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40、天界 〜スパーク国からの帰還

 魔王スパークは、部屋に待たせていた彼らを、弱々しい笑顔で見つめている。相手の考えが文字となって見える魔王の能力は、こういうときは辛いだろう。


 やはり、彼らは死にたがっているのだ。だから俺の提案に、絶望的な表情を浮かべたのだ。


 魔王スパークは、彼らの気持ちがわかるからこそ、生きて欲しいとは言えないか。


(やはり、この魂のシステムはおかしい)


 だが、それも言えない。彼らが疑問を持つと、このシステムを維持するために、おそらく彼らは、彼らが望まない形で殺される。



「カオル、やっぱりみんな困ってるよ〜」


(優しい魔王だな。エロ魔王だけど)


「そんなに、俺の友達になるのが嫌なのかな。ちょっと傷つきます」


 俺がそう言うと、彼らは慌てた。首を横にぶんぶん振ってくれる人もいる。


(ふっ、コイツらも優しいな)


「カオル、ちょっと考える時間が必要かもね〜」


「じゃあ、判断材料として、俺が考えていることを話しますよ」


「うん? 何かな〜」


「俺は、友達が精一杯生きて寿命が尽きて死んだときには、俺が記憶を引き継いだ状態で、一つ上の種族に転生させたいと思ってます。俺のことを忘れられたくないんで」


 すると、全員の視線が俺に向いた。


「ふふっ、そんなわがままな転生をさせるには、カオルの今の力じゃ無理じゃない?」


 魔王スパークがそう言うと、彼らが一気に落胆するのがわかった。


「俺は、まだ新人ですけど、転生師のレベルを上げればいいだけですよ。急いでレベル上げをするから、皆には今の人生を楽しみながら、待っていてもらいたいです」


 全員の視線が、また俺に集まる。わかりやすい単純な奴らだな。


「そっか、じゃあ、次にカオルが来るまでに、みんなには考えておいてもらおっか」


「へ? 次、ですか?」


「うん、カオルは天界に戻るでしょ? じゃなきゃ、転生師のレベル上げができない。だけど気をつけて。天界の1日は、ブロンズ星では1年だよ」


(なぜ、知っている?)


 あぁ、そうか。天界人をしょっちゅう呼び出しているから、情報は集まるんだったな。今の言葉は、俺ではなく、彼らに向けての言葉だろう。


「気をつけます。それから、10年いや9年後くらいに……」


「うん? 未来のことを僕達に言ってもいいの〜?」


(あっ、マズイか)


「いえ、何でもないです」


 魔王スパークは、俺が失言することを防いだのか? 確かに、未来のことを現地人に話すことは禁じられている。


 俺は、いつ追放されてもいいと思っていた。だが、ロロ達にこんな提案をしてしまったから、しばらくは行動に気をつけなければいけないか。



「ふふっ、じゃあ、カオルはそろそろお別れだね。もう帰還の転移が発動するよ。この部屋から出たら、帰ることになるかな〜」


 それを予定していたから、ここか。使用人を待たせるには豪華すぎる部屋だ。来客用の部屋だろう。きっと、様々な魔法を阻害しているはずだ。


 話の途中で、俺が転移してしまうことがないようにとの配慮だろうか。しかし、詳しすぎないか?


「魔王スパーク様、天界のことをよくご存知なんですね」


「ふふっ、その質問には今は答えられないよ。カオル、大魔王様も言っていたけど、勲章の星を集めなさい。今のカオルには話せないことが多くて、つまらないよ」


(は? 天界の勲章の星?)


 なぜ知っているかと尋ねても、答えられないのだろうな。


「お世話になりました」


「うん、僕の方こそ、ありがとうね〜」




「カオルくん、次はいつになるんですか」


 ロロが不安げな表情で、問いかけてきた。なんだか別れを惜しんでくれているように感じる。


「えっと、俺がここにいた期間後くらいでも、10年以上先か。10年いや9年以内に来るかもしれません」


「わかりました! 待ってますね」


 ロロは、ふわりと微笑んでいる。やはり、彼にはお気楽な笑顔が似合う。


 部屋の扉を開けた瞬間、転移を知らせる念話が届いた。


「じゃあ、皆さん、また」


 俺は、転移魔法の光に包まれた。




 ◇◇◇



「アウン・コークンさん、おかえりなさい」


 俺は、転生塔10階に戻ってきていた。久しぶりすぎて、頭が追いつかない。


「フロア長、ただいま戻りました。俺は、どれくらいの時間、ブロンズ星に行ってました?」


 俺がそう尋ねると、フロア長は意外そうな顔をしている。


「えーっと、1時間ちょっとかな。時間を遡って転移して行ったから、戻ってくるときに、少し時間補正がかかってますね。ついさっき、緊急要請の人達が戻ってきましたよ」


 時間補正の話は、よくわからない。現地へ向かうときに9日ほど過去に遡ったはずだが。


(面倒な話は、どうでもいい)



「ビルクさんは、天界人に転生したんですよね?」


「ええ、お疲れ様でした。そうそう、彼の人生の確認や確定承認は不要です。天界人のリベンジ転生ですから、すぐに報酬が出ますよ」


(リベンジ転生?)


 俺はとりあえず、適当に頷いておいた。


 そして空いている席に座り、情報を確認する。


 転生を担当して承認を保留にしてあるリストには、2人しか名前はない。ゴブリンだった男レプリーと、サキュバスに生まれたアンゼリカだけだ。


 2人の情報を確認したが、ほとんど変わりはないようだ。


(まぁ、当たり前だな)


 前回確認してから、天界での時間は、1時間ほどしか経過していない。現地時間では半月ほどか。



 俺には、時間がない。


 転生師レベルを上げなければいけない。いや、その前に、勲章の星を集めろと言っていたか。


 天界での1日は、ブロンズ星では1年だ。のんびりしている間に、サキュバスに生まれた女が、スパーク国に行ってしまう。



「アウン・コークンさん、忘れずに精算に行ってくださいね〜」


 フロア長は、なんだか意味深な笑みを浮かべている。


「はぁ、そのうち」


「経理塔で、貴方を待っている人がいますよ。あっ、服は着替える方がいいと思いますよ」


 確かに、俺は魔王スパークの使用人の服のままだ。


(着替えに戻るか)



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