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32、スパーク国 〜セバス国の調査兵

「じゃあ、水差しは諦めて、城に戻りましょうか」


 俺がそう言っても、買い物に来た使用人達は、迷っているようだ。魔王の水差しなんて、どうでもいいと思うが。


「あの、カオルさん、他の市場へ行ってみてもいいですか? 魔王様が気に入って使われる食器の店があるんです」


「いいですよ。ここから遠いのですか?」


「隣町です。この国で一番大きな市場があります」


 わざわざ隣町にまで行くのか。魔王が好む食器屋で、水差しの代替品を探すつもりらしいが……。



 すると、店主が口を開く。


「隣町は、やめておく方がいいですよ。セバス国から、調査兵が来ているらしいです」


(戦乱のセバス国から調査兵?)


「なぜ、そんな遠くの国から、調査兵が来るのですか」


 転移魔法を使えば、距離など関係ないだろう。だが、わざわざ、何を調べるというのだ?


 俺が尋ねると、店主は驚いた顔をしている。ふん、この服を着た者達は、そんな質問はしないか。


「あ、あだあだぁだ……」


(うん? そこまで驚くか?)


 城から買い物に来た使用人達も、驚いた顔をして俺の背後に視線が釘付けだ。



 振り返ってみると、鎧を身につけた数人の男がいた。


 市場にいる人達は、シーンと静かになったいる。あちこちで店主に文句をを言っていた客も、コソコソと隠れるように店内へと入っていく。


(コイツらが、調査兵か)


 隣町の市場は、もう邪魔者は居ないだろう。


 城の使用人を連れて転移してもいいが……コイツらは、追ってきそうだな。



「コソコソと隠れる者は、この鎧に怯えたか。我々は、調べ物をしているだけだ。とある天界人の痕跡を辿ると、この国にたどり着いたのだ」


(偉そうだな)


「数日前に、未開の森に隠れ住んでいた、まだ幼き魔王クースの集落を壊滅させ、その呪いをセバス国に持ち込んだ天界人ビルクの痕跡だ。このスパーク国に長く滞在していたという情報を得た」


(天界人ビルクだと?)


 その名前を聞いて、城の使用人達が明らかに動揺している。マズイな、完全に顔に出ているじゃねぇか。


「我々は、その天界人ビルクを操っていた者を探している。死神の鎌を持つ天界人だ。相当にチカラのある魔王にしか操れないだろう。セバス国を蹴落としたい魔王は、誰だろうな」


(そんなもの知るかよ)



 セバス国の調査兵は、一人一人に目を合わせようと、顔を覗き込んでいる。だが、俺達の方へは来ない。こんなダサいジャージだからか。


「カオルさん、どうしよう」


「関係者だとわかったら、魔王様が……」


 城の使用人は、俺に小声で話しかけてくる。すると、調査兵のひとりが、こちらを向いた。小声でも聞こえる能力があるのかもしれないな。



「おまえ達は、同じ服を着ているようだな。どこかの下僕か? いま、魔王という言葉が聞こえたが」


 城の使用人達は、顔面蒼白だ。死にたがる奴らなのに、なぜこれほど調査兵を怖れる? 魔王スパークが、その天界人と関わっていたことを隠したいのか?


(俺は、護衛だったな)


 彼らをかばうように、俺は一歩前に出た。


 調査兵は、俺を見てもビビらない。それなりに強いのだろうか。だが、俺も嫌な感じはしない。



「俺達は、魔王スパーク様の城の使用人です。買い物に来たら、品物が入っていなくて困っていたんですよ。魔王様が使う水差しなので、どうしようかと相談していましてね」


 俺が笑顔を張り付けてそう話すと、他の調査兵も近寄ってきた。


(狙いは、魔王スパークだな)


 コイツらが探しているのは、城の使用人だ。おそらく、あの天界人が城に滞在していたことも調査済みだろう。



「キミは、天界人ビルクを知っているのか?」


「知っていますよ。死神の鎌を本当に持っているのかは知りませんが」


「ほう、やはり、魔王スパークがあの天界人を操って、セバス国に呪いを持ち込んだのだな」


(呪いって何だ?)


「そんなことは知りませんよ。魔王セバス様なら、天界人の一人や二人、簡単に始末できるんじゃないのですか」


 嫌味のつもりで言ってやったが、調査兵の反応は予想とは違う。まんざらでもなさそうな顔をしている。魔王を褒められたと感じたのか。


「奴は死神の鎌持ちだから、バーサク状態になると誰にも止められない。数日前から、天界より討伐隊がセバス国に来ている」


「えっ? 天界から……」


(ちょっと待て。それって……)



 俺がこのスパーク国に来てから何日経過したか、数えてなかった。だが、そうか、緊急ミッションが始まったのか。


 天界人が暴れているとフロア長が言っていた。しかも、天界の時間で1〜2時間経過しても、まだ片付いてなかったよな。現地時間で考えると、何週間も続くのか。


(まさか、あの男だとはな)


 どんな天界人なのかと騒ぎを見に行こうと楽しみにしていたが、その必要はなくなった。はぁ、つまらねーな。



「天界の討伐隊が、こんなに何日もかかるなんて初めてのことだ。操る魔王がいるはずだと、おっしゃっていた」


「それで、貴方達は、魔王スパーク様が天界人ビルクさんを操り、セバス国に攻め込ませたと考えられたのですか」


「いや、魔王スパークだとは言っていない。誰だろうなと……」


(なぜかタジタジだな)


「おや? 先程とは話が違いますね。魔王スパーク様がセバス国を潰そうと企んでいるように聞こえましたよ。魔王セバス様は、何か、魔王スパーク様の怒りを買うようなことをされたのですか」


 俺がそう言うと、調査兵は動揺しているようだ。もしかすると、魔王同士は仲が悪いのかもしれない。



「使用人には関係ないことだ。無礼であろう? よって、おまえ達を捕らえる」


(は? 意味不明だな)



 調査兵が剣を抜いた。


 コイツらのチカラはわからないが、俺は、なぜかワクワクしている。


「皆さん、ジッとしていてくださいね」


 城の使用人達にそう声をかけて、俺も剣を抜いた。



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