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47、ルブレ国 〜アメリア・ルブレの正体は

「カオルさんですね〜。わっかりましたぁ〜」


 アメリア・ルブレと名乗った彼女は、相変わらずなハイテンションで、手を大きく振りながら歩いていく。熊アバターを着ていないのに、着ぐるみを着ているかのような不思議な歩き方だ。



 俺は、彼女を追って無言で歩いていく。だが、ひとつの疑問が頭から離れない。


 ここは、ルブレ国だ。さっき、彼女は自分の国だと言っていた。そして彼女の名前は、アメリア・ルブレ。だが、彼女は天界人だ。魔王ルブレの関係者なのか?


 俺の研修を担当した幼女アイリス・トーリは、大魔王リストーだった。天界人が大魔王を務めることに驚いたが、大魔王といえばブロンズ星の王だ。天界人が務めるのも、わかる気がする。


 しかし魔王は、何百あるかわからない各国の王だ。魔王も天界人が務めるのだろうか? 


 いやそれなら、なぜこんなに戦乱が多い? 天界人は争うことを、禁じられているのではないのか?


 俺は、3人のクズに死神の鎌を向けただけで、ガツンと罰金を取られた。いま思い出してもムカつく。圧倒的にアイツらの方が悪いのに、あまりにも理不尽だ。


 天界では、口論はあっても派手な喧嘩はない。だから逆に、ブロンズ星で喧嘩しているとも考えられるが。




「カオルさん、ここですよ〜」


 突然立ち止まった彼女は、美しく手入れされた庭園を指差している。その奥には、大きな屋敷のような建物が見える。避暑地によくある上品なペンションのような感じだ。


「綺麗な庭ですね」


「きゃはっ、うれしいな〜。私の城なんです〜」


(城には見えないが)


 この言い方は、まるで自分が魔王ルブレだと言っているようにも聞こえる。


 だが、俺が何かを考えていても、彼女は何も気づいていないようだ。もし魔王なら、新人転生師の頭の中くらい覗けるか。




 上機嫌で進む彼女を出迎えに、数人の男性が現れた。彼らは、俺にも軽く頭を下げている。青いスーツのような制服を着ている。使用人だろうか。


「みんな〜、カオルさんだよ〜。ビルクさんが連れて来たから、私がお世話してるの〜。まだ新人さんだから、何も権限がないかも〜。でも、私が魔王ルブレだって見抜いたから、油断できない新人さんだよ〜」


(魔王ルブレ、本人なのか)


 これは、配下に警戒を促しているのか?


「姫様、新人さんの星集めの世話ですか。かしこまりました。あのビルク殿が認めている新人さんなら、魔王候補者ですな」


(魔王候補者?)


「こら〜! 何も権限のない新人さんだってば〜」


 そう言いつつも、彼女は怒っている様子はない。


「失礼いたしました。カオルさん、ようこそ、ルブレ城へいらっしゃいました。ごゆっくりと、おくつろぎくださいませ」


「ありがとうございます」


 俺は使用人に、軽く会釈をした。この国での天界人の地位がよくわからないが、一応の礼儀だ。


 だが、彼の背後にいた使用人は、少し驚いたような表情を浮かべている。俺は会釈すべきではなかったのか?


(俺は、何を弱気になっている?)


 雰囲気にのまれてしまっているのか。オドオドしているわけでもないが、落ち着かない気分だ。



「明日にはすぐ天界に戻るから、全然ぐうたらできないんだよ〜。今回は、美味しいごはんを食べて眠るだけかも〜」


 彼女はそう言うと、俺を手招きした。


「カオルさん、私の城のごはんは、美味しいんですよ〜」



 ◇◇◇



 パチンと指を鳴らす音が聞こえた次の瞬間、俺は、レストランのような部屋に移動していた。


 彼女ではない。別の誰かの術か。


 ペンションのように見えても、ここは魔王の城だ。ただの使用人に見える人達は、すべて有能な配下かもしれない。


(やはり、なんだか落ち着かない)



「カオルさん、こっちですよ〜」


 彼女は、熊アバターを着ているかのような動きで、窓際の席へと歩いていく。見えないだけで、着ているのかもしれないな。


 指定された席に座ると、次々と料理が運ばれてきた。


(いきなり肉か)



「カオルさん、どれも美味しいので、たくさん食べてくださいね〜。周辺国からも、よくお客さんが来るんです〜」


「綺麗な庭園が見えるレストランは、誰かを連れて行きたくなりますよね」


(なぜ、俺は媚びた言い方をしている?)


「うふふっ、嬉しいな〜。カオルさん、遠慮なく食べてくださいね〜」


 彼女は空腹だったのか、ガツガツと食べ始めた。天界人ではないのか? 天界人は食べなくても眠らなくても生きていける。



 俺は、フォークとナイフを使って、食事を始めた。確かに美味い。たまに、ピリッと刺激を感じるものもある。香辛料だろうか。タイ料理に近い甘辛な料理が多い。


 ふと、彼女の視線を感じた。目が合うと、ニヤッと笑っている。これまでとは違う邪悪な笑みに見えた。


(毒でも仕込んだか?)


 さっきから、ずっと落ち着かないし、媚びたような変なことも言ってしまう。まさか、操られているのだろうか。


 転生塔のフロア長の言葉が、頭をよぎる。


 俺を簡単に操ることのできる魔王は、それなりの数が居るんだよな。


(あっ、アレを使ってみるか)


 俺は、自分をクリーニングしようと意識する。食事をしている最中に行儀が悪いかもしれないが……。


 身体を淡い光が駆け抜けていく。シャワーをしたようにサッパリした。そして、身体は軽くなったようだ。


(やはり、何かやられていたか)



「あら、今のは、何ですか〜?」


 彼女は、首を傾げている。すっとぼけているのか。もしくは、彼女の配下が勝手に仕込んだか?


「食事中にすみません。ちょっと身体がムズムズしたので、クリーニングしました」


「まぁっ! 私もして欲しいです〜。泥をかぶっちゃったんです〜」


「いいですよ」


 俺は立ち上がり、彼女に近寄る。ただのシャワーを意識して魔力を放った。淡い光が彼女の身体を包み、スーッと消えていく。


「すごぉ〜い! サッパリしましたよ〜。カオルさんのオリジナル魔法って便利ですね〜」


(すっとぼけているようには見えないな)



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