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26、スパーク国 〜冷静になる良い機会

「カオルくん、おはようございます」


「おはようございます? ここは……」


(草原?)


「ふふっ、驚きました? 眠っていても、ちゃんと戻ってくるんですよ」


 俺は、城の裏の草原に転がっていた。畑にできるのに、城の裏手に無駄に広い草原が広がっていることを疑問に思っていたが、そういうことか。


(ここに、何か仕込んであるようだな)



 ロロが裏庭と呼ぶ場所は、この広い草原全体なのだろう。俺以外にも、たくさんの同じ服を着た者が寝ている。


 緑色の草原の中で、ベージュのジャージっぽい服はよく目立つ。そのために、こんなダサイ色にしてあるのか。


 常設の転移魔法陣を使って移動したことで、俺にも何かの術がかかったらしい。そして、翌朝にはこの草原に引き寄せられる。使用人を逃がさないための魔法か。



 村に戻ってしまうから殺すか他国へ連れて行けという、あのみ子を産んだ女についての依頼もそうだったが、翌朝に定められた場所に戻る魔法だ。これが魔王スパークの力だというが……。


(こんな魔法は、知らねぇな)


 女神から、ひととおりの魔法の知識は与えられている。俺には使えない魔法でも、どういう魔法かはわかるはずだ。


 しかし、こんな奇妙な魔法は、女神から与えられた知識には存在しない。俺が思っている以上に、魔王の力が高いのか。



 忌み子を産んだ女は、結局この城で処刑され、悪霊になりかけていた。俺がサキュバスに転生させたが、今はセバス国のサキュバスの森にいる。


 新たな名前は、アンゼリカだったな。今はまだ赤ん坊だが、あの女は、10歳で国を出てスパーク国へと向かう。そして、11歳のときにこの城で、再び殺されることになる。


 その理由は、あの映像ではよくわからなかった。だが、彼女の死には、魔王スパークが関わっている。


 こんな奇妙な魔法を使う種族不明な魔王だ。もしかすると、俺は敵わないのかもしれない。


 フロア長の忠告を思い出した。上には上がいる。俺を操ることのできる者が、ブロンズ星には、何十人もいるのだ。


(もう少し、警戒する方が良さそうだ)



 俺は今まで、理不尽なことに怒り、そして自分はすべてを蹂躙じゅうりんするほどの力を与えられていると思っていた。


 これまで、冷静に自分の現状を考えることもなかった。怒涛の展開に、テンパっていたのかもしれない。


 転生師だなんていう意味不明な天界人に転生し、様々な知識や能力を一気に与えられて、調子に乗っていた。いや、調子に乗せられていたのか。


(俺は、これからどうする?)


 ムカつくから、転生師なんて辞めてやろうと思っていた。だが……辞めてどうするんだ? こんな魔王の使用人になるような生活をするよりは、天界にいる方がマシか?


(これは、頭を冷やす良い機会だな)




「カオルくん? 大丈夫ですか。ぐるっと城の中を巡回します。動けそうなら、僕について来てください」


 ロロは、心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「大丈夫です。目覚めたら草原にいたことに驚いて、少し混乱していました」


「よかった。初めての朝を迎えると、みんな驚きますよ。でも、国内のどこにいても、翌朝には戻れます。危ない目に遭ったら、夜が明けるまで、どこかに隠れていればいいのです」


(国内? 他の国へ行くと発動しないのか)


「隠れるんですか?」


「はい、もし何者かに捕らわれても、翌朝には戻って来ることができます。それに、この裏庭には魔王様の魔法がかかっているので、怪我を負っていても治るんですよ」


「へぇ、すごいですね」


「でしょう? ただ、命を落とすと戻れないので、出先で殺されないように気をつけなければなりません。でも、カオルくんなら、相手の弱点を調べることができるから、安心です。外の巡回向きですよ」


(なるほど、死ぬと魔法は消えるのか)



 あの村の依頼と同じだと確認することができた。魔王スパークの力は、国内にいる生きている者に限定されるようだ。


 ということは、この術から逃れるには他の魔王が治める国へ行けばいい。城から離れたい者は、他国へ逃げればいいということか。



「カオルくん、じゃあ、ついて来てください」


 俺は、頷き、ロロの後を追った。昨日、面倒をみろと言われたからか、彼は俺を案内するつもりらしい。




 城の中を歩きながら、ロロは俺に、いろいろな説明をしている。俺が天界人だと言わないからか。ずっとここで暮らすと思わせているなら、少し悪いなと感じる。


 だが、俺は、魔王スパークの失くした何かを見つけるというミッションで、ここにいる。その何かは見つかるわけのないものだ。


 魔王スパークの目的はわからない。転生塔では、魔王スパークの趣味だとか天界人イジメだと言っていた。


 俺としては、そんなことはどうでもいい。


 ただ、俺が担当した転生者アンゼリカが、11歳で再び殺されることがないようにしたいだけだ。


(あの女の名前を知らねぇな)


 2年ほど前に、あの女がここでメイドをしていたときの名前がわからない。なぜ処刑されたのか、その手掛かりを探すことが近道か。


 この城で処刑されそうな理由は、あまりにも多い。あの女は、アドという男の子供を身ごもっていたのに処刑されたと言っていたな。


 アドは、魔王スパークだ。だが彼女は、そこに気づいていなかったようだ。


 もしかすると、見た目はそっくりな別人がいるのかもしれない。


 いや、違うか。転生塔では、彼女魔王スパークの子を身ごもったという情報を得た。彼女は、アドという男の子供だと言っていた。


(アドは、やはり魔王スパークだ)




「カオルくん、ここで朝食にしますよ。何か質問はありますか?」


(あっ、聞いてなかった)


 必要なら、ロロの頭の中を覗けばいいか。天界人の記憶は覗けないが、魔族なら覗けるだろう。のぞき趣味はないから、よほどの事情がない限り、そんな力は使わないが。



「ロロさん、大丈夫です」


「まだ、何がわからないかも、わからないですよね。気軽に質問してくださいね」



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