23、スパーク国 〜魔王スパーク城の制約
「魔王スパーク様、天界から使者がいらっしゃいました」
俺を案内した門番は、使者だと紹介している。この城の奴隷の服を着た者が天界の使者か。ギャグのつもりか?
やはり、アドと呼ばれていた男が、魔王スパークだな。天界人が城に来たことを察したのか、何もない部屋で待ち構えていたようだ。
「へぇ、キミは見たことある顔だ。話したことはないね。どこで会ったかな……あー、案内人か。2〜3年前に会ったね」
(は? 覚えているのか?)
天界の1日は、ブロンズ星では1年だ。
俺は、あちこち行き来していたから、感覚的には会ったのは1日前だが、ブロンズ星では、確かに2年以上の時間が経っている。
「あはは、驚いて言葉も出ないようだね。新人さんかな。あの案内が初仕事だとすれば、うっかり受注して、ここに来てしまったことも納得できる」
(余裕の笑みだな)
俺は、気を引き締めた。仕事中だ。
「失礼致しました。あまりにも記憶力がすごいと思いまして」
「へぇ、ふふ。本当に新人さんだね。何も知らないようだ。いいね〜、そういう子を待っていたんだよ」
魔王スパークは、嬉しそうな笑みを浮かべている。アイドル系のイケメンだが、あの女を処刑した性悪だ。爽やかな笑顔に油断してはいけない。
「何が失くなったのですか。失せ物を探す特別な能力は、俺には備わっていませんが」
「ふふっ、それがわからないんだよ」
(は? わからないだと?)
「天界人が関わった転生者の失敗だと、依頼書には書かれていましたが」
「うん、そうなんだ。城に来る転生者は多くてね。俺も毎回、期待はしているんだよ。だけど、心が動かないんだ」
(何を言ってんだ? コイツ)
「ふふっ、何を言ってんだ、コイツ? って思ったよね。俺が天界人のせいで失った物を、キミに探して欲しいんだよ」
(げっ? 心を読むのか)
「あはは、キミ、かわいいね。心を読むのではなく、勝手に文字となって見えるんだよ。俺は、そういう能力を持つから、魔王なんだよね」
(文字だと?)
思わず固まってしまった俺を、ニヤニヤと眺めている。ここで何かを考えると、すべて見られてしまうのか。
「とりあえず、キミは今日から、この城で俺の探し物をしてよね。そうそう、その服はね、キミに似合っているけど下位の使用人の服なんだ」
魔王スパークは、何かを試すように、そんなことを言っている。
「似合ってますか? ダサいなと思っていましたが」
「へぇ、知っていたか。つまらない反応だな。新人さんは、前世の感覚の方が強いのかもね。じゃ、案内してあげて」
ヒラヒラと手を振ると、魔王スパークは部屋を出ていった。俺が奴隷の服を着ても平気だから、興味を失ったか。
「ご案内します」
魔王の配下だろうか。黒い革のローブを着た男が、声をかけてきた。魔導士風だが、隙のない目をしている。
俺が頷くと、彼は歩き始める。
ついて来いってことだろうが、奴隷の服を着た奴と一緒に、城の中を歩くのか。
(まぁ、俺は気にしないが)
「この城の中では、身分により様々な制約があります。その色の服を着る者は、命令がない限り、魔王様と会うことはできません。また、剣を持つ者や、私のようにローブを着た者へ話しかけることができません」
「えっ? 話ができない?」
「はい。この城での貴方の過ごし方は、お任せします。ご自身の服に着替えていただいても構いません。また、身分を明かしていただいても構いません」
(服は、これしか持って来てないが)
「この城では、服装が身分を表します。他の者の服を奪っていただいても構いません。服装に応じた仕事がありますが、それをするか否かも、お任せします」
(は? 意味がわからねぇな)
何かを試しているのか、俺の反応を魔王がどこかで見ているのか。
「探し物をということでしたが?」
「その色の服では、行動できる範囲が限られます。身分に応じた行動をお願いします。乱されると処罰の対象になりますから、お気をつけください」
(なるほど、処罰が目的か)
「服を他の人から奪うと、奪われた人はどうなりますか」
「服装は身分を表しますから、当然、生かしておくなら降格します。通常なら、服は殺さないと入手できません」
(だから、話をさせないのか)
「物騒なルールですね」
「城勤めとは、そういうものです。常に緊張感を持って仕事をしています。堕落した者を排除することは、城の防衛力を高めることになりますから」
誇らしげに力説する男。なんなら、このローブを奪うこともできそうだが……服装に応じた仕事か。面倒くさいことはやめておこう。
「あぁ、それから、私服で城内を歩くと侵入者に間違われますから、お気をつけください」
(は? なんだそれ)
さっき、私服に着替えてもいいと言っていたよな? 城内じゃなければ構わないということか。
だから、転生塔10階で小太りの男が、俺の私物をすべてアイテムボックスにいれさせたのか。アイテムボックスは、天界でしか開けないからな。
魔女っ子が、適当でいいと言っていたのも、探し物が見つからないとわかっているからだ。
(なるほど、天界人イジメか)
こんな場所で、1ヵ月も暇を持て余すのは、逆に疲れそうだ。まぁ、期間の定めはないが……。
現地時間で9日ほど時間を遡ったということは、9日後に、天界人の暴走が起こるんだな。城を抜け出して、それを見物に行くのも面白いか。
あっ、あの女は、この城でメイドをしていたのだったな。えーっと、処刑されてから2年近く経つのか。ほんの半年だけ働いていたんだっけ。覚えている者はいるだろうか。
「着きましたよ。この線から先が、その色の服の者の仕事場です。過ごし方は、ご自由に。ただ、こちら側へは立ち入り禁止です」
そう言うと、黒い革のローブの男は立ち去っていった。
「降格した新入りか?」
境界線を守る兵らしき男が、俺を境界線の向こう側へ蹴り入れた。