表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/215

59、帝都ライール 〜たった8人での緊急要請

「リーナ、今、ライールの皇帝を討てと言ったか?」


 転生塔の管理者リーナさんを呼び捨てにする男。彼女と同じ程度の力があるのだろうか。


「ええ、そうよ。だから今回は、私が直接選んだのよ」


「まともな奴は居ないじゃねぇか」


 男は、集まった人達の中で一番格上なのだろうか。新人の俺のことを言うならわかるが、あまりにも失礼な言い方だ。


 それにライールの皇帝? 魔族が治めるブロンズ星に、皇帝なんて居るのか。スパーク国でそれなりの時間を過ごしたが、皇帝なんて聞いたこともない。


 そう考えていると、何人かの嫌な視線が突き刺さる。コイツらは、俺の頭の中を覗いているってことか。



「可能かしら? アスロム・コイル。それとも、破壊の魔王には難しいかしら」


「くっ、リーナ、てめぇ……」


 アスロム・コイル? 魔王コイル? うわぁ、ブロンズ星のトップ争いをしている魔王だ。戦闘力だけなら、最強魔王だと言われている。


 だが魔王セバスの方が、今のところは優勢だ。魔王セバスは魔導系に優れている策略家だ。一方で、魔王コイルは戦闘狂。脳筋だとも言える。


 また、視線が俺に突き刺さる。俺は何も言ってない。おまえら、勝手に人の頭の中を覗いてムカついてんじゃねーぞ。



「ふふっ、とりあえず行ってください。皇帝を討てなくとも、天界の覚悟を示すことができれば、成功よ」


 リーナさんは、俺の頭の中を覗いていて吹き出したらしい。俺を見て微笑み、そして皆に指示を伝えた。



「では皆さん、転移魔法を発動します。帰還のタイミングは、管理者リーナさんの判断で決めることになります」


(時間制限じゃないのか)


 魔女っ子が杖を振ると、俺達は転移の光に包まれた。



 ◇◇◇



 転移した場所は、見たことのない景色だった。まるで違う世界かのような印象を受けた。都会的な街並みを行き交う人々は、魔族ではなく人間に見える。


 ブロンズ星で俺の知る場所は、ほんの一部だということだな。場所を確認しようとサーチをしたが……。


(なぜ、使えない?)


 何度も使ったサーチ魔法が使えない。そうか、俺には立ち入る権限がないとか言っていたか。だから、サーチもできないのか。



「おまえ、大丈夫か? 足を引っ張るなよ。何かあっても自己責任だ」


 アスロム・コイル……魔王コイルが、俺を睨む。だが彼の表情は、さっきまでとは明らかに違う。警戒しているのか?


「俺にはサーチができないようで……」


 場所の説明を求めたつもりだったが、彼はもう俺のことは忘れたかのように、どこか一点を見つめている。


(マイペースだな、コイツ)



「坊や、普通のサーチ魔法なんか使えるわけないよ。ここはライールの中心地だからね」


 機嫌の悪そうな若い女が、俺にそう教えた。見た目はアバターで変えられるから、若い女という表現はおかしいか。


「ライールという国は、ブロンズ星のどの辺りにあるのですか」


「国ではない、地名だ。そもそもブロンズ星ではない。住人が笑っているぞ」


 俺を含む8人は、到着した場所にずっと立っている。俺と話す人が不自然に入れ替わるが……。


「俺が、笑われているのですか。ブロンズ星じゃないって……ここは、どこですか」


 俺達の横を通り過ぎる通行人が、ふふんと笑っている。なぜか、バカにされているように感じる。


「ライールでは、ただの天界人は、田舎者扱いだからな」


(そのライールって、何なんだよ?)



「はぁ、状況がわからない。とりあえず宿を取るか」


「坊やは、手ぶらみたいだもんね」


(あっ、しまった)


 アイテムボックスは、天界以外では開けられない。クレーム対応のときと違って、緊急要請では何も支給されない。


「リーナが、新人は使えると言っていたが、そういうことか。その手でいこう」


 彼らは、俺には全く理解できないことを話し、互いに頷いている。俺が使える? 何かのカムフラージュにということか?




 しばらく街を歩くと、一人が手招きした。彼が入っていった近代的な建物が、この街の宿屋らしい。


「今夜一泊したいんだけど、部屋は空いてる?」


「8名様ですか? 身分証の提示をお願いします」


(身分証? そんなものは無いだろ)


「僕以外は、天界人なんだよ。だから、僕しか身分証は無いんだよね」


 彼は笑顔で、何かを提示している。彼は天界人じゃないのか? そもそもブロンズ星じゃないなら、ここはどこだ?


 そう考えていると、フロントにいた人達の視線が俺に向いた。


「あの若く見える青年も、天界人ですか? あまりにも無防備なようですが」


(頭の中を覗いたのか)


「ええ、そうですよ。何か?」


 身分証を提示した男は、首を傾げてみせている。すると、フロントにいた人達は、フフンと嫌な笑みを浮かべた。


「いえ、失礼しました。お兄さん、ここはブロンズ星ではなく、シルバー星ですよ? ようこそ、ライールに」


(シルバー星!?)


「ようこそ、ライールに!」


 他の従業員達も、俺に向かって笑みを浮かべる。だが全員、客商売としては失格だ。


(田舎者だとバカにしているのか)




 俺達は、部屋を借りることができた。この宿屋では、フロアをまるまる貸し出す仕組みらしい。


「11階か。悪くないな」


「新人が役に立った」


 フロアには、いくつかの小部屋と、リビングのような大きな部屋があった。小部屋が寝室らしい。



「アウン・コークン、もう普通に話していいぞ。ここの防音結界は完璧だ」


 彼らは、それぞれソファや椅子に腰掛け、魔法袋から、飲み物やら何やらを取り出している。俺の魔法袋は、アイテムボックスの中だ。


「あの……」


「新人くん、適当に食べてくれていいよ。キミのおかげで、ただの観光客だと判断された。この宿を取れたことは、デカイぜ」


「はぁ」


(居心地が悪りぃ)


 まぁ、勲章の星3つのためだ。あん? 宿泊? ちょ、俺にはそんな時間は……あぁ、シルバー星か。


 確か天界の1日は、シルバー星ではひと月だったな。まぁ、焦る必要はない。



「さて、作戦会議を始めるか」


 アスロム・コイルが立ち上がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ