表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/215

42、天界 〜ビルクの件、裏事情

「はい? 星集めの手伝いですか?」


 俺が問い返すと、ビルクは笑顔で頷いている。すべての知識を引き継いだと言っていたが、魔王クースのことは知らないと言う。


(信用できる気がしない)


「俺も、勲章の星は集め直すので、ご一緒できればと思っています。カオルさんは、早く集めたいのですよね?」


「いろいろな人から、そう言われていますが……」



 コンコン


 個室の扉をノックする音が聞こえた。ビルクは立ち上がり、扉を開けた。すると、仁王立ちの女性がいた。


「あんた、こんなところで……あれ? 女じゃないの?」


(はい?)


 その女性は、俺を見て首を傾げている。何か誤解があるようだな。


「おまえは何を言っているんだ? とりあえず入れ」


 ビルクは、その女性を個室に引き入れ、扉を閉めた。



「カオルさん、すみません。コイツは俺の女なんで……痛っ! 何をしやがる」


 女性に頭を殴られて言い返したビルクは、魔王スパークの城で会ったときのような雰囲気だった。これが素なんだろうな。


 女性はビルクを無視して、俺の前の席に座った。



「初めまして、カオルさん。このバカが個室を使うときは、いつも浮気をするときなんですよ。カオルさんは、お仕事関係の方ですか?」


「えっと、地上での仕事中に知り合いましたよ」


「地上で? あの、貴方は天界人ですか? それとも……痛っ。あっ、権限がない!? 天界人だ」


 その女性は、電撃をくらったかのように、ビクッとして顔を歪めた。そういう仕組みか。権限のない新人と話すのは危険らしい。


「おまえは、飲み物でも買ってこいよ」


「それなら、あんたが買ってきなさいよ。地上で暴れて討伐隊が組まれたんでしょ。その珍しいアバターで、反省でもしてるつもり?」


 ビルクは俺に頭を下げ、個室から出て行った。素直に飲み物を買いに行ったのか。




 彼が出て行くと、その女性はコロッと態度を変えた。


「カオルさん、いえ、アウン・コークンさんですね。ウチの亭主を救っていただき、ありがとうございました」


「えっ? ご存知だったんですか」


「ええ、私は、アイリス・トーリさんと親しくさせてもらってるんですよ。彼女に緊急要請の指令が出たことを知り、亭主は消滅すると覚悟しました」


「アイリス・トーリさんが、指名されたんですか」


「はい、死神の鎌持ちが暴走し、神々が処分すべきだと判断すると、彼女が指名されます。死神の鎌持ちを担当し指導することが、彼女の役割ですから……最期まで責任を負うそうです」


(幼女は、全員を担当しているのか?)


 俺は、女性に尋ねようと思ったが、やめた。権限がどうのと言われそうだ。


「そうでしたか。あの、ビルクさんは何だか……」


「はい、私がこの件を知っているとは、本人は気づいていません。天界では、アシュ・ビルクが死神の鎌を失い、格落ちしたことだけが伝えられています」


 そういえば経理塔の身分チェックのときに、そんな情報もあったか。詳細は見ていないが。


「地上で暴れたことは秘密なんですね」


「いえ、地上で暴れた罰として、死神の鎌と勲章の星を失ったことになっています」


(なぜ、そんな歪な嘘をつく?)


「ビルクさんがそう言っているのですか?」


「天界の情報です。アイリス・トーリさんが現地に向かうと、死神の鎌の暴走だとわかったから、鎌を消滅させたと説明されていました」


 知る人が聞けば、ビルクを殺して転生させたのだとわかるはずだ。没収も考えられるが、あの状況では不可能だろう。



「貴女は、アイリス・トーリさんから、俺のやったことを聞いたのですか」


「ええ、貴方が死神の鎌を使って、彼の魂を刈り、天界人に転生させてくださったことを聞きました。感謝の言葉もありません。ですが、それを知られると、一部の者達が貴方を狙う。だからアイリス・トーリさんの判断で、鎌の消滅と、彼への処罰という形に落ち着きました」


(は? 幼女の判断?)


「俺が狙われるのですか?」


「おそらく。天界には様々なタイプの人がいます。貴方に力があれば、今回の件はリベンジ転生だと報告されたと思います。ですが……」


「俺が、弱いからですか」


「強い弱いではありません。格と勲章の星です。亭主が引き起こした件で、各地の特産株が大暴落しました。それによって損失を受けた人達の恨みの矛先が、彼を助けた貴方にも向いてしまう」


(特産株?)


 そういえば、借りた部屋の人工知能が、特産株がどうとか言っていたな。天界人の趣味らしいが……。


「俺は、まだイマイチわかってないんですが」


「重要な情報は、労働と引き換えに与えられるのです。天界に貢献した証である勲章の星の数は、天界人の地位の証でもあります」


「だから、早く集めろと言われるんですね」


 俺がそう尋ねると、彼女は頷いた。


 働かざる者食うべからず……いや、働かざる者知るべからず、か。天界への貢献度によって地位が上がっていくシステムだ。


(悪くない)



「あの、アウン・コークンさん。亭主には、私は転生を知らないことにしておいてください」


「心配させるからですか」


「いえ、あのバカはプライドだけは高いので、私には知られたくないと思うんです。鎌に完全に操られるという失態も、おそらくは、私よりも権力を得たいと考えていたからだと思います」


(ふぅん、彼女の方が格上ってことか)


「わかりました」



 コンコン!


「バカが戻ってきましたわね」


 彼女が扉を開けると、たくさんの料理を持ったビルクが立っていた。その後ろには店員もいる。


「ポイントをすべて没収されていたのを忘れてた」


「あんた、ほんとにバカね!」


 呆れ顔の彼女は、店員に代金を支払ったようだ。



「ははっ、カオルさん、すみません。遅くなってしまって。俺のオススメの飯なんですよ」


「あんたが食べたいだけでしょ。カオルさん、ごめんなさいね〜」


 彼女の話し方が変わった。ビルクがいると雑な感じだ。彼女の配慮なのかもしれない。


 なぜか、突然の食事会が始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 重大な局面後のクスッと笑える回でした。 >>働かざる者食うべからず……いや、働かざる者知るべからず、か。 上手い言葉回しで気に入りましたw [気になる点] 権限不足により弾かれる情報。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ