214、幻人の森 〜天界を統べる神が交代したらしい
それから、しばらく時が流れた。
ライール・クースが、様々な罠を仕掛けていたせいで、奴が捕らわれた後も、俺の領地や旧キニク国では、被害が続いた。
主に、俺の配下を続けると宣言した罪人27人が、その対処に当たっていた。彼らは、俺達のような天界人を上回る特殊能力を持っている。だから、これほどの短い期間で、すべての罠を発見し解除できたのだと思う。
「カオル様、もう大丈夫です。地中も空間も、この場所へ繋がる次元も、すべて清掃完了しました」
「クルータスさん、ありがとう。ってか、様呼びはやめてくれって言いましたよね? もう、処刑紋も消えているし、ただ、ここに滞在してるだけじゃないですか」
(コイツの方が有能なのに)
「一応、けじめですよ。じゃなきゃ、ゴールド星の管理局から、ぐだぐだと文句を言われそうですからね」
「それなら、情報局が来たときだけで、いいでしょう?」
「ふふっ、常に監視されてますよ?」
クルータスは、辺りを見回すような素振りをした。俺も、それに釣られて、キョロキョロしてしまう。
(あー、アレか)
確かに、明るい朝の光に紛れて、異質な光が見えた。俺がそれに気づくと、パッと弾けて消えたが。
「カオル、街道沿いの修復なんだけどさ。シルバー星から、職人を連れてきたいんだよ。天界にミッションの要請をしておくれよ。あんたの専属担当だという経理塔の子に言っても、私からではダメだと断られたんだよ」
天界の管理塔前でクルータスと話していると、バブリーなババァが転移してきた。
「どんなミッションですか?」
「かなり、外装をやられた店もあるだろう? ライールが捕らわれてからの方が、被害は大きいんだよ。ちまちまと修復するのは大変だからさ」
(修復のミッション?)
「カオル姉さん、そうは言っても、シルバー星の特定の人達だけを指定することはできないですよ?」
「あぁ、わかってるよ。だから、スプレーマジックが使える人って、指定すれば良いのさ」
「スプレーマジック?」
すると、クルータスが口を開く。
「カオル様、スプレーマジックは、一部の者にしか使えないんですよ。空間識別魔法と、水魔法の派生魔法である塗装魔法を融合したものです。帝都ライールの街の塗装技術ですよ」
(あー、なるほど)
「できれば、エルキドロームをここに持ってきたいんだけどね。さすがに、あれは動かせないから我慢するよ」
バブリーなババァは、完全に俺の領地に移住するつもりらしい。確かに、トーリ・ガオウルが復活するまでは、この地は、いろいろな者から狙われるだろうが、幻界神サリュも、本体がこの管理塔に住むのだから、過剰防衛な気もするが。
「わかりました。じゃあ、手続きしてきます」
「あぁ、それから、今夜、サリュちゃんのデビューだから、ウチの劇場にも来ておくれよ? 森の賢者も私に対抗して、ブロンズ星の住人じゃないアイドルをデビューさせるみたいだけどね」
(サリュは、本当にアイドルをするのか)
「じゃあ、夕方には劇場に行きます」
俺がそう返事をすると、バブリーなババァはすぐに姿を消した。
◇◇◇
「……という依頼をしたいんだが」
管理塔の2階には、天界に繋がる魔法陣が設置されている。だから呼べば、すぐに担当者が来るんだよな。これは、クルータスの権力のなせる技だと思う。
「かしこまりました、大魔王コークン。確かに、スプレーマジックを操る術者がいれば、吹き飛ばされた外壁の修復は早いですね。ただ、シルバー星の住人になるので、時差があります」
「ん? すべての星の時差は消えたんじゃなかったか?」
「水竜リビノアによって壊されましたが、新たに天界を統べる神となったタイサントさんが、以前と同じ時差を構築しましたよ」
(あっ、交代したのか)
タイサントという男は、妙な妄想癖があったよな。時差を復活させたのは、彼自身が大魔王コークンにビビっているためだろう。いや、俺だけじゃなく、水竜リビノアもか。
「女神ユアンナは、どうしてる?」
「ユアンナさんは、ゴールド星です。天界を統べる役目を終えたので、しばらくは休暇だそうですよ。おそらく、ゴールド星に軟禁されている状態ですね」
「軟禁?」
「大魔王コークンは、ご存知ないですか? ユアンナさんは、今回の件で魔王セバスに協力していた疑いがあるので、トレイトン星系により、監視対象になってます。僕としては、ただの愛人関係だと思いますけどねー」
「あぁ、確かに女神ユアンナが綿密な計画を助けるとは思えないな。あそこまで怠惰な女神は、他にいないんじゃないか?」
「あはは、ですよねー。魔王セバスは、天界を追放されましたから、ブロンズ星に完全に監禁されます。まぁ、今の彼は、自己転生をしたばかりだから、何も悪さはできませんけどね」
(トレイトン星系の奴らは、二人の仲を壊したのか)
「魔王セバスの領地は豊かだから、ブロンズ星でスローライフができるんじゃないか」
「確かに豊かですね。でも、今、一番の中心地は、この街道沿いですよ? 完全復活することを待っている人が、大勢います」
「俺も、居酒屋ストリートで食い倒れたいよ」
「ふふっ、では、これにて手続きは完了しました。あっ、大魔王コークン、転生塔からの連絡があります」
(は? 転生塔から?)
「どこかから、また大量の転生者が来るのかな」
「おっ! 勘がいいですね。天界時間で半日後なので、ブロンズ星の時間では半年後ですが」
「はぁ、その時差、やめてくれないかな。半年も覚えてられねぇぞ」
「まさか! 天界人の記憶力は、どこにいても変わりませんよ? その時の直前には、また連絡が入ります。よろしくお願いしますね」
「はいはい、とりあえず、忘れておく」
俺は、管理塔を後にした。
◇◇◇
「大魔王コークン! サリュのショーに行くんでしょ?」
のんびりしようとレプリーの村に行くとすぐに、アイリス・トーリがやってきた。
(なぜ、幼女アバターなんだ?)
「おまえ、またアバターを身につけてるのか」
「うん、だって、どうしても冥界神のオーラが漏れてしまうから、このアバターが丁度いいのよ。それにパーティ用の服は、このアバターのサイズばかりなのよね」
「大人の服は、魔法で作れるんじゃねぇの?」
「あのねー、未知のかわいいデザインは買わなきゃ手に入らないわよ? 全然、わかってないのね」
(なんだか、今日の口調って……)
「おまえ、なんか今日は、女みたいだな」
「は? 私はどう見ても女だろうが。何を言ってるんだ、スカタン!」
(でたよ、スカタン)
「ふふっ、久しぶりだな、そのスカタン」
俺がそう指摘すると、彼女はポッと頬を染めた。幼女アバターを身につけていても、俺には大人の彼女の顔が目に浮かぶ。
ただ、俺にはさすがに、フリフリワンピースを着た幼女を抱きしめる趣味はない。それに、ここはレプリーの村だ。人目もあるから、我慢だな。
「うるさいわね! さぁ、早く行くわよ! サリュのショーに遅れてしまうわ」
そういうと彼女は、俺の腕を掴み、転移魔法を唱えた。
(まだ、早いだろ? せっかちだな)
次回、最終回です。
今月中に更新したいと思っています。
よろしくお願いします。




