」
俺がそう言うと、マチン族の二人は、ニヤッと笑った。だが、剣は手に持ったままだな。何かあれば、すぐに助太刀をする気だ。
俺は、剣を抜き、鞘をレプリーに返した。
(どの程度、戦えるかな)
今の俺は、まだ核の傷が完治していない。全治3ヶ月と言われていて、今で約2ヶ月。
マチン族のドムは、俺はまだ、本来の力の10分の1も魔法が使えないと言っていた。剣はどうなのかは聞いてないが。
「おまえは、何だ? 魔族か。邪魔するなよ!」
(ふぅん、顔バレしてねーな)
「俺は、この村に買い物に来たんだ。ここの特産のタオルが欲しくてな。それを邪魔しているのは、おまえらの方だろう」
「人間の村に関わろうとするとは……おまえも反乱軍だな! 何がタオルだ。火薬の相談に来たのだろう? 嘘も大概にしろ」
ムルグウ兵が火薬と言ったことで、背後にいるレプリーが、ヒュッと息を飲んだ。罪悪感なのだろうか。
「は? 火薬って何だ? 村で火薬を扱っているのか? おまえらこそ、嘘も大概にしろよ。火薬を扱う村に炎魔法を使うわけねーだろ」
「火薬を扱う村だからこそ、火を放つのだ! おま……」
俺の言葉に反論した兵は、他の兵に肩を叩かれ、ハッとしている。だが、もう遅い。
「そうか、おまえらは、俺もろとも、この村を焼き払うつもりだったのだな。俺が買ったタオルも」
俺は、じわりじわりと距離を縮めていく。するとムルグウ兵は、ジリジリと後退していく。
(死にたがるのに怯えるのか?)
「何をやっている。そいつはマチン族ではない。雑種の魔族くらい、斬り殺せ! 反乱軍だ!」
後方にいる指揮官が、そう命令した。
「うぉりゃ〜っ!」
死にたがる兵達が、一気に動いた。
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