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36、セバス国 〜責任を負う者

 俺は、いま、大混乱中だ。


 やばそうだと怖れていた雷帝の二つ名を持つ大魔王リストーが、まさかの毒舌幼女アイリス・トーリだと? しかも、天界人だとも言っていた。天界人が大魔王を務めるのか?


 大魔王といえば、巨大なブロンズ星の王だ。


 何百あるかわからない国には、それぞれの国を治める魔王がいる。そして、その魔王を治めるのが、大魔王だ。


 天界人アイリス・トーリが大魔王だなんて、女神から与えられた知識にはない情報だ。


(知る権限がないからか)


 大量の知識を与えられていても、それはこの世界のすべてではない。逆に、隠されている情報の方が多いのかもしれない。



 毒舌幼女が、雷帝の二つ名を持つ大魔王リストー。天界にいるときとは、別の名前を使っているのは、正体がバレないようにするためか。


(俺は、幼女に騙されていた……)


 幼女は、俺の研修を担当した先輩だから、一応、その忠告は、常に頭に置いていた。魔道具枕は、まだ買う金が貯まっていないから買ってないが、幼女のアドバイスに従おうと思っていた。


 それなのに、転生師の先輩ではなく、大魔王だと? ふざけんな。騙しやがって……。ぼっちな幼女に構ってやろうとした俺の親切心までも、裏切りやがった。


(いや、それは違うか)


 俺が勝手にしたことだ。俺の虚栄心か。奴隷の服を着ている弊害かもしれない。はぁ、最低だな。




 突然、俺は外に移動していた。俺だけでなく全員だ。さっきの飛行機のない空港の空に、浮かんでいる? だが、国旗らしき旗は揺れているのに、風を感じない。


 ガタン!


 俺のすぐ下に、大きな檻が現れた。獣でも捕らえているかのような檻だ。だが、中にいるのは獣ではない。数十人の人間だ。


(あっ、ロロもいる)


 俺は下に降りようと、重力魔法を使ったが動かない。



「新人! 重力魔法は効かぬぞ。空に浮かんでいるわけではないからな」


 幼女は俺に、教えているのか?


「おま…………くそっ」


(大魔王に、どう話せばいいんだ)


 俺は、おそらく恐れている。この毒舌幼女のアバターの中身が大魔王リストーだと知らされて、ビビっている。


(情けねー)


 だからコイツは、こんなに偉そうな話し方をしていたのか。偉そうなんじゃなくて、ブロンズ星の王だ。俺のような新人の転生師が、気軽に近寄っていい相手じゃない。


(くそっ)


 前世のビビり癖が出てきたか。社長とかそういう人種は、苦手なんだよな。近寄ると、ろくなことにならない。


 あの日、ブタ顔の社長の手招きを無視できたら、きっと俺は死ななかったんだ。




「カオルさん、急にどうしたのかな? さっきまでの勢いは、どこへ行ったんだろう。おーい、大丈夫〜?」


 魔王スパークは、俺をからかうように、手を振っている。俺の反応を楽しんでいるようだな。



「スパークさん、あの人達は、どうするのかしら? すべて、貴方の城の人なのでしょう?」


 幼女……大魔王リストーが、そう尋ねると、魔王スパークは、芝居くさいドンヨリ顔を見せた。


「魔王セバスが、僕を誘き寄せるために人質にしたんですよ。僕が見殺しにしないことを利用してね〜。だけど、あの子達は、あの男を誘い出すためのおとりでもある」


「ふぅん、結局、殺すのですね」


(は? ロロを殺す?)


 すると魔王スパークは、ほんの一瞬だけ、真顔のような見せたことのない表情をした。すぐに笑顔に戻ったが。


「あの子達は、魔王の子に生まれたことで、さっさと死ねると期待しているでしょう? 僕がしてあげられることって……」


「ちょっと待てよ! おまえ、このまま見殺しにするとか言うんじゃねぇだろうな? アイツらに生きてほしいんだろ? 死ぬために生きるんじゃなくて、今の人生を全力で生きて欲しいんだろ? だったら、助けてくれって言えよ!」


 俺は、思わず……言ってしまった。サーッと血の気がひいていく。大魔王と魔王の会話を、ぶった切ってしまった。


 シーンと、重苦しい沈黙……。


 周りが凍りついているのかもしれない。


(やばすぎる)



「あっ、現れました!」


 重苦しい沈黙を破ったのは、魔王セバスの配下だ。



 かなり離れた場所に、人影が見える。


(あの男だ)


 天界人ビルクが死神の鎌を持ち、ロロ達が捕らわれている檻を見ているようだ。ここに大量に浮かんでいる人達には気づかないのか。


(そうか、今は、何も見えないのか)


 ここに来たとき、飛行機のない空港みたいだと思った。しかし、こんなに大きな建造物がある。これがセバス国の技術なんだ。




 幼女が、スタスタと空を歩いていく。いや、違う。さっきの部屋の中だ。


「リストー様が、やってくださるのですか」


 魔王スパークがそう尋ねると、彼女は振り返った。暗い顔だな。思い詰めたかのような……辛そうな表情に見える。


「私は天界人として、あの男を正しく導けなかった担当者として、無に帰する義務がある」


(なっ? 担当?)


「リストー様、また、引きこもらないでくださいね〜。暴走した転生師を始末するたびに、ゴールド星に引きこもられては困りますよ〜」


(ゴールド星に引きこもる?)


「おい、色欲の魔王、リストー様は引きこもるのではない。それが責任を負う者の定めだ」


 魔王セバスの言葉は、全く意味がわからない。だが、尋ねても無駄だろうな。俺には、知る権限がないのだろう。



 無に帰するということは、殺すのではなく消滅させるということか。魂を消滅させる必要があるほどの重罪か?


 責任を負うということは、処罰を受けるということか。俺が研修を失敗したときも、何かペナルティがあったらしいからな。


 だが、あのときには、あんな顔はしていなかった。処罰の程度が違うのだろうが……自分が教育担当した転生師を消滅させたくないんじゃないか?



 幼女は、チラッとこちらを見た。だが何も言わずに、空を歩いていく。


(反論しないということは、当たりか?)



 ガタン!



 扉が開くような音と同時に、幼女は、空から落ちていった。



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