55、天界 〜転生数ランキング
イベント塔管理者のシエッタさんに、注目が集まる。
「今回は、程度3でしたから、皆さんには一律で、3,000ポイントの報酬が出ます。そしてイベント塔からは、転生数ランキング報酬を差しあげます!」
わーっと、拍手が起こる。
(ランキング報酬?)
ブロンズ星に転生させた人達に関する転生情報の発表じゃないのか。すべて正確な転生ができたのか、新人転生師の俺としては不安だ。
シエッタさんは、まず、転生師見習いから順位発表をしていく。さらさらと名前を読み上げていくが、退屈な時間だと感じた。
「2位、11人、アシュ・ビルクさん!」
(は? ビルク?)
ざわっと人々が反応している。嫌な視線がビルクに向けられた。かなりの恨みを買っているらしい。
ビルクは、死神の鎌持ちの転生師として、天界で長く生きているようだ。当然、知り合いも多いのだろう。
彼が、魔王クースを取り込もうとした死神の鎌に操られていたことは、伏せられているはずだが……。
(バレてるみたいだな)
ビルクがセバス国で暴れたことで、特産株が下落したらしいが、その不満だけじゃなさそうだ。
聞こえてくる声には、ビルクが転生師見習いをしていること自体への不満と、ビルクを生かしておくべきではないという声が混ざっている。
天界人は、何かをしでかした者に対する処罰感情が激しいらしい。だが、善人ヅラをしている奴らの中には、ビルクを超えるクズがたくさん紛れているように見えるが。
「そして、2位は、169人、アウン・コークンさん!」
(は? 何?)
俺の名前が呼ばれた。シエッタさんの話は、途中から全然聞いてなかったが……。
「カオルさん、すごいです!」
(ちょっと待て。なぜ、俺の名を知っている?)
ビルクに、天界で付けられた名前を教えたことはあったか? くそっ、情報塔で大量に入ってきた未整理の情報のせいで、記憶が曖昧だ。
「転生師1位は、171人、アドル・フラットさん! おめでとうございます!」
アドル・フラット? 聞いたことのある名前だ。皆の視線をたどると……あっ、彼もアから始まる名前か。
「転生師1位のアドル・フラットさんには、ご挨拶をお願いします〜」
シエッタさんに促されて、彼は、マイクの前に立った。あれも魔道具だ。拡声の魔道具と呼ぶらしいが、マイクでいいだろう。
「転生塔10階フロア長のアドル・フラットです。皆さん、程度3の全員命令、お疲れ様でした。すべての魂は、無事ブロンズ星に転生しました。ありがとうございます」
フロア長は、いつもとは少し雰囲気が違う。緊張しているのか? 珍しくキリッとした表情を浮かべている。だから、僅かな笑みを浮かべていても、とんでもなく怖い。
彼の吸血鬼のような顔は、真顔だと……目が合うだけで、ヒヤッとする。威圧感どころではない。命の危機を感じるのだ。
俺も、見た目は、暗殺者のようなクールすぎる顔だが、フロア長に比べれば、優しい顔だと自信を持って言える。
パチパチと盛大な拍手が収まるのを待って、フロア長は言葉を続けた。
「皆さん、ありがとうございます。ですが、1位とは言っても、2位とは誤差程度の僅差でした。まさか、ウチの新人くんがここまでやるとは、驚きましたよ」
(は? 何を言っている?)
皆の視線があちこちに彷徨っているようだ。俺を捜しているのか?
「アウン・コークンさんは、10階勤務でしたね。私達の間では有名ですよ〜。しかも大胆なやり方と、きめ細かい対応をする余裕に、私、驚いてしまいました!」
シエッタさんはそう言うと、俺に向かって手を振ってくる。
(おい、やめろ)
だが人々の視線は、ビルクと一緒にいる俺はスルーしているようだ。ビルクの悪評も、役に立つじゃないか。
「ふふっ、アウン・コークンさんは恥ずかしいみたいですから、皆さん、見ないであげてくださいね。次の機会は、アドル・フラットさんの1位死守は厳しそうですね〜」
「皆が本気で競うと、俺なんて10位にも入れませんよ」
フロア長は、シエッタさんの挑発には乗らず、うまくスルーしている。もう、いつもの口調に戻っているようだ。
「そうですかぁ? こないだの全員命令では、女神様の指示で、皆さん張り切って参加されていましたね」
「アウン・コークンさんは、そのときの転生者ですよ」
(は? 俺が?)
「まぁっ! ピヨピヨな新人さんなのに、この転生数ですか!? しかも、転生先を3択で、希望をすべて完璧に叶えてましたよ〜っ」
(すべて成功したか。よかった)
だがしかし、イベント塔の管理者は、転生をショータイムだと考えているのか? 人の一生がかかっている選択なのに、遊び感覚でやっているように感じる。
おそらく、これは、魂の転生システムのせいだ。
シエッタさんは、すべての魂の転生は下級魔族でいいと言っていた。一択の方が転生の効率も良いのだろう。
だが、下級魔族からスタートして、まるでゲームのように、自分の魂の格を上げていくシステムには、疑問しかない。
魂の転生システムは、本来の目的とは違う形で運用されている気がする。だからロロ達のように、死にたがる奴らが大量に発生するのだ。
スパーク国で見てきたアレは、俺には理解できない光景だった。彼らを見守る魔王には、あまりにも残酷なことだ。
(あっ、魔王スパークも天界人か?)
サキュバスに生まれた女アンゼリカは、生まれ変わる前、魔王スパークのことをアドと呼んでいた。
アド・スパークという名前は、女神の名付けの法則に当てはまる。アから始まる名前は、魔王候補者の天界人だ。
そう考えると、魔王スパークが、あんなに天界のことに詳しかったことにも納得だ。おそらく彼も、転生システムに疑問を持っている。
「カオルさん、行きますよ?」
ビルクが手招きしている。
「えっと、何ですか?」
「聞いてなかったんですか? イベント塔に、ランキング報酬をもらいに行きましょう」




