表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/215

57、天界 〜裏報酬を受け取る

 俺はビルクと別れて、転生塔へと移動した。


(アイツ、うなだれていたな)


 別れ際のビルクのしょんぼりした様子が気になりながらも、俺はエスカレーターで5階へと上がった。


 ビルクは、俺の次の仕事を既に用意していたのだろうか。単に、一人になるのが怖いだけかもしれないが。




「あら、アウン・コークンさん、勤務場所は10階じゃなかったの〜?」


 5階に到着すると、なぜかイベント塔の管理者が居た。


「シエッタさん、さっきの報酬を貰いに来たんですよ」


「勲章の星かしら?」


「はい、ここへ行けとパンダに言われて」


「パンダ?」


(通じないか)


「白と黒の熊アバターの人です」


「裏報酬ね〜。勲章の星5個ぷらすセットかしら」


「はい、課題をやる必要があるそうですが」


 彼女と話していると、担当らしき男が近寄ってきた。


 転生塔の5階は、確か、何かで失敗した転生師の再教育や、転生師見習いの教育をするフロアだ。


(学校みたいなものか)


 天界人は、あの趣味の悪い像に触れたり眠ることで、情報は頭に入ってくる。わざわざ学校なんて必要ないと思うが。



「勲章の星5個ぷらすセットを受け取る方ですか」


 その男は、無表情で魔道具を取り出し、何かを確認している。情報なら念話で、ちゃちゃっとやり取りしないのか?


 そう考えていると、シエッタさんはケラケラと笑っている。あー、そうか、彼女は頭の中を覗くんだったな。


「アウン・コークンさん、5階の人達って念話は使えないのよ。みんな、転生師をリタイアした亀さんばかりだから」


(亀さん? ノロマということか?)


 いや、イベント塔の管理者が、彼らを前にしてそんなことは言わないか。


「シエッタ、亀とはひどいな。確かに万年の時を生きているが」


(長寿という意味か?)


 天界人は不死らしいから、万年が長いのかどうかは、俺には判断できない。だがこのフロアは、頑固そうな人ばかりだ。見た目は、年寄りは居ないが。



「コホン、それで勲章の星5個に、いくつ上乗せしたいのですか」


 彼は無表情に戻り、俺に尋ねた。


「上乗せとは?」


 そう聞き返すと、男は怪訝な表情を浮かべた。だが、俺にはその意味を知らされていない。



「あら、熊さんが説明しなかったのね〜。5個以上の勲章の星が貰えるセットなのですよ。その加算分は、課題をやってもらう必要があります〜」


 シエッタさんの説明に、俺は心の中でガッツポーズをした。いま、勲章の星は11個だから、あと9個あれば、新たな権限を得ることになるはずだ。


「じゃあ、上乗せは……」


「ちょっと待って。1個上乗せには課題ひとつよ〜。急いで集めたいなら、オススメはひとつかな」


(課題には、時間がかかるのか)


「ひとつでお願いします」


 俺がそう言うと、男は魔道具を操作し始めた。


「アウン・コークンさん、またね〜」


 シエッタさんは、エレベーターを使って降りていった。なんだか妙に彼女の言葉に引っかかる。何か意味ありげに聞こえたが……気にしすぎか。




「では、始めます」


 その男は、その場で立ったまま、授業のようなものを始めた。ほとんどすべて、俺が知る知識だ。それを魔道具の映像を使って説明している。


(だりーな)


 転生師としての心構えから始まり、転生の方法、失敗しないための格の説明、天界での見守りの無駄、魂の転生システムの構築者の話などが続く。


 転生システムを作ったのは、ゴールド星の神々らしい。具体的な名前を知るには、俺には権限が無いらしい。


 これは知らなかったことだが、予想はしていた。女神一人で出来ることじゃないだろうからな。


 授業が終わると、その男は俺に何かを渡した。


「これを持って、管理者の部屋へ行ってください」


「はい、ありがとうございます」


 俺は、軽く会釈をして、エレベーターの呼び出しボタンを押した。確かに、ひとつにしておいてよかった。こんな長い授業は、苦痛すぎる。



 ◇◇◇



 エレベーターは、以前と同じく99階で止まった。転生塔は、魔道具塔よりもかなり高い塔だ。魔道具塔とは違って、ひとつしかないからかもしれない。



「あら、アウン・コークンさん。全員命令お疲れ様でした」


 にこやかな笑顔の管理者リーナさんは、やはり女神よりも神々しい。


(だが、一人か?)


「お疲れ様でした。あの、これを……」


 無表情な男から渡されたものを、彼女に手渡した。


「裏報酬ね。どうぞ、適当におかけくださいな」


 そう言うと、彼女は奥の部屋へと入っていく。今日は、護衛の兵のような男達の数が少ないようだ。



「お待たせしました。アウン・コークンさん、イベント関連の勲章の星を6個与えます。参加、転生数、正確性、魔族転生数、ブロンズ星転生数、そして初級教育終了の勲章の星になっています」


「それぞれに意味があるんですね」


「ええ、今回のイベント関連のものですから、別のイベントに参加されて、好成績なら、また星を得ることができますよ。とは言っても、あまり機会は多くないのですが」


 彼女が差し出したトレイの上の星に触れると、俺のアイテムボックスに移動したようだ。これで17個だな。



「ありがとうございます。今日は、アイさんは居ないんですね」


 そう尋ねてから、俺は、しまったと思った。あの女性に会いに来たように思われたかもしれない。


「ふふっ、アイちゃんは、まだゴールド星から戻ってないわ」


「アイさんも、ゴールド星の会議に参加されてるのですか」


(なんだか、ニヤニヤしてねーか?)


 管理者リーナさんは、今にも笑い出しそうな表情だ。やはり失敗した。俺が会いに来たと勘違いされている。


「うふふっ、アイちゃんは、ふふっ、まだ貴方には知る権限がないかしら? 本人に聞いてみればいいと思うわ」


「はぁ、いや、そんな変な意味じゃないですから」


(くそっ、何を言ってるんだ、俺は)


 ニヤニヤする彼女に軽く会釈をして、俺はエレベーターに向かった。




「緊急です! 緊急です!」


 突然、緊急要請を知らせる無機質な声が、管理者の部屋に鳴り響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ