34、スパーク国 〜魔王の正装?
「市場で、襲撃されたんですよ」
俺は少し怯えたように、城の門番達に報告した。
だが彼らは、倒れている4人の鎧を着た男達と3人の私服の男達を見て、混乱しているようだ。
(くさい芝居だったか)
「な、なぜ、ここまで、どうやって連れて……」
「集団転移を使いました。コイツらに、魔王スパーク様がセバス国を潰そうとして天界人を操っている、と言われたんで、連れて戻るべきかと思いまして」
「な、なんだと!? 高価な転移石を使ったのか」
(転移石? なんだ、それ)
俺は、適当な笑みを浮かべておいた。
「う、うぅ……」
リーダーらしき男が、目を覚ました。俺は再び、弱いイナズマを放った。だが、気絶しねぇな……動けないようだが。
「門番さん、コイツらを早く捕まえてください。次々に目を覚ましてしまいます」
俺がそう言うと、門番達は慌てて、転がる男達に拘束具をはめた。だが、その後の判断ができないらしい。いや、魔王の指示を待っているのか。
「おやおや、賑やかだね〜」
(は? 自ら出てくるのか)
魔王スパークが、突然現れた。転移魔法を使ったということは、慌てているな?
映像に映っていた姿とは違い、髪は明るい銀色で、黒いタキシード風の服を着ている。正装なのだろうか。
魔王スパークは、俺をチラッと見て不敵に笑った。あー、そうか、考えが文字になって見えるのだったか。
「魔王様、この者が、転移石を使って連れ戻ったようです。なぜ高価な転移石を持っていたのかは、わかりません」
「ふぅん、転移石って彼が言ったの?」
「えっ? あー、いえ……」
魔王スパークは、俺の素性を知っているから、転移魔法だとわかっているのだろう。
「セバス国の調査兵かぁ。厄介だな〜。えーっと、キミ、どうするつもりかな?」
俺が連れて来たことが迷惑だったらしい。魔王が捕まえさせたと、他国から見えるからか。
「市場に置いてくるのは、さすがにマズイと思ったんですよ。一人逃げたみたいですけど」
「そうだねー。セバス国の調査兵は、犯人探しに必死みたいだもんね。僕、呼び出されちゃったんだよね〜」
「呼び出された?」
「そうそう、僕じゃないのにね〜。たぶん、ビルクさんを抑えてほしいんじゃないかな。魔王セバスには、そんな力はないからね〜」
魔王スパークの方が強いと聞こえる。
だが、相性の問題か。死神の鎌持ちの天界人ビルクには、魔王スパークの方が対処しやすいのかもしれない。
「そのビルクさんを操る者なんて、いるのでしょうか。バーサク状態だと、この人達が言っていましたが」
「さぁ? どうだろうね〜。キミの名前は知らないなぁ。何ていうの?」
(なぜ突然、名前を尋ねる?)
俺が怪訝な顔をしたのか、魔王スパークは勝ち誇ったかのような笑顔だ。
ふん、天界人イジメなんかしてないで、素直に助けを求めればいいんじゃねぇか。死にたがる奴らを何とかしてほしいんだろ?
こう考えていることも、彼には見えるのだろうか。表情は、全く変わらないが。
「あ、あの、彼は、カオルさんです」
俺が黙っていたためか、買い物の護衛をしてやった使用人が、そう言った。
「ふぅん、カオル、か。前世の名前だね〜。そんな響きの名前は聞いたことがないよ。なるほど、キミがどんな子なのか、少しわかってきたよ〜」
魔王スパークは、また不敵な笑みを浮かべている。
俺が変な名前をつけられたことに気づいているのだろう。天界人をしょっちゅう呼びつけているから、天界のことにも詳しそうだな。
「とりあえず、この人達のことは、魔王様にお任せします。俺は戻りますから」
「ちょっと待って。ロロは、いないよ?」
(なっ? まさか死んだのか)
魔王は、ニヤッと笑った。殺したのか?
「キミ、ほんと、変な子だねー。僕が自分の子供達を殺すわけないでしょ。ロロは捕まったみたいだよ。僕の子供達を何人も捕まえて、僕を呼び出しているんだ」
「えっ? セバス国の兵に……」
「うん、キミ達だけだよ。狙われて戻って来られたのは。ロロは、剣はそれなりなんだけどね〜。セバス国の兵は、ちょっと強いからさ」
そう言いつつ、魔王は、転がっている奴らに視線を移した。
(コイツらは弱かったが)
城から、魔導士風の側近が二人出てきた。二人とも、魔王と同じくタキシードのような服を着ている。
「こ、これは……」
魔導士風の側近は、転がっている奴らに釘付けだ。
「この兵達が、誘拐犯だね。彼が捕まえてきたんだけど……はぁ、嫌な人が来ているみたいだな〜」
魔王スパークは、何もない場所を見ている。誰かと念話でもしているのか。
「そろそろ行かねば、ますます濡れ衣を……」
魔道具風の側近が、魔王を急かしている。セバス国へ行くために、着替えたのか。
「そうだねー、じゃあ、キミも一緒に行こうか」
(はい?)
後ろを振り返ってみたが、誰もいない。魔王スパークの視線は、真っ直ぐに俺に向いている。
「なぜ、俺が?」
「うん? だって、こんな人達を運んで行ったら、どうせ、捕まえた者のことを聞かれるじゃない? 説明係だよ」
「いや、でも、急いでいるなら……というより、俺はそんな正装は持ってないですから」
「大丈夫だよ。キミは魔王じゃないんだからね〜」
ニヤリと笑う魔王スパーク。
こんなダサいジャージで、セバス国へ行くのか? スパーク国なら城の使用人の服だと知られているが、他国の者から見れば、奴隷の服だろう?
(これも、嫌がらせか)
だが、連れていく魔王の方が、恥ずかしいのではないか?
「キミは、ビルクさんを見殺しにするのかな〜。天界から討伐隊が来ている。片付かないものだから、追加で厄介な人達が派遣されてきたよ」
(主戦力だったか)
第一弾で片付かず、増援を送ったのだろう。
「これから向かう先に、天界人も居るんですか」
「うん、セバス国の軍事施設だからね。天界からの討伐隊が集まっているよ。あー、時間だ。行こうか」
そう言うと魔王スパークは、感情の読めない笑みを浮かべた。