52、天界 〜情報塔前、全員命令
俺が得た勲章の星が11個になった。頭の中に浮かぶのは、情報塔からの連絡のようだ。
【勲章の星10個到達おめでとうございます。情報塔で身分チェックをすることで、新たな情報を受け取ることができます】
念話ではない。記憶の中の写真のように、文字として見える。しばらくすると浮き出してきたのか、目の前でチカチカと点滅を始めた。
(ウザすぎる)
「カオルさん、10個貯まりましたよね? 情報塔へご案内しますよ」
完全に俺のマネージャー状態のビルクは、魔道具塔の最上階で待ち構えていた。
「ビルクさん、新人の俺でも、場所はわかりますよ?」
「情報塔は、一人で行くと危険なんですよ」
(は? なぜ、天界にいて危険なんだ?)
俺が断っても、ビルクは付いてくるだろうな。背後に、管理者の視線を感じる。ビルクと行動を共にするべきか。
◇◇◇
情報塔へと移動した。
塔の入り口付近には、椅子がたくさん並んでいる。何人かが座っているが、何をしているのだろう? 頭を抱える者が多い。投資で損でもしたか。
俺は、趣味の悪い像に触れ、身分チェックをした。すると、頭の中に、一気に情報が流れ込んでくる。
勲章の星が10個貯まったことによる情報だけじゃなさそうだ。大量すぎる情報の波に、めまいを感じる。
「あっ、わっと、カオルさん、大丈夫ですか? しばらく身分チェックをしてなかったんですか」
ふらついた俺をビルクが支えてくれた。
「いえ、魔道具塔でしましたよ」
「工房系の塔では、最低限の情報更新しかできないんですよ。転生塔が、そういう意味ではバランスが良いです。この情報塔は、不要な情報まで入ってくるから、一人では危険なんですよ」
ビルクが話している間にも、情報が流れ込んでくる。身分チェックの魔道具から手が離れない。俺の頭が破裂するんじゃないか? 情報の暴力だ。
(くそっ!)
あまりの情報量に、俺は吐き気まで感じてきた。どれが勲章の星を集めて解禁された情報かさえわからない。
俺があやうく気絶しそうになったところで、やっと手が魔道具から離れた。頭がチリチリする。
「カオルさん、大丈夫ですか。次は、俺が身分チェックします。カオルさんは、そちらの椅子で休んでおいてください」
この意味不明な椅子は、そのためのものか。そういえば、椅子に座っている人達は、気分が悪そうだ。
ビルクは魔道具に手をかざしている。だが、記憶をほとんど引き継いでいるためか、短時間で終わった。
「カオルさん、座ってなくて大丈夫ですか」
「はぁ、まぁ。頭の中は、ごっちゃごちゃですけどね」
「最初の数年は、そんな感じです。だんだん慣れてきますけど。あー、面倒なことになってるから、ちょっとここを離れましょう。動けますか」
俺はまだ頭がチリチリしていた。だが、面倒ごとには巻き込まれたくない。
何が面倒なのかを、与えられた情報から探そうとすると、また吐き気がしてきた。これほど椅子に座りたいと思ったのは、初めてだ。
「ビルクさん、もう少しだけ待ってもらえ……えっ」
目に映る塔、すべてがチカチカと点滅して見える。目までおかしくなったか。
「カオルさん、全員命令になりました。面倒ですね」
「全員命令?」
「はい、そのうち命令が届きます。魔道具塔で次の仕事をしていれば良かったですね。作業中の人以外、全員に命令ですよ」
ビルクは、ため息をついて椅子に座った。俺も、椅子に座る。ふぅ、座るとだいぶ楽になる。頭のチリチリも少しずつマシになってきた。
塔がチカチカと点滅しているのは、全員命令の合図らしい。可能な限り、すべての作業を中止せよということか。
あちこちで、人々が座り始めた。歩いていた人も、道に座り込んでいる。
(ラッキーだったかもな)
あっという間に、空き椅子は無くなった。まぁ、頭がチリチリしていなければ、わざわざ座る必要もないが。
『天界にいる天界人の皆さん、こんにちは。突然申し訳ありません、転生塔の管理者リーナです』
(えっ? あの神々しい女性か)
突然、頭の中に声が響いてきた。それを聞いた人々の表情が、若干デレッとしたように見える。
『もうすぐ天界に、大量の魂がやってきます。ですがタイミング悪く、今ゴールド星で、年に一度の神々の会議が行われています。だから、女神ユアンナ様はもちろんのこと、主要な人達が留守なのです!』
(幼女も留守だったな)
幼女アイリス・トーリは、ブロンズ星の大魔王リストーだ。神々の会議には大魔王も呼ばれるのか。
『転生師の皆さん、そして転生師見習いの皆さん、さらに、魂の交通整理が可能な皆さん……あっ、全員、案内は可能ですよね』
慌てているのか、転生塔で会ったときとはイメージが違う。いや、わざとか? 助けてあげなければという気にさせられる。
『えっと、お手隙の皆さん、お手伝いをお願いします。拒否の方は塔の中へ、それ以外の方は3分後に強制転移を実行します。よろしくお願いします』
念話が終わった。
道に座っている人達は、そのままボーっとしている。慌てて近くの塔に駆け込む人達もいるか。
だが、塔から出てくる人の方が圧倒的に多いようだ。チカチカと点滅する塔から飛び降りるようにして、多くの人が外に出てくる。
(窓をすり抜けるのか)
「塔から飛び降りて、みんな無事なんですね」
俺は、ビルクに尋ねた。
「塔が点滅しているときは、あんな風に外に出られるんですよ。塔から飛び降りると、勝手に浮遊魔法がかかるんです」
「へぇ、すごい仕組みですね」
「昔、天界が襲われたときに、塔自体を魔道具化したらしいです。その頃には、俺はまだここには居なかったですが」
(塔は、魔道具なのか)
ビルクは、天界人歴が長いと言いたいのか……まぁ、スルーしておこう。
だがしかし、天界が襲われただと? 一体、何者が襲ってくるんだ? 天界の敵に関する知識は与えられていない。未知の怪物が居るのだろうか。
強制転移のカウントダウンが始まった。