54、天界 〜大量の転生と、効かない活力玉
『皆さんが生まれる星は、大魔王が治めるブロンズ星という星です。3つの選択肢から、どの種族に生まれたいか決まりましたか?』
迷う魂もいれば、すぐに決断する魂もいる。俺は転生の光を維持しながら、すべての魂の返事を待つ。
『皆さんが、どの国に生まれるかは運次第です。良い人生になりますように』
それぞれの希望に合わせて、決断した魂から順に、ブロンズ星へと飛ばしていく。
(くっ、かなりキツイな)
魔力はそれほど必要としない。だが、一気に入ってくる意見を聞き、希望に沿うように振り分ける作業は、想像以上に神経を使う。
そして最後の魂を送り出すと、安心したのか疲れからか、俺の身体がグラリと傾いた。手足がうまく動かない。
(くっ、倒れる)
「おーっと、危ないな〜。だから、無茶だって言ったんですよ〜」
俺の身体を何かが支えた。シエッタさんの魔法か。
「シエッタさん、すみません」
イベント塔の管理者の彼女は、ふわりと柔らかな笑みを浮かべた。いや、不敵な笑みという方が正確か。
「アウン・コークンさん、魔力の使い方が上手いですね。ほとんど消費していない。はい、これをどうぞ」
彼女は俺に、飴玉のような包みを渡した。
「これはお菓子?」
「ふふっ、セバス国の強さの秘密ですよ。特別に差し上げます。私も食べようかな」
彼女は、俺に渡したのと同じ包みを取り出し、飴玉のようなものを口に入れた。そして、カリッと音がした瞬間、パッと強い光を放った。
(飴玉を噛んだのか?)
「アウン・コークンさんも、どうぞ〜」
害のあるものでないと示すために、彼女も食べてみせたのか。俺も口に放り込む。
(げっ、飴玉じゃねぇな)
ピリッと痺れを感じた。
「すぐに噛む方がいいですよ〜。美味しいものじゃないから」
そう言われて、俺は頷き、カリッと噛んでみる。その瞬間、飴玉のようなものは口の中から消えた。
(何だったんだ?)
「あら、貴方には効かないみたいですね。ということは、必要ないのかぁ」
彼女は少し目を見開き、考える仕草をしている。だが、すぐに今は忙しいことを思い出したらしい。
「のんびりしていられないですね〜。さぁ、どんどん片付けていきましょう」
彼女がパチンと指を鳴らすと、また、大量の魂が入ってきた。
「私は、外からひとつずつ引っ張ってきますから、部屋の中は、お願いしますね〜。程度3ですからね〜」
俺は同じように、すべての魂を転生の光で包み、それぞれの希望に合わせて転生させていく。
(ん? さっきよりは楽だな)
あの飴玉のようなものの効果だろうか。俺には効かないと言っていたが。
部屋の中の魂がなくなると、彼女は、すかさず指をパチンと弾く。俺に休憩させない気だな。
それが何度も続いた。一度に入ってくる魂は、20人くらいだから、俺はもう100人以上は転生させたか。
大魔王が治める星だと伝えたことで、3択にしてあった選択肢から、人間を選ぶ魂は一人もいなかった。
武闘系か魔導系かを選択させたことになったが、2択ではなく、やはり3択でよかったと感じる。何となくだが、その方が、自分の人生に前向きになれるような気がするからだ。
(俺にも、たくさんの選択肢があったらな……)
そんなことを考えていると、彼女はチラッと俺の方を見た。また思考を覗かれているのだろう。
「はーい、終了です! 皆さん、お疲れ様でした〜。これから発表に移ります。少しお待ちくださいね」
突然、部屋を区切っていた仕切りが消えた。そして、シエッタさんも、スッと姿を消した。
(発表って、何だ?)
すべての魂がどこに生まれたかということか? 俺は、ひとりずつの霊体をしっかり見ていなかったから、あまり覚えていない。
人間に転生したい魂がいれば、サポートをしてやってもいいと思っていたが……みんな魔族だったからな。
「カオルさん! お疲れ様です。かなり疲れたんじゃないですか? よかったら、これをどうぞ」
ビルクが、駆け寄ってきた。そして俺に何かを差し出す。
(さっきの飴玉か?)
「ビルクさん、それは……」
「セバス国の裏特産ですよ。表向きは、家具や装飾品がセバス国の特産品ですが、裏では、こんなのを作ってるんです」
(裏特産?)
そういえば、ゴブリンだった男レプリーの村では、タオルが特産品だが、裏では武器を作っていたようだ。
人間の村だから、国の特産とは違うだろうが、どこも、表の顔と裏の顔があるのかもしれない。
「それ、さっき、シエッタさんがくれましたよ。効果はよくわからなかったけど」
するとビルクは、少し意外そうな表情を浮かべた。
「あの女が? 珍しいこともあるんですね。セバス国の特産株を買ったらもらえる、活力玉なんですよ。食べると疲れが吹き飛んで、ガツンと魔力量が跳ね上がるんです」
「だから、シエッタさんは強く光ったのか」
魔力を回復するアイテムなのか。だが俺には効かないと言っていたが。
「あれ? カオルさんは、その上昇を感じなかったんですか。うぉぉぉぉ〜って……」
ビルクが、オーバーアクションの芸人のように見える。
「口の中に入れたらピリッと痺れたけど、噛むと何もなく消えた感じでしたよ」
「えっ……カオルさんには効かないんですね。毒耐性が半端ないですね〜」
(回復薬じゃないのか?)
「活力玉って、毒なんですか」
「ある種の毒ですね。とは言っても、身体を害するものじゃないです。疲れから出る毒素を打ち消して、マナに変換するものなんですよ」
「へぇ……ヤバそうですね」
「確かに、ヤバいです。これを使い続けると永遠に戦えますからね。貴重なものだから、そんなにたくさんは流通してないんですが」
なるほど、だから彼女は、それがセバス国の強さの秘密だと言ったのか。そして、俺には必要ないということは……俺は、疲れによる毒素が出ないということか?
(疲れを感じたが)
「お待たせしました〜。発表します!」
イベント塔管理者シエッタさんの明るい声が響いた。