表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

203/215

203、旧キニク国 〜火の海の消火と飛竜捕獲

 予想通り、飛竜は俺を狙って、竜巻のような風を飛ばしてきた。だが、アイリス・トーリは、完全にそれを弾いている。


 俺が振り回した死神の鎌から、ブワッと魔力が放たれた。


(チッ! 弱いな)


 幻界と交わっている証拠だ。下位の世界にいる俺達のチカラが制限されると言っていたな。確かにそれを実感した。普通に火を消そうとしても、たいした水魔法にはならない。



「ただの天界人のチカラは、かなり減殺される。魔王の波動を使え」


「は? 魔王の波動ってなんだ?」


「おまえの場合は、ガードを意識すればいい。鎌を使うときに、一旦マナを体内に巡らせるのだ。そうすれば、マナは魔王の波動を帯びて術を増幅させる」


 魔王の波動って、ステイタス隠しや思念傍受を阻害するものじゃないのか? 新人転生師の俺には知る権利がないから、まだその知識は無いんだよな。


「よくわからねぇが、わかった」


「指示通りに巡らせれば、魔王の波動が付与される。難しいことではない」


(ふっ、なんか新人研修を思い出すよな)


 あのときの毒舌幼女が、俺にとってこんなに大切な女性になるなんて、想像すらできなかった。これも、彼らが言う、音には縁が繋がるということかもしれない。



 俺は、もう一度、旧キニク国の火の海を消そうと意識する。鎌に集めた魔力を体内に戻して巡らせた。ガードの意識って意味不明だよな。


 俺は、自分の領地は守りたい。火の海にいるリィン・キニクの息子も、守ってやりたい。


 大魔王となった今、やっとスローライフを始められる。だが、そのためには、トーリ・ガオウルのチカラも、奪われないように守る必要がある。俺の領地の安全のために、そして、父親であるトーリ・ガオウルの復活を待つアイツのために。



 体内を巡った魔力が鎌に集まる。特別に魔力を増やしたわけではない。ここで枯渇させるわけにはいかないからな。


 だが、鎌に集まったマナの色は、青く強く輝いていた。


「次こそキメる! 飛竜の捕獲も頼むぞ」


「あぁ、わかっている。えっ? どうしてマナが燃えているのだ?」


(は? 燃えてねーよ)


 また、アイリス・トーリの目には、何かの幻覚が見えているのか。だが、ねっとりとした大気は、さっきの俺のオリジナル魔法で、だいぶマシになったはずだが。


「ごちゃごちゃ言ってる暇はねぇぞ。行くぞ」


 俺は、鎌をグルンと振り回した。


(は? なんだ?)



 同じオリジナル魔法を使ったのに、魔力は、見たことのない動きをする。鎌から放たれた魔力は青白い光となって、なぜか360度に広がっていった。


 旧キニク国の火の海は、一気に鎮火した。通常時のオリジナル魔法よりも、威力は高いと感じた。


 そして真っ白な水蒸気が、まるで生きているかのように、空に駆けのぼる。


(こんなことは、指示してねぇぞ?)


 チラッとアイリス・トーリの方を見ると、ポカンと呆けた顔をしていた。彼女の術ではないらしい。



 そして真っ白な水蒸気は、上方に放たれた青く輝く魔力に絡みつくと、次々と飛竜を捕える巨大な檻に変わっていった。



「キシャァッ!」


 突然、真っ白な水蒸気の檻に囚われた飛竜からは、断末魔を思わせるような悲鳴があがった。視界を奪われたのだろうか。



「大魔王コークン、飛竜を捕まえるのは私に任せると言ったではないか。しかも、あんな……灼熱地獄の檻をつくり出すとは、冷徹な大魔王だな」


(は? 灼熱地獄?)


「おまえの指示通りにやったら、なぜか、あんなことになったんだぜ? 俺は知らねぇからな」


 アイリス・トーリは、空に浮かぶ真っ白な檻を、何かの魔法で繋げているようだ。俺に冷徹と言っておきながら、その表情は愉しげに見える。



『大魔王コークンの怒りだ。飛竜よ、許されたければ、しばし大魔王コークンに従え。さもなくば、死をもって償うことになろう』


 アイリス・トーリは、檻を繋ぎ終えると、変な念話を飛ばした。冥界神のチカラらしい。飛竜達からは、絶望感や恐怖心が伝わってくる。



『お許しください、冥界神ガオウル様、大魔王コークン様。熱い、苦しい……』


「へ? 飛竜が念話を使うのか?」


「幻界の飛竜は、念話を使うぞ。おまえが捕らえたのは、幻界に棲む飛竜だけだな。他の飛竜は、おまえを恐れて、逃げられないようだが」


 空には、檻に入っていない飛竜もいる。ぐるぐるとおとなしく旋回しているだけだ。もう、魔王セバスの術は解けたらしいな。俺の領地へ攻撃を仕掛けるそぶりはない。


「全部を捕まえるほどの魔力は、ねぇからな」



『お許しください。何でも話します。お許しください』


(あれって、火を消した水蒸気だよな?)


 早くしないと、水蒸気が勝手に冷えてきそうだな。



「冥界神、ちょっと風で水蒸気を飛ばしてくれないか?」


 俺がそう言うと、アイリス・トーリはニヤッと笑った。そして、杖を振り、上空に強い風を起こした。


(雑だな)


 旋回していた飛竜には、かなりダメージが入ったようだ。繋げていた檻は、わずかに揺れた程度だったが、水蒸気はきっちり吹き飛ばされている。


 だが、檻が消えたわけではない。青白く輝く檻が、飛竜を捕らえているのが見えた。この光景は、天界からでも見えるだろうな。



『我々に術をかけた魔王セバスが、悔しがっています』


『大魔王を上回るチカラがあると豪語していたが、所詮はブロンズ星の魔王だな』


『この檻は、優しい檻ですね。熱く苦しかった身体が癒えていきます』


『ありがとうございます! 大魔王コークン様の魔力を感じます! ありがとうございます! 解き放たれました!』


 次々と念話を飛ばしてくる飛竜達。しかし、身体が癒えていく? あぁ、あの水蒸気は俺の水魔法を含むから、洗脳状態も解除されるのか。若干の回復効果もあるかもしれない。




「アウン・コークン、飛竜はどうするのだ?」


「当然、幻界神のとこに殴り込みに行くぞ! ふざけたことをしやがって」


 俺の返事を聞くと、アイリス・トーリはニヤッと笑った。


(ガキかよ)



『おまえ達を水蒸気で正気に戻したのは、大魔王コークンのチカラだ。魔王セバスよりも、圧倒的にその能力は高い』


 アイリス・トーリが、飛竜達に念話を飛ばした。


『大魔王コークンは、おまえ達の巣を見たいと言っている。巣に妙な仕掛けがあるかもしれない。魔王セバスが幻界にも出入りしているという噂を聞いた』


(は? 嘘だな。あー、だから噂という言い方か)


 彼女の方をチラッと見ると、悪戯っ子のような顔をしている。幼女アバターを身につけている時間の方が長いから、大人の姿だということを忘れているのか。



『大魔王コークン様! 巣にご案内します!』


『どうすれば……この檻は……』



「檻を消したら、飛竜は逃げるよな?」


「まぁ、そうだろうな。だが、これは水帝が作った檻だぞ?」


「は? どういうことだ?」


 そう尋ねると、ドヤ顔の彼女が……。



『案ずる必要はない。大魔王コークンは、水帝だぞ。その檻は、おまえ達の傷を癒やしているだけだ。飛ぶことに支障はない。私達は、おまえ達について行こう』


 すると、グンと何かに引っ張られるような感覚。俺達は、透明なカゴに入っているらしい。さっき、飛竜の檻をせっせと繋いでいたのは、このためか。


 飛竜達は、俺達が入ったカゴを引いて、上へ上へと舞い上がっていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ