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207、幻界 〜ライールの討伐者

「あの左側の男が、幻界神ライールか? なぜ震えている? 倒れている人達は大丈夫なのか」


 俺がそう尋ねると、アイリス・トーリは、また笑いがぶり返したらしい。笑いをこらえようとしているのか、口を押さえている。


 この様子からして、傷ついた者達も、大丈夫そうだな。さっき、この映像を見たときの彼女は、笑う余裕なんて無くしていたからな。



「こちらの声は、水竜リビノアにしか聞こえないようだが、リビノアを通じて、他の者にも伝わるはずだよ」


 ドラゴン……前幻界神の砂竜は、アイリス・トーリに優しい眼差しを向けた後、俺にそう説明した。水竜リビノアに直接、尋ねろということか。



『水竜リビノア、なぜ、その男は、そんなに震えているのだ?』


 念話を使うと、壁に映った映像の水竜リビノアが、こちらを向いた。砂竜の魔力を見つけたらしい。


『カオルがオリジナル魔法を使ったからだろう? この震える男が、幻界神ライールだ。いや、元幻界神というべきだな。魔物神ディー、そうだな?』


 水竜リビノアがそう言うと、バブリーなババァの館にいたシャチのような魔物が、どこからか現れた。


『その先に、アウン・コークンがいるのか』


『あぁ、飛竜の巣の奥にいるようだ。サリュの壁画のある場所だ』


(なぜ、この場所の説明をする?)


 すると、壁がピカッと光り、俺達がいる場所に、シャチが現れた。瞬間移動かよ。魔物神ディーといっていたか。バブリーなババァは、ポチという名前をつけていたな。




『サリュ、やっと力を取り戻したのだな。ライールのような愚者に騙されたおまえの落ち度だ』


(どっちが上なんだ?)


 シャチは、ドラゴンのまわりを泳ぐように飛び回り、なんというか、砂竜を叱っているようにも見える。


「ふふっ、キツイことを言うなよ、魔物神。竜族を盾にされたら、私が折れるしかないだろう。トーリ・ガオウルの墓所の状況を見ていたな? 彼らに説明してやってくれ」


(は? 見ていただけ?)


 コイツは、確か、協力者なはずだ。トーリ・ガオウルの配下だった者達もそう言っていた。それなのに、見ていただけなのか?



「ポチ! おまえ、あの場所に行けるなら、なぜ助けなかったんだよ。水竜リビノアは、ズタボロじゃねぇか」


 俺の言い方に気を悪くしたのか、シャチのような魔物神は、ギロリと俺を睨みつけた。


『その呼び方を、おまえに許した記憶はない。なぜ、その呼び方を知っている?』


(忘れたのか?)


「ライールの皇帝の館で、そう呼ばれていたじゃないか。それに、バブ……じゃねぇか、えっと、カオル姉さんはいつも、おまえのことをポチと言っている」


『あぁ、あのときの賊か。ふぅん』


「ポチと呼ぶのは、彼女だけの特権か。それなら失礼した。あの男は、なぜ頭を抱えて震えているのだ?」


『おまえもカオルという音を持つ者か。ふふん、ライールは、おまえに死ねと命じられたからだ。幻界神となる力のある者は、冥界とは相容れない関係にある。死ねと言われたことで、消滅の呪いに囚われたのだろう』


(は? 何の呪いだ?)


「俺は、そんな呪いの言葉を吐いたのか? 死神の鎌は持っていても、俺は死神ではない。そんな呪いを扱えるわけがない」


 俺が反論すると、シャチのような魔物神は、ドラゴンの方へと移動した。まぁ、この洞穴の中を回遊しているだけかもしれないが。



『コイツは、何もわかってないのか?』


「魔物神、今はまだ、幻界はブロンズ星と交わっている。大魔王コークンの力は、かなり減殺されているのだ」


『あぁ、そういうことか。だから、直接的な精神攻撃を選んだのだな。ライールも、ブロンズ星と交わっているから油断していたのか。ふっ、だが、助かった。皇帝を経由して、大魔王コークンへの助力を言われていたが、自分で片付けたというわけだな』


(一応、協力する気はあったらしいな)



「ライールは、死ぬのか?」


 俺がそう尋ねると、シャチはまるで俺をバカにするように笑った気がした。


『そうか、おまえは、新人転生師だったな。知る権限を持たない新人天界人か。ふっ、だからこそ討てたのだろう。いや、だが、かなりの威力だった。本当に力を減殺されていたのか?』


(俺の質問に答える気はないらしい)




 スーッと風を感じた。


 水場の方に視線を移すと、飛竜が飛んでくる。ここにいる飛竜とは違って、大型だな。あれは……うん?



「ポチ! 何を意地悪してるんだい。カオルは、私が出資してる人物株の中で、一番儲けさせてくれてる人だよ」


(バブリーなババァが、なぜ?)


『皇帝、だが、コイツがあまりにも情けないから、ちょっと引き締めてやろうと思ったのだ』


「私をかくまった恩人でもあるんだよ? ポチ、あんたの方こそ思い上がるのもいい加減にしな!」


 バブリーなババァに叱られ、魔物神はしょんぼりとしたように見える。だが、バブリーなババァは、このシャチに見張られていたんじゃないのか? 関係性がよくわからない。まるで、ペットのようだが。



「カオル、私から状況を説明するよ。アイも、詳細はわからないだろう?」


 彼女がそういうと、アイリス・トーリも軽く頷いている。


「カオル、まずは、おめでとうだ。ライールを討ったのはカオルだよ」


「あの、カオル姉さんは、状況を……」


「あぁ、ポチから届くからね。水竜リビノアでは敵わないときに、ポチが不意をつくつもりで隠れていたのさ。だけど、ポチが出るよりも前に、カオルがオリジナル魔法を使っただろう? だから、ポチは拗ねているのさ」


「えっ……そうなんですか」


 チラッとシャチの方に視線を向けると、ギロリと睨んでくる。なるほど、獲物を横取りされた心境か。


「ふっ、ポチはすぐに拗ねるんだよ。しかもライールの動きは、ポチの動向を読んで、裏をかかれたからね。まさか、こんなに早く、墓所に現れるとは私にも予測できなかったよ」


「なるほど、それで水竜リビノアまでズタボロなんですね」


「ライールは、リビノア対策をしていたからね。この巣穴もトラップだらけだろう? だがそれがライールにとって、命取りになったってわけさ。自業自得だね。あの状態なら、もう幻界神の地位を失っている。そうだね? ポチ」


『あぁ、幻界神は、幻に呑まれてはいけない。ライールは、大魔王コークンの術にかかり、戦闘継続不可能な錯乱状態だ。よって、幻界神の地位は、討伐者に渡る』


(は? 何だと?)


「ちょっと待った! 俺は、幻界神なんて務まらないぞ? そもそも幻界のことさえ、よくわかっていない」


 俺が慌ててそう言うと、バブリーなババァはニヤッと笑った。アイリス・トーリは……ずっと笑ってるから放置でいいだろう。



「カオル、それなら、別の幻界神を指名しな。ちょうどこの場所には、幻界の赤い霧が満ちている」


「えっ? この赤い霧って、ライールの術じゃないのか?」


「ちょっと、カオル。それはないだろ? 冥界は青く、幻界は赤いオーラに包まれていることも知らなかったのかい?」


「知らねぇよ。確かに冥界に行ったときは、青かったけどさ」


「どちらも、紫色に近寄ると邪気が入っていることを示すんだよ。互いに混ざり合うと霧は紫色を帯びるからね。冥界と幻界は、混ざってはいけないのさ」


 バブリーなババァの言葉は、俺が幻界神を継ぐと、冥界神である彼女との永遠の別れになると言っているように聞こえた。


「ふぅん、新人転生師は知らないことだ」


「ふふっ、じゃあ、幻界神を指名しな。カオルがやるなら、このままこの山を出ればいい」


(やはり、さっきのは忠告か)


 俺は、ぐるりと見回した。指名するも何も、決まってるじゃねぇか。


「砂竜しか適任はいねぇだろ」


「サリュは指名できないよ」


(は? じゃ、どうすんだよ?)



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