表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/215

31、スパーク国 〜魔王の知らせ

 食堂の壁に、大きな映像が映し出された。壁には魔道具が埋め込まれているらしい。


 ロロに促されて、仕方なく俺も立ち上がった。


 魔王からの言葉があるようだ。魔王の側からは食堂内は見えていないはずだが、座って聞くのはマナー違反らしい。


(魔王への忠誠心は高そうだな)



『我が城の者達、みんな、元気かなー?』


(は? アイドルか)


 魔王スパークは、爽やかな笑顔で手を振っている。魔王らしさはない。俺と話したときよりも、さらにフランクな感じだ。


 それに応えるように、食堂にいる若い子は、全力で手を振り返しているようだ。



『実はねー、この城に遊びに来てくれていた天界人ビルクさんだけど、ちょっと事情があって、この城には来てもらえなくなったんだ』


 食堂にいた人達の動揺が伝わってきた。みんな、死にたがっているから、死神の鎌持ちに会えなくなるのは、ショックなのだろう。


 死神の鎌を持つということは、ビルクはおそらく転生師だ。記憶を維持したまま、転生させることができる。


 なるほど、長期ミッションで来ていたあの男は、ミッションを終えて天界に戻ったんだな。天界の1日は、ここでは1年だ。いったん天界に帰ると、翌日に来ても1年後だからな。



『それと念のために、しばらくは外に出るときには、身分に関係なく護衛をつけてね。使用人のみんな、畑には警備兵を置くよ。大丈夫になったら、また連絡するね』


 その言葉で、映像は消えた。


 食堂は、シーンと静まり返っている。ショックが強いのかと思ったが、そうでもなさそうだ。魔王の言葉をかみしめている……そんな印象を受けた。



 だが、なぜ、外出することを警戒するのだろう?


 あの天界人が城に居たことで、防衛効果でもあったのだろうか。天界人は、独自のオリジナル魔法を持つ。俺の場合は、意味不明なクリーニング屋魔法だ。


 あの男は、城を守りに来てやっていると言っていたが……。


 うーむ、これは違うか。あの男は、何日も前に城を離れているわけだから、さすがに、防衛効果が続くとは思えない。




「カオルくん、外に出る人達の護衛をお願いできますか」


 ロロが真剣な顔で、妙なことを言ってきた。俺が離れると、また自殺まがいのことをするんじゃねぇだろうな?


「ロロさんは、どうするんですか?」


「僕も護衛します。カオルくんと僕が一緒に行動するのは、戦力の無駄ですから、分担しましょう」


(何かが襲ってくるのか?)


「ロロさん、あのビルクさんが居なくなっただけで、護衛って、どういうことですか?」


 率直に質問をぶつけると、ロロは首を傾げた。


「ビルクさんと、護衛は、関係ないですよ?」


「さっき、魔王様が、ビルクさんが来られなくなったから、念のために護衛をつけろと言いませんでした?」


「うーん? 別の話だと思います」


(別の話?)


「じゃあ、なぜ、護衛が必要なんですか?」


「さぁ? 隣国で内乱でもしてるんじゃないでしょうか」


 ロロは、不思議そうな顔をしている。いやいや、ちょっと待て。魔王が護衛をつけろと言えば、理由は気にせず従うのか。


(あー、従うか)


 この城の奴らは、今の人生にはこだわりがない。ただの通過点だと考えているからだ。だから、何も考えずに素直に従うのだ。



 ◇◇◇



 俺は、ロロから、街へ買い物に行く集団の護衛を頼まれた。街をこのダサいジャージで歩くのか。


「あ、あの、よろしくお願いします」


 俺の顔が怖いのか、代表のひとりだけが挨拶に来た。ここは、天界じゃない。それに、俺は仕事中だ。


「こちらこそ、よろしくお願いします。まだ、何もよくわからないので、ボーっとしていました」


 俺は、なるべくやわらかな笑顔をつくり、穏やかな声で挨拶をした。すると、買い物に行く集団はホッとしたらしい。


(表情には気をつけないとな)



 城の門を出るときに、門番から剣を渡された。


「おまえが護衛か? 返さなくていいから、持っていけ。しばらくは必要なはずだ」


「はい、ありがとうございます」


 俺は、尋ねたい気持ちを抑えた。下手なことを聞くと、面倒なことになりそうだ。


(だが、何かあったらしいな)


 腰に剣を装備した。だが、ベージュのジャージに剣は似合わない。



「カオルさん、すみません。今日は、少し遠い市場まで行かなければならないのです。昨日、注文した物が届いているはずなので」


「大丈夫ですよ。街を観光している気分で歩いていますから」


「カオルさんは、この国の人じゃないんですね」


 ロロから、何か聞いているのか。だが、天界人だとは明かしていない。そのうち追放されるかもしれないしな。


「ええ、ちょっと距離感はわからないですけど、少し遠い国だったと思います」


「あぁ、すみません。やはり、潰された国から流れて来た人なんですね。城には、そういう人が多いので、気にしなくて大丈夫です」


 何か誤解があるらしい。俺は、適当な笑みを浮かべておいた。




 しばらく歩いて、やっと目的の市場に着いたようだ。


(なんだか騒がしいな)


 あちこちの店で、店主らしき者と客が言い争いをしているようだ。



「どうなっている? 今日には入荷するはずだろ」


「仕方ねぇだろ。派手な戦乱が起こっているんだ」


「それは、遠いセバス国の話だろ」


(セバス国の戦乱?)



 城から買い物に来た者達の表情が固まっている。


「カオルさん、注文していた物が届いていません」


「どうしよう……」


 焦っているだけで、何も考える力がないのか。


「何を注文していたのですか」


「魔王様が使われる水差しです。欠けてしまったそうで、昨日、買いに来たら置いてなくて、注文したんです。それなのに……」


(は? 水差し?)


 注文を受けた店主も、それを聞いて慌てているようだ。


「それなら、戦乱が落ち着くまで待ちましょう」


 俺がそう言うと、店主は首を横に振った。


「入荷の見込みは不明です。たったひとりで、あちこちの国を……水差しの生産国も潰されたようです」


(一人で無双しているのか?)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ