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68、ムルグウ国 〜ビビる魔王ムルグウ

 俺は今、ムルグウ城の置物ミッションを遂行中だ。


 転生塔の管理者命令で、魔王ムルグウの私邸前に転移させられ、このミッションが始まった。俺の怪我をブロンズ星で療養するために、管理者リーナさんが強制的に選んだのだ。


 彼女の態度に疑問を抱いたが、長く眠っているせいで、夢と現実の区別が曖昧だ。


 天界人は優れた記憶力があるはずだが、核を傷つけられた状態では、ただの人間レベルなのかもしれない。



 俺は、白いフードをかぶったマチン族の男達に、魔王ムルグウの城に用意されていた部屋に運ばれてきた。それから、ずっと眠っていたようだ。


 時々、何者かの気配を感じ、眠りが浅くなった。俺のことをいろいろと話す声も聞こえたが、完全に目覚めることはなかった。


 ドムと名乗った男の声も、何度か聞こえた気がする。本当に、俺の見舞いに来ていたのだな。




 俺は、いろいろと考えることで、ようやく頭がハッキリしてきた。一体どれくらい眠っていたのだろう。


 ゆっくりと上体を起こすと、俺を見て変な姿勢で固まっている子供と目が合った。


(だるまさんがころんだ状態だな)



「あの……」


「ひゃっ! しゃ、しゃべったぁ〜。とーさんっ!」


 その場でピョンと跳び上がると、その子は部屋から慌てて出ていった。普通の人間の子供、いや魔族か。6〜7歳の男の子だ。


(おでこに何か付けてたな)



 ベッドから外の景色が見える。あいにくの空模様だ。激しい雨が窓をたたいている。


 俺は、ベッドから降りた。少し胸の傷が痛むが、動きを妨げるほどではない。


(うわぁ、きたねー)


 俺の服は、血塗れのズタボロのままだ。誰も着替えさせようとはしなかったらしい。まぁ、ドムと名乗った男から、絶対安静だと言われたのだろうが。



 魔法袋の中を覗いてみる。着替えは、たくさん入っているようだ。血塗れのままだったからな。


 とりあえず、動きやすそうな服を取り出して着替えた。だが、身体からは血の臭いがする。


 俺は、オリジナル魔法のクリーニング魔法を使う。


(おっ、ふぉ〜っ)


 めちゃくちゃスッキリした。この魔法が初めて役に立った気がする。


 血塗れの服は、魔法袋に突っ込んでおくか。さすがに、ここで燃やすわけにも置いておくわけにもいかないからな。




 ガチャッ



 扉が開き、数人の獣人が入ってきた。やはり、額に何かを付けている。【無害】【無害】【無害】そして【無害】だ。


(ふざけてるわけじゃねぇよな?)


 ビルクも同じものを付けていた。これは、サーチか? 



「アウン・コークン様、お目覚めになってよかったです。お話させていただいても、大丈夫でしょうか」


 俺の名前を知っているということは、俺が置物ミッションで来たこともわかっているのだろう。


(なんだ?)


 その男の額を見ていると、さらに詳細が表示された。俺に話しかけてきたのは、魔王ムルグウらしい。【無害】の文字の代わりに、名前や種族が表示されている。


「あ、あの……お加減が悪いようでしたら……」


 額に【無害】を付けた獣人達が慌てている。俺が何も話さないからか。額に気を取られて、返事を忘れていた。



「あぁ、すみません。ボーっとしていまして。魔王ムルグウ様でしょうか」


「は、は、はははひっ、そんな、様呼びは、なさらないでください、アウン・コークン様」


(なんだ? 怯えているのか?)


「はぁ、あの、俺はどれくらい寝ていましたか」


「ちょうど、ひと月ほどです。おかげ様で、このひと月は本当に平和でした。十年前に内乱を一瞬で鎮められた天界人様が滞在されているのですから、当然のことですが」


(ひと月!?)


 サキュバスに生まれたアンゼリカは、もう魔王スパークの城に着いているな。



「俺は、そんなに長い時間、眠ってましたか」


(なぜ怯える?)


 あぁ、十年前のなんちゃらを無視したからか。俺の機嫌を害したかとビビっているのか? 無視したわけじゃないと、何か補足すべきか。


「あれは12年前でしたね。あのときに会った1歳だった子が、今は13歳になっています」


「あわあわ、も、申し訳ございません。頻繁に、戦乱と復興の繰り返しでして……」


 魔王ムルグウは、土下座だ。


 年数の指摘をしたのは失敗だったか。覚えているとアピールしたつもりだったが。


 しかし、コイツ、本当に魔王か?


 同じ魔王でも、魔王スパークは対等な感じだったし、魔王セバスは上から目線だった。


(あぁ、天界人じゃないからか)


 魔王ムルグウについては、転生直後でも、種族に関する情報を女神から与えられていた。あのとき、種族情報が与えられていなかった魔王は、おそらく天界人だ。



「あ、あの……」


 俺が黙っているためか、魔王ムルグウは怯えた表情で、俺に返事を促している。


「ムルグウさん、すみません。俺はまだ、ボーっとしてて……」


「あぁあわわわ、そうでございますよね。あ、あの、お食事などは、部屋の前におります者に、お申し付けください」


(ビビりすぎだ)


「ありがとう、助かります」


「ひょぉおぉ、し、失礼いたします!」


 魔王ムルグウとその側近らしき獣人は、深々と頭を下げ、そろそろと部屋を出ていった。


(はぁ、疲れる)


 天界人ではない魔王からすると、天界人は恐ろしいのかもしれない。それに俺は、暗殺者のようなクールすぎる顔だ。真顔だと怖いだろうな。


(表情には気をつけよう)




 ガチャッ


 扉が開くと、さっきの子供がそーっと覗いた。この部屋に居たということは、俺の見張り役だろうか。


「父ちゃん、起きてるよ」


 子供は、父親に部屋を覗けと命じられたのか? 



 白いフードをかぶった男が、二人見えた。


「カオル、やっと起きたか」


 この声は、ドムと名乗った男の声だ。顔は、イマイチ覚えてなかった。フードが顔を隠しているせいもあるが。


「ドムさん?」


「おっ、覚えてくれていたか。嬉しいぞ。さん付けは不要だ。ドムでいい。入ってもいいか?」


 俺が頷くと、白いフードの男二人と、その後ろから男の子が入ってきた。


 なぜか、男の子の額には、俺の名前が書いてあった。



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