45、天界 〜魔道具塔、石の橋づくり
「この魔道具塔の星を集めたい人を連れてきたぞ」
ビルクは、俺を魔道具塔2階に連れて行くと、気の弱そうな職員に、上から目線でそう言った。この話し方は、スパーク国で会ったときのビルクそのものだな。
「わぁっ、助かります。5階工房へお願いします。報酬の安いものが全然足りなくて……」
(嬉しそうだな)
職員は笑顔を張り付け、俺にまでぺこぺこと低姿勢だ。報酬が安くて人手が足りないのか。俺は何も知らない新人なのに、そんなにぺこぺこするのか?
「カオルさんは昇降機で5階へ行ってください」
「ビルクさんは、別の仕事ですか?」
「カオルさんの次を手配してきます」
そう言うと、ビルクは俺をエレベーターに乗せた。働く気がないのかとも思ったが、あの顔は逆か。妙にイキイキとしている。まるで俺のマネージャーかのようだな。
(まぁ、いいか)
◇◇◇
5階に到着すると、塔の中とは思えないような広い部屋が広がっていた。外から見たイメージとは違って、なんだか騙されているような感じがする。
「あ、あの、初めての方でしょうかぁ?」
オドオドした表情で声をかけてきた熊。熊アバターか。危険な作業をしているのだろうか。
「初めてです。勲章の星を集めたくて……」
「まぁっ!! ありがとうございますっ!」
なぜか、ふわふわな着ぐるみで抱きつかれた。
(何だ?)
俺がジッとしていると、熊はパッと離れた。
「きゃぁ、す、すみません。うれしくてつい〜。さ、さ、こちらへどうぞ〜」
(ちょっと苦手だな)
こんなテンションの奴には、どう反応すればいいか全くわからない。キャッキャと楽しそうな熊だらけだ。
「お兄さん、あの〜、これを被っていただいて〜、石の橋がとっても不足しているのです〜」
熊アバターを着せられるのかと一瞬ヒヤリとしたが、違った。ベレー帽のような被り物だ。それを被ると仕事内容に関する情報が、一気に頭の中に流れ込んできた。
(マニュアル帽か)
この魔道具塔では、石を利用した箱庭のパーツを作っているようだ。指定された形のものを実物大で作り、それを小さなパーツへと変換するらしい。
実物大の物を箱庭サイズにするのは、箱庭師の魔法か。これは俺にはできないことだ。
俺が、実物大の橋を作れということらしい。そのための造形魔法のようなものも、いま、教えられたようだ。
「ここでいいんですか」
「あっ、はーい。お願いしまぁす」
俺は、広いガランとした場所で、マニュアル帽の指示通りに魔力を放つ。
(あっ、強いか。うん?)
帽子を被っていると、勝手にサポートされるらしい。指示通りの石の橋が現れた。
「わぁっ、一度で成功する人は少ないんですよ〜。助かります〜。ありがとうございます〜」
明らかにおだてているとわかるが、熊には悪意はないらしい。嬉しそうにパンパンと手を叩いている。
そして、熊の一人が、俺が作った石の橋に魔力を放った。すると、みるみる小さくなっていく。あっという間に手のひらサイズだ。
「へぇ、箱庭師ってすごいですね。あっという間にパーツに変わって、驚きました」
「きゃははっ、嬉しいな〜。誰もそんなこと言ってくれないんですよ〜」
熊が何人も寄ってくる。お世辞を言ったつもりはないが、なんだか媚を売るような言い方をしたような気になってきた。
(居心地が悪い……早く終わらせるか)
俺は、次々と石の橋を作っていく。4〜5個目からは、帽子にサポートされることもなくなってきた。
「わぁっ、助かります〜。あと10個くらいで終了で大丈夫です〜」
パンパンと手を叩いて喜ぶ熊……。まだ、あと10個も作れと言っていることに、本人は気づいてないらしい。
俺は自分の魔力量が測れないから、限界がわからない。自分をサーチできる魔道具が欲しいものだ。
(報酬で、買うか)
いや、今はそんな買い物をする時間はもったいないか。転生塔の1階の店の売り物を思い出してみても、それらしい魔道具はなかった。
確か幼女は、決まった売り物のない塔の1階には、いろいろな物が揃っていて便利だと言っていた。逆に専門性の高い物は、それぞれの塔へ行けということだ。
サーチできる魔道具がどこで売っているかを探すだけでも、小一時間かかるかもしれない。俺は9日程度で、可能な限り勲章の星を集めたい。それに転生師レベルも上げたいんだよな。
(やはり、買い物は後日だな)
「わぁっ! すごぉお〜い。ありがとうございます〜」
俺が黙々と石の橋を作っていると、やっとストップの声がかかった。次の作業は何だ?
「いえ、こちらこそ。星をもらうには、あとは何をすればよいのでしょうか」
「地上の設置の補助までお願いします〜。報酬を辞退されるなら、製造部と現地調整部の両方から、星がひとつずつ出ます〜」
「えっ? この程度で星をくれるんですか?」
そう尋ねると、何人もの熊が、一斉に首を傾げた。
「謙虚な方なのですね〜。助かります〜。では、10階へ移動をお願いします〜。あっ、私も同行します〜」
(この語尾は何とかならないのか?)
◇◇◇
「星希望の、すっごぉい人を連れてきちゃいましたよ〜」
10階に移動すると、熊がキャピっとした声で、くだらないことを言っていた。聞こえないことにしておこう。気にしていると疲れる。
「助かるよ。キミ、今すぐ、行けるかな?」
「あ、はい、大丈夫です」
そう返事をすると、彼は準備を始めたようだ。このフロアは、忙しそうだな。
「この人、ビルクさんが連れてきたんです〜。星集めを始めたばかりみたいですよぉ〜。でも、ほんの僅かな時間で、石の橋を26個も作ってくれました〜」
空気を読まない熊が、のんびりとそんな話をしている。
「じゃあ、他の塔にも連絡しておくか。あのビルクが認めた新人なら、間違いはない。現地で一泊して来てくれ」
(ブロンズ星で一泊?)
「えーっと……」
「宿代は不要だ。その子が案内するよ」
(なぜ、泊まる必要がある?)




