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60、帝都ライール 〜皇帝の館への潜入作戦

 俺は単独で、皇帝の住む館へとやってきた。


(うじゃうじゃ居るじゃねーか)


 守りが手薄になっていると言っていたが、ガチガチの警備体制だ。仕方ない、やりたくないが……。


 俺は、事前に奥歯に仕込んでいた石のような塊を噛み砕いた。身体の中を何かが駆け巡る。



「止まれ! 身分証を提示しろ!」


 門の前には、十数人の鎧を着た人間がいる。彼らはすべて、特殊な能力を持つ人間だろう。


「俺、ここの人みたいなんだけど……」


「は? 身分証は?」


 俺は首を横に振る。


「わからないんだ。魔法袋も何もなくて……」


「襲撃されたのか? 若いな、名前は?」


「カオルと呼ばれていた」


「そんな名前の兵は居たか? 使用人か?」


 俺は首を傾げる。


「ちょっとサーチをするぞ」


(うっ、気持ち悪い)


 頭の中をぐちゃぐちゃにされるような気分の悪さに、思わず吐きそうになる。


「ウゲッ」


「あっ、すまん。大丈夫か?」


 俺は、うつむいたまま軽く頷いた。


「完全に消えているようだな。昨夜からの記憶しかない。観光に来た天界人に助けられたらしいが……」


「この場所への帰還意思と、遠い前世の記憶が微かに残っている。エルギドロームに触れたか」


「戦闘能力は高いようだな。これは民間人の数値ではない。兵としても十分だ。いや、もっと上の位か」


「若い姿に戻るのは、エルギドロームに触れて死ななかった者に多い副作用ですよ。賢者に診せれば、記憶を取り戻せるかもしれない」


「とりあえず、兵舎へ連れて行こう」


 一人のローブを着た人間が、俺を支えるように腕を掴んだ。俺は門の中へと、簡単に潜入することができた。




 ◇◆◇◆◇



 時は、昨夜に遡る。


「作戦会議を始める。今回の緊急要請を理解していない者がいるようだな」


(俺のことか?)


 仕切っているのは、アスロム・コイル……魔王コイルだ。破壊の魔王という二つ名を持つ彼が、作戦会議をすることに、俺は違和感を感じた。


(脳筋魔王じゃねぇのかよ)



「リーナは、ライールの皇帝を討てと言っていたが、それは不可能だ。天界を統べる女神ユアンナよりも、圧倒的に強く、格の高い神だからな」


(は? ライールの皇帝は神なのか?)


 俺の考えを覗いたのか、アスロム・コイルは、俺をチラッと見た。いや、違うな。この件は、俺にはまだ知る権限がないらしい。彼は、ピリッと電撃をくらったらしい。一瞬、不機嫌そうに眉を歪めていた。


「アウン・コークン、勲章の星は、27個だったな?」


「いえ、17個です」


「チッ、あの女、俺を騙しやがった。はぁ、もう面倒だな」


 リーナさんのことか? 今回の緊急要請で、俺に勲章の星を3個くれると言っていた。だから、彼は27個と言ったのか。



「コイルさん、こんなに無防備な彼が、星27個ってことはないでしょう? リーナさんが彼を選んだのは、我々の潜入に不可欠だからですよ」


 身分証を持っていた男が、穏やかな声でそう話すと、アスロム・コイルは、フンと鼻を鳴らした。


「まぁ確かに、シルバー星に入る権限がない奴を、天界人が連れているとは思わないだろうからな」


「そうですよ。彼のおかげで、この宿屋の、しかも11階を借りることができたんですからね」


 彼らの話は、さっぱり理解できない。


「アウン・コークンさん、その窓から外を見れば、わかりますよ」



 俺は窓に近づき、ガチャリと窓を開けた。ピューッと強い風が吹き込む。だが、気持ちいい澄んだ空気だ。


 目の前には、立派な館が見える。都会的な街並みに不釣り合いな、石造りの館だ。


「あの建物は何ですか? 街並みとは違って古い印象を受けますが」


 そう尋ねると、身分証を持っていた男が口を開く。


「あそこには、皇帝が住んでいるんですよ。キミの言う通り、古い館ですからね」


「えっ? 皇帝の……」


 そう言いかけて、俺はハッとした。部屋にいる人達は、押し黙っている。そうか、窓を開けると結界が解除されるのか。


「風が強いから、閉めてください」


「はい、すみません」


 窓を閉めると、ブワンと何かが作動する気配を感じた。数秒経つと、彼らはゲラゲラと笑い始めた。


(なんだ?)



「アウン・コークン、今ので完璧だ。もう誰も疑っていない。我々は、完全に旅行客だと思われたようだ」


(は? くそっ)


「俺を利用したんですか」


「それぞれには役割がある。それを皆、完璧にこなすことが不可欠だ。おまえの役割は、俺達の潜入の手引きをすることだ」


 そう言うと、アスロム・コイルは表情を引き締めた。


(こわっ)



「話が逸れたな。今回、俺達が緊急要請として、このライールに派遣されたのは、皇帝への牽制だ。性懲りも無く、また天界に喧嘩を売ってきたからな」


「牽制ですか」


「あぁ、まぁ、殺せるものなら殺してもいい。ゴールド星での会議で、ライールの皇帝は反逆の意を述べ、天界の制止を無視して帰還した」


「会議をサボっただけで殺すのですか」


 俺の言い方がまずかったのか、アスロム・コイルは、気分を害したらしい。般若のような顔で、俺を睨んだ。


 すると、身分証を持つ男が口を開く。


「会議途中で帰還したのは、会議が終わる前に、天界に攻め込むつもりだということですよ。既に、館の向こう側に大量の兵を集め始めている。天界とシルバー星には時間差があるから、天界にとって不利なんです」


(確かに、不利だな)


 天界の1日は、ここではひと月だ。だから、慌てて緊急要請か。攻め込まれる前に、阻止しようということだ。



「この11階からなら、すべての監視ができる。キミのおかげだよ」


 不機嫌そうな女が、そう言った。そして魔法袋から何かを取り出し、俺に渡した。


「キミの記憶に権限を設定するアイテムだ。これを身につけて、明日キミに潜入してもらう」


「一人でですか?」


「転生してからこれを身につけるまでの記憶に設定してある。効果時間中は、思念傍受もされない」


「はい?」


「これを壊せば、一定時間、設定した期間の記憶は他者から見えなくなる。記憶喪失の兵ってことで、どうかな?」



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