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206、幻界 〜オリジナル魔法、全力!

「えっ? 死神の鎌で何をするつもりだ?」


 砂竜は、焦ったらしい。だが、その焦りは、すぐに配下達へと伝わっていくようだ。


『大魔王コークン様! サリュ様は、冥界へは行けません! 死神に斬られたら消滅します!』


 俺達を運んできた飛竜達が、巨大なドラゴンを守ろうと、翼を広げて壁のように立ち並んだ。飛竜は、現在の幻界神に仕えている使い魔なのに、これでいいのか?


 そして、そんな飛竜達を守るように、前に出てくる巨大なドラゴン。ふっ、やはり、幻界を統べる神は、同じ竜族の方が良さそうだな。



「飛竜、安心しなさい。大魔王コークンは、オリジナル魔法を使うときには、媒介となるモノを必要とするのだ」


 アイリス・トーリは、飛竜に言っているようで、実はドラゴンに説明しているのだと感じた。だが、前幻界神の砂竜は、壁画状態になっていても、見えていたんじゃないのか? 


 さっきも、旧キニク国で使ったから、俺は何の説明もいらないと思っていたが……。


「そうか。何も言葉を発しないのは、方法としては賢い。この赤い霧は、幻界神ライールの術だからな。まぁ、今、奴はブロンズ星に気を取られているだろうが」



 さっき、この場所へ来るまでの床にあった、魔法陣から立ち昇っていた赤いオーラは、幻界に繋がっていると言っていたか。


 多くの魔法陣を経由して、幻界神は術を使うようだ。ドラゴンがここから出ようとすると、ライールの術が次々と発動し、飛竜の巣は炎に焼かれることになると、言っていたよな。


(奴の力を、超えればいいだけだ)


 ライールが炎を使うなら、水を使う俺の方が属性的に有利だ。幻界神のチカラなんて知らないが、もともとの幻界神が敗れるほどだから、相当なものだろう。


 だが、おそらくアイリス・トーリは、俺に力を貸してくれるはずだ。新人大魔王だろうが、冥界神の力を借りれば、幻界神の仕掛けくらい、打ち破ることができると信じたい。



「砂竜、さっき、誓約すると言ったよな? おまえとおまえを世話するモノ達を解放する対価として、俺の領地を守ってくれるのだな?」


 俺は、死神の鎌に魔力を集めながら、そう尋ねた。


「あぁ、もしもそのようなことが、ブロンズ星の大魔王に可能ならば、だが」


(ふっ、逆だな)


 ドラゴンの言葉は、俺には無理だと言っているように聞こえた。だが、ドラゴンの目は、俺を信頼していると感じた。


 おそらく赤い霧によって、ここの話もライールは傍受できるのだろう。幻界神を油断させようとしてドラゴンがそう言ったのなら……。



「大魔王コークン、全力で行け。幻界は二次元世界だ。強い衝撃を与えても、この山が崩れることはないぞ」


 アイリス・トーリは、ニヤニヤと悪ガキのような笑みを浮かべているが、俺に加勢する気は無さそうだ。俺を試そうとしているのか。いや、違うな。さっきの誓約のせいだ。俺が単独でやる必要があるらしい。


「わかった」



 短く返事をして、俺は集中力を高めていく。


 どうイメージすればいいか、全くわからない。だが、幻界神ライールのやり方には我慢できない。チカラを得たいなら、努力すれば良い。


 多くの犠牲を伴って、自らの欲のために動こうとする者を、俺は心底、軽蔑する。


 過去に何があったのかは知らない。だが、自分の欲望のために、シダ・ガオウルを殺させ、トーリ・ガオウルを暴走させたことは、事実だろう。


 シダ・ガオウルは……アイリス・トーリは……彼女は、おまえに何かしたのか? 


 幻界神の座を奪い、そして冥界も手に入れるために、トーリ・ガオウルの墓を潰そうとしている。力無き者が敗れるのは定めだと、トレイトン星系では考えるらしい。


 だが、そのために、そんなくだらないことのために、俺の領地やその近辺に棲む何千何万の命が奪われることは、決して許されることではない。


『俺の領地は、俺の常識で統治する』


 こんな、ライールによる理不尽な死は、絶対に認めない。転生させればいいだろうと思って、命を軽く扱いすぎだ。


『大魔王コークンの名の下に、幻界神ライールへの思想改善を要求する! おまえこそ、死んでイチからやり直せ! クソ野郎!』



 ダンッ!


 俺は、死神の鎌を、怒りのままに床に突き刺した。いや、土を鎌で切り裂いたという方が適切か。



 バッと広がる俺の怒りを含むマナが、水場を通り越して長い通路へと広がっていく。


 だが、赤く輝いていた魔法陣に触れると、シュッと吸い込まれるように次々と消えていった。


(チッ、やはり、無理か)


 グラグラと地面が揺れた。俺が放った魔力は、ライールの術によって反撃されたということか。その証拠に、この付近を覆う濃く赤い霧は、全く変わらない。


 もし、ライールにダメージを与えることができれば、この場所の赤い霧は、薄れるはずだ。


 何度か、グラグラと揺れた。


 飛竜達は怯えた顔をしているが、ドラゴンを庇うように集まってきている。いや、ドラゴンにすがっているのか。




「あははは、きゃははは、あーはっはっは」


(は? 何だ?」


 アイリス・トーリは、突然、狂ったように笑い始めた。俺の失敗を笑っているのか? 


 だが、彼女はそんな性格ではない。俺の失敗を笑って、場の雰囲気をやわらげようとしているのだろうか。



「……ははっ、あははは」


(チッ、ドラゴンまで笑ってやがる)



「砂竜、これでいいな?」


「あぁ、あははは、まさか、トラップを逆に利用するとはな。こんなことは誰も考えない」


(は? トラップを利用?)


「だから言っただろう? 大魔王コークンなら可能だとな。彼のオリジナル魔法は、すべての洗浄だ。ククッ、全力でとは言ったが、あははは」


 アイリス・トーリは、ゲラゲラと笑っていて……ということは、俺が失敗したわけではないのか?



「冥界神ガオウル、笑ってねぇで、状況を説明しろ」


 俺がたまらずにそう言うと、彼女は話そうとしてゲラゲラ笑うという奇妙な行動を何度か繰り返し、やっと口を開く。


「あぁ、そうだな。今、ブロンズ星が幻界と交わっているから、ブロンズ星の住人の能力は、かなり減殺されているもんな。ぷぷぷっ」


(コイツ……)


「そうか、減殺されているからトラップを利用したのか。大魔王コークンは、かなりの策士だ」


 ドラゴンも大きく頷いているから、失敗しなかったことは明らかだが……。


「赤く光る魔法陣は、ライールの思念と繋がっていた。ぷぷっ。そこに、大魔王コークンは、直接、オリジナル魔法を叩き込んだってことだ」


「で? どうなった」


「魔法陣は、すべて壊れたんじゃないか? 驚いて多少の抵抗はしたようだが、魔法陣を経由して頭の中に直接、術を叩き込まれたんだ。これで倒れない者はいないだろ」


「幻界神ライールが倒れたのか?」


「ぷぷぷっ」


(コイツ……また笑いが、ぶり返しやがった)



「大魔王コークン、今のライールの様子を映そう」


 ドラゴンはそう言うと、土壁に強い光を放った。すると、スクリーンのように、どこかの室内が映った。いや、室内ではないな。これは……。


「父の墓所だ」


 アイリス・トーリは、頭から血の気が引いたのか、その表情は一気に凍りついている。


 その映像には、水竜リビノアが映っていた。かなりダメージを受けている。そして、トーリ・ガオウルの配下だったと言っていた内の7〜8人が、倒れているのが見えた。


(墓を襲撃されているのか)



「よく見てみなさい。左側だ。あぁ、音も届けようか」


「砂竜、もしかしてチカラが戻ったのか?」


「戻ったから、状況を見せているのだよ、シダ」


 ドラゴンは、柔らかく微笑むと、数回チカチカと点滅した。



「な、何が起こった?」


「ゲホゲホ。なぜ、急にライールが倒れた?」


『ふっ、大魔王コークンは、水帝だからな。舐めたコイツの負けだ。しかし、ギリギリだったぞ、カオル』


 水竜リビノアは、俺が見ていることに気づいたらしい。



 画面の左側では、見知らぬ男が頭を抱えて震えていた。


(あれが、幻界神ライールか?)



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