表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/215

75、ムルグウ国 〜睨み合い

 魔王ムルグウの軍隊が、村の中へと入ってくる。その数は、約50人か。村人の数と同数程度だ。


(ちょっと違うな)


 レプリーの村にいる人間達の大半は、死を怖れている。一方で、魔王ムルグウの軍隊は、逆だ。爆発物を扱う村だとわかっていて、火を使おうとしている。


 魔王ムルグウの軍隊の奴らも、スパーク城にいた奴らのように、死にたがっているのか。



 村人が、何人か武器を手に持って出てきた。


(あー、コイツらは一緒か)


 勇敢に村を守ろうという気持ちもあるだろうが、その表情は、スパーク城で見たものと同じだ。



 死にたがる奴らは、魂の格を上げたいんだよな。そして、シルバー星にいけば、素晴らしい人生が待っていると信じている。


 シルバー星は、ほんの一部しか知らないが、魔王クラスの住人ばかりで戦闘力は高い。だが、特別幸せそうには見えなかった。


 ブロンズ星から転生してきた者は、従順な盾となる奴隷と呼ばれていたか。シルバー星で兵になるのも、そういう奴らだろう。


 帝都ライールの皇帝……バブリーなババァは、転生システムを潰そうとしている。


 だが一方で、彼女の行動に一番反対しているのは、シルバー星の住人達のようだった。従順な盾となる者を利用する住人にとって、このシステムは最適なのだろう。


 彼女が、ブロンズ星を養豚場だと思っていることに、俺も納得だ。従順な奴隷を育てる飼育星だな。


(あまりにも理不尽で異常だ)




「人間のくせに、我々に刃向かうつもりか。魔王ムルグウ様の直属の軍隊だぞ!」


 魔王ムルグウの旗を掲げた軍隊は、十数人が剣を抜いている。武器を手に持つ村人を上回る数だ。


 そして魔導系の兵は、手に持つ杖から炎を浮かべている。



 軍隊からの死角にいるマチン族の二人も、剣を抜いた。だが、先制攻撃はしないだろう。ジッと様子を窺っている。


 タオルにまみれていたダンは、そのまま固まっている。6〜7歳の子供だから、とりあえず怯えたフリをしているようだ。



「皆さん! やめてください。なぜ、この村を潰すのですか! ムルグウ城へも、タオルを献上しています。数が足りないなら、そう言ってください!」


 レプリーが、店の中から飛び出し、村人とムルグウ兵の間に立った。


「人間が、何を言う? 格の低い人間ごときがよぉ」


(は? なんだと?)


 魔導系の兵が、レプリーにいきなり炎を飛ばした。


 俺は、咄嗟にレプリーにバリアを張った。


 何も気づいていないレプリーは、水魔法で炎を相殺しようとしたが……炎の勢いが勝り、レプリーをボォッと包み込む。


「えっ? あっ」


 衝撃に備えたレプリーは、パッと俺の方を見た。そして、キラキラな笑顔だ。



「なっ? なぜ燃えぬ?」


 魔導系の兵は、人間に自分の術が効かなかったことを焦っているようだ。他の兵への体裁を取り繕いたいのか、キョロキョロと何かを探している。


 ムルグウ城にある自動防御結界でも探しているのか。こんな人間の集落にあるわけがない。



「人間に格落ちした元魔族じゃないのか? 火を放て! 武器倉庫は、あっちだ」


 魔導系の兵は杖を振り、大きな炎を飛ばした。レプリーが、必死に消そうと水魔法を放つ。


(ちょっと、助けようか)


 俺はこっそり、レプリーの水魔法に俺の魔力を重ねた。ぴゅーっと飛んでいった水は、大きな炎を消火した。



「げっ! こ、コイツ、格落ちした魔導系の魔族か」


 レプリーが炎を消したと思った魔導系の兵は、冷や汗をかいている。


 一方、レプリーは俺に、さらにキラキラな笑顔を見せた。


(ふっ、楽しんでるな)



「皆さん、お引き取りください!」


 レプリーが強い口調でそう叫ぶと、剣を抜いているムルグウ兵が、ビビっている。だが、引き返すわけにもいかないだろう。



「魔導系の魔族だったなら、剣は使えないだろう。面倒だが、一斉に行くぞ」


(面倒なのは、こっちのセリフだ)


 レプリーが剣を抜こうとしたところを、俺が鞘ごと奪い、レプリーの前に立った。



「えっ、カオルさん?」


「レプリー、おまえは、その子を守ってやってくれ。俺が片付ける」


 すると、ムルグウ兵の死角に隠れていた二人が、加勢しようとじわじわ動く。だがムルグウ兵に斬りかかると、マチン族は、居場所を失うだろうな。


「でも……」


「俺だけで十分だ。他の者は手を出すなよ? 俺は運動不足で死にそうなんだ」


 俺がそう言うと、マチン族の二人は、ニヤッと笑った。だが、剣は手に持ったままだな。何かあれば、すぐに助太刀をする気だ。



 俺は、剣を抜き、鞘をレプリーに返した。


(どの程度、戦えるかな)


 今の俺は、まだ核の傷が完治していない。全治3ヶ月と言われていて、今で約2ヶ月。


 マチン族のドムは、俺はまだ、本来の力の10分の1も魔法が使えないと言っていた。剣はどうなのかは聞いてないが。




「おまえは、何だ? 魔族か。邪魔するなよ!」


(ふぅん、顔バレしてねーな)


「俺は、この村に買い物に来たんだ。ここの特産のタオルが欲しくてな。それを邪魔しているのは、おまえらの方だろう」


「人間の村に関わろうとするとは……おまえも反乱軍だな! 何がタオルだ。火薬の相談に来たのだろう? 嘘も大概にしろ」


 ムルグウ兵が火薬と言ったことで、背後にいるレプリーが、ヒュッと息を飲んだ。罪悪感なのだろうか。


「は? 火薬って何だ? 村で火薬を扱っているのか? おまえらこそ、嘘も大概にしろよ。火薬を扱う村に炎魔法を使うわけねーだろ」


「火薬を扱う村だからこそ、火を放つのだ! おま……」


 俺の言葉に反論した兵は、他の兵に肩を叩かれ、ハッとしている。だが、もう遅い。



「そうか、おまえらは、俺もろとも、この村を焼き払うつもりだったのだな。俺が買ったタオルも」


 俺は、じわりじわりと距離を縮めていく。するとムルグウ兵は、ジリジリと後退していく。


(死にたがるのに怯えるのか?)


「何をやっている。そいつはマチン族ではない。雑種の魔族くらい、斬り殺せ! 反乱軍だ!」


 後方にいる指揮官が、そう命令した。


「うぉりゃ〜っ!」


 死にたがる兵達が、一気に動いた。



いつも、いいねありがとうございます♪

書くパワーをもらってますよ〜٩(ˊᗜˋ*)و

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ