35、セバス国 〜混乱するカオル
魔王スパークの転移魔法で、俺は、セバス国へと連れて行かれた。側近らしき魔導士風の男二人や、捕らえたセバス国の調査兵達7人も一緒だ。
到着したのは、広すぎる何もない場所だった。セバス国の軍事施設に、天界からの討伐隊が集まっていると言っていたが……誰もいないな。
(飛行機のない空港みたいだ)
地面は平らに固められていて、ただ広いだけの場所だ。かなり離れた所に建物が見える。あれが軍事施設なのだろうか。
「魔王スパーク、何ですか? その土産は?」
すぐ近くから声が聞こえたが、何も見えない。
「田舎町の市場で暴れていた兵を連れてきたよ。キミのとこの子じゃないかと思ってね〜」
突然、目の前の空間に、大きな裂け目ができた。まるで景色が背景画だったかのように破れたのだ。
(なっ、何だ?)
景色が裂けると、巨大な丸いオブジェのような建築物が現れた。そして扉が開き、その建築物に繋がる階段がガタンと落ちてきた。
魔王スパークは警戒もせずに、その階段を上がっていく。その後ろから、魔導士風の二人の配下が付いていった。
俺は、転がっているコイツらの見張りをしておこうか。もし顔を知る天界人と遭遇したら、説明が面倒だ。
「カオルも、来てくれる? その人達は放置でいいよ。もうセバスの別の兵が来てるから」
「は、はぁ」
魔王スパークは、俺が嫌がっているのがわかっていて、来いと言うのか。そういえば、苦手な天界人が来ていると言っていたか。
俺も、仕方なく階段を上がる。途中、チラッと振り返ると、拘束していた7人の姿が消えていた。無事回収されたのか?
階段を上がって、その建築物に入ると、広い立派な部屋になっていた。軍事施設というより、城のような雰囲気だ。
ただ、何十人もの武装した人達がいる。見た目も服装もバラバラだ。増援の天界人だろうか。
(あっ、アイツ……)
その集団から、少し離れた場所にポツンと立っている小さな少女。相変わらず、人混みが苦手なのか。腕を組み、口をへの字に結び……一言で言えば不機嫌そうだ。
俺が見つけたときには、彼女は俺に気づいていたのだろう。毒舌幼女は、俺を睨んでいるようだ。だが、こないだとは違って、元気がないというか暗い。
魔王スパークとその配下は、その集団を避けるように、奥へと進んでいった。そして、鎧を着た男と話をしている。あの男は、魔王ではなさそうだな。
(俺は、どうするかな)
魔王スパークに味方するつもりもないが、ロロが捕まっているなら、絶対に救出したい。ロロには世話になっている。
しかし、奥へ行くのも面倒そうだ。俺は今のところはまだ、この星の住人ではないからな。
(人見知りの相手でもしてやるか)
「おまえ、緊急要請を受けたのか?」
俺が幼女に問いかけると、まわりからの視線が突き刺さる。俺が、魔王スパークの城の奴隷の服を着ているからだな。
「は? おまえのようなスカタンに、答える義理はない」
幼女はギロッと睨んで、視線を逸らした。めちゃくちゃコミュ障なガキんちょじゃねーか。
「また、スカタンスカタンって、うるせーな。その毒舌を何とかしろよ。それに、人見知りが酷すぎるんじゃねぇの?」
「は? 私に話しかけてくるな、新人!」
「なんだよ、感じ悪りぃな。ってか、おまえ、緊急要請なんか受けて大丈夫なのかよ? 対象者は死神の鎌持ちだぜ、アイちゃん?」
ピリッと弱い雷撃をくらった。いや、違うか。コイツは苛立つと、勝手に雷撃を放つ癖があるんだったか。
「スカタン! おまえに、その呼び名は許可していない。それに、なぜその情報を知った? おまえには、その権限はないはずだぞ」
(毒舌全開だな……)
だけど、さっきより、少し表情はマシか。
「天界人ビルクとは面識がある。それに買い物の護衛中に、セバス国の調査兵に襲撃を受けた。その兵がベラベラと喋っていたからな」
「は? なぜ……あー、魔王スパークの天界人イジメのミッションか。報酬に釣られたんだな? スカタン」
「報酬は関係ねぇ。スカタンスカタンってうるせーぞ」
俺の声が大きくなったためか、その集団だけでなく、この国の魔王セバスの兵らしき奴らまで、俺の方を見ている。
(絶対、誤解してるだろ)
俺が幼女イジメをしていると勘違いしてねぇか? この毒舌幼女アイリス・トーリは、俺よりも転生師レベルが高い。この子供のアバターは、チカラを制御するためのものだろう。
「おや、賑やかですね〜。彼とお知り合いでしたか、大魔王様」
魔王スパークが、こちらに戻ってきた。
(いま、何て言った? 大魔王様?)
毒舌幼女は、魔王スパークをキッと睨んでいる。
「スパークさん、権限のない新人がいるのですよ?」
(は? また二重人格か)
幼女は、可愛らしい声でそんなことを言った。
「おや、カオルさんと親しいのかと勘違いしました。申し訳ございません、雷帝リストー様」
魔王スパークは、わざと俺に教えているらしい。これも、天界人イジメか。だが……ちょっと待て。毒舌幼女が、大魔王リストーなのか? 転生師じゃないのか?
(頭がチリチリする)
「スパークさん、何を言っているのかしら? この新人の名は、違いますわよ」
「そうでしたか。彼は、僕の城では、カオルと呼ばれていましてね〜。ふふっ、前世の名前だろうと察していましたが」
「準備が整いました!」
奥の方から、大きな声が聞こえた。その直後、幼女は複雑な表情を浮かべた。
(また、暗くなったな)
奥からこちらへ歩いてくる男の姿を見て、魔王スパークは、顔から笑みを消した。男は、マントをひらひらさせ、笑みを張りつけている。
だが、男の放つオーラにゾワリとする。
(魔王セバスか)
「おや、リストー様がいらっしゃるとわかっていれば、色欲の魔王など呼ばなかったのですが」
「セバスさん、私は天界人として来ています。この幼き姿のときは、その名で呼ぶことはご遠慮ください」
(は? 天界人として? 大魔王が天界人?)