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39、スパーク国 〜豪華な部屋にて

 俺は、魔王スパークの転移魔法で、スパーク国の城へと戻った。セバス国に捕らわれていた人達も一緒に、立ち入ったことのない部屋で、待たされている。


 使用人を待たせるには不釣り合いな、豪華な部屋だ。



「カオルくん、いえ、あの、カオルさん……」


 ロロは、俺に何かを言いたいらしい。だが、言葉が上手く見つからないようだ。


 理由もわからず待たされているためか、皆、重苦しい雰囲気だな。いや、理不尽に殺される機会を、俺が邪魔したからか。


「ロロさん、今まで通りで大丈夫ですよ」


「えっ、あ、うん、でもカオル……くんは、天界人で、しかも大魔王様と親しくて……」


(俺の素性を知って、ビビっているのか)


 他の人達も伏し目がちだ。まぁ、彼らの目の前で天界人ビルクを討ったからだろう。だが、死にたがるくせに、俺を怖れるなんて矛盾している。



「ロロさん、俺は、あの人が大魔王様だとは知らなかったんですよ。あの幼女……いや、女の子は、俺の研修を担当した先輩なんです」


「ええっ? そ、そうなの?」


 驚いて目を見開いたロロは、いつもの表情に戻っていた。だがすぐに、ハッとして表情を引き締めた。


「そうなんです。驚きましたよ〜。俺は研修を失敗したから、いつ天界から追放されるかわからないんです。だから地上では、魔族だと言ってます」


 そう説明すると、何人かの視線がこちらを向いた。なんだか同情されているような気がする。


「カオルくんは、あんなにすごいのに追放なんて……されるのかなぁ」


 ロロは、何か言いたいのを我慢して、俺を励まそうとしているようだ。まぁ、言いたいことの察しはつく。俺が死神の鎌を振るところを見ていたんだからな。


「俺は、天界人は向いてないから、魔族でいいんですよ」


「えっ? どうして? ゴールド星にまで行かないと、天界人への転生はできないのに」


(また、魂の格か)


 ロロは、シルバー星に行きたいんだったな。特殊な人達が治める星だ。ブロンズ星よりも小さく、知的レベルの高い星だったか。


 そして、ゴールド星は神々が治める星だ。シルバー星の人達が憧れるらしい。ゴールド星で死ぬと、天界人に生まれ変わる機会があるからか?



「ロロさん、天界人って、俺はまだよくわからないけど、なんだか変な人ばかりですよ」


「変な人?」


 ロロは、きょとんとしている。あまり夢を壊さない方がいいか。天界がつくった魂の格のシステムに疑問を持たせてしまうと、俺の話を聞いたコイツらは、記憶の引き継ぎ無しで殺されかねない。


「はい、天界の道を歩く人達って、変な姿の人ばかりなんです。共通点は、二足歩行しているだけかな」


「えっ? いろいろな姿の人がいるの?」


「はい、危険な物を扱う人達は、クマさんの着ぐるみを着ていますし……」


「クマ、さん?」


(知らないか)


 俺は、女神から与えられた知識を探る。スパーク国で、着ぐるみのクマに似たものは……。


「畑の収穫祭の厄祓いの被り物みたいなヤツです」


「ええ〜っ? ミルクルベア? かわいいですね〜。子供達が身につける厄除けの衣装なんですよ」


(その名前は知らないが……)


 俺は適当に、微笑んでおく。



「他にも、人には見えないような人達がたくさん歩いているんです。それに、この国のような草原が無いんです」


「ええっ? 食べ物はどうするの?」


「天界人は、食べなくても眠らなくても、生きていけるんですよ。だから俺は、地上の方が居心地がいいです」


「ええ〜っ! だからビルクさんも城がいいって言ってたんだ……」


 彼らは、天界人ビルクを思い出した流れで、俺が殺したことも思い出したみたいだな。皆、複雑な表情をしている。


 だがロロは、俺に殺して欲しいとは言ってこない。遠慮なのか、その理由はわからない。




「みんな〜、お待たせしちゃったね〜」


 魔王スパークが、部屋に入ってきた。すると彼らの表情は、一気に明るくなった。だが、ちょっといびつな笑顔だ。


「魔王様、今回の失態、申し訳ございません!」


 ひとりがそう叫ぶと、皆が一斉に頭を下げた。


 魔王スパークは、そんな彼らを笑顔でサーッと見回している。だが、そのアイドル顔負けの爽やかな笑顔に、諦めの色が混ざっていく。


(子供達の心の声が見えるからか)


 俺に殺してくれと言わなかったのは、このためか。皆、今回の失敗により、処刑されることを望んでいる。


 魔王スパークが彼らに生きてほしいと願っていることを、彼らは知らない。


 ふと、魔王スパークの視線が俺に止まった。


(俺に何か、期待しているようだな)


 俺がそう考えると、魔王スパークはフッと笑った。



「みんな〜、あれは仕方ないよ。セバス国の調査兵は、強いからね。気にしなくていいよ」


 魔王スパークは、爽やかにそう言いつつも、その笑顔は弱々しい。


(はぁ、仕方ねぇな)



「魔王スパーク様、ちょっといいですか?」


「うん? なんだい? カオル」


(俺の名前、まだ覚えていやがる)


 俺は、部屋にいる人達に視線を移した。この大半は、魔王スパークの子なんだよな。


「魔王様の探し物を、俺は見つけましたよ。だから褒美が欲しいんですよね」


「へぇ、何が欲しいのかな?」


「俺、友達がいないんで、ここにいる人達全員を、俺の友達にしたいんすよ。あっ、ロロさんのことは既に友達だと思ってますけど」


 すると魔王スパークは首を傾げて、何かを考えているようだ。いや、彼らの反応を読んでいるのか。


「カオル、その友達というのは、奴隷のことかな?」


「違いますよ。対等に話せて、一緒に飯を食ったり、くだらない話で笑い合ったりする関係です。コイツら、放っておくと、すぐに死にそうじゃないですか。魔王様が、コイツらを死なせないようにして欲しいです」


 俺がそう言うと、彼らの表情は絶望に染まった。


(そんなに嫌かよ?)


 だが、その反応に一番傷ついているのは、魔王スパークだろう。


「どうしようかなぁ〜。みんな困った顔してるよ」


(あっ、そうだ! いいことを思いついた!)



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