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202/215

202、旧キニク国 〜陽動に乗ってやるか

 森の北端にある街道の北側、旧キニク国の湿地帯は、ただの荒れ地だが、様々な水場の動物や魔物が生息している。


 それが、今、完全に火の海になっていた。


 クルータスが使った幻影魔法のためか。無いものが見え、あるものが見えないものだと言っていたが……こういうことか。


 アイリス・トーリの転移魔法で、森から出た俺の目には、二つの景色が重なって見えていた。少し視点を変えると、森が湿地帯に見え、そして旧キニク国には緑が広がっている。



「幻影魔法のせいで、旧キニク国が火の海だな。リィリィさんの息子は、あの湿地帯にいるのだろう?」


「あぁ、だから、リィン・キニクは慌てて出ていったのだ。ここにも、被害が出ないようにと、クルータスは防衛していたはずなのに、あのバカ……」


(魔王セバスの力か……あっ、陽動?)


「さっき、水竜リビノアが、陽動だろうと言っていたが……魔王セバスは逃げ帰ったよな?」


「は? 陽動? ということは、これに乗じて父の墓を襲う気か? だが、まだ幻界は、このブロンズ星と交わっていないぞ」


「幻界と交わったら、どうなるのだ? 景色がぐにゃぐにゃになったりするものか?」


「いや、幻界と交わっても、ブロンズ星では見た目の変化はない。ただ、幻界からの出入りが自由になるだけだ。幻界の方が上位世界に位置付けられているからな」


「上位世界って何だ? 魂と同じく格付けか」


「そういう格付けではない。上位世界は下位世界への絶対的なチカラがある。それが交わるとき、下位世界に暮らす者のチカラは制限されるだろう」


(は? チカラの制限?)


「それって、魔法が使えないとか、そういうことか」


 俺がそう尋ねると、アイリス・トーリは目を見開き、何かを指差した。水魔法を発動したような光が見えた。だが、火の勢いは強く、水蒸気となってかき消されている。


 だが、妙な光だ。通常の水魔法とは違って……。


「リィン・キニクが、この程度の炎を消せないなんて……まさか、もう幻界と交わっているのか? 幻界と交わると冥界に歪みができるのに、何もまだそんな兆候は……私は、また、何かに……」


 彼女は、髪をぐしゃぐしゃにかき回している。


(コイツ、不安定だな)



「アイリス・トーリ、俺がおまえのクリーニングをしてやると約束しただろ。何をひとりでテンパってんだよ」


 彼女は、俺の方を向くと、ハッとした表情を見せた。いや、違うな。アイリス・トーリの目に映っているのは、俺じゃない。このまとわりつくような大気のせいで、幻覚が見えるのか。


 もし森に、幻影魔法が使われてなかったら、俺の領地の大半が、この大気によって錯乱状態になっていたかもしれない。大気にも仕掛けをするとは……腐ってるな。


 魔王セバスは、二重三重にワナを仕掛けていたということだ。直接の潜入が失敗したときのために、森を火の海にして、上空に逃れたら、この大気に毒されるということだ。幻影魔法のおかげで、火の海になったのは街道の北側だが。


(あのブタ顔社長なら、次はどう考える?)


 俺は前世の記憶をたぐり寄せた。ブタ顔社長は、土地買収を仕掛けるときは、二重三重のワナを仕掛けていた。それに振り回されて、結局、対象者は敗北を受け入れるのだ。


 今回の狙いは、古の魔王トーリの墓を襲うことだ。魔王セバスが、その全てを任されているのかは、定かではない。だが、黒幕は……ライール・クースは、幻界の神だよな。最後の最後にしか、動かないと考える方が自然だ。


(やはり、ブタ顔社長が墓を狙うか。ということは……)



「アイリス・トーリ、おまえは今、何の術も受けていない」


「でも、冥界との繋がりが……」


「それは、おそらく幻界神のチカラだ」


「私、ライール・クースには、どうあがいても……」


 彼女は火の海を眺めながら、呆然としている。彼女は、この大気のせいで、大きな影響が現れている。いわゆるフラッシュバックか。術を解除するとこんな後遺症が残るのが、魔王セバスの洗脳なのだろう。いろいろなことに不安になっているようだ。


(あのブタ顔社長も、使っていたな)


 だから訴訟を起こされても、なぜか当事者が自殺したり、発狂して精神鑑定を受けることになっていた。ブタ顔社長に関わると、運を吸い取られるという噂もあったが、あれは今思えば、魔王セバスのチカラだ。




 上空に、飛竜の群れが現れた。俺達を見つけたらしい。


「アイリス・トーリ、よく聞け。魔王セバスだけが、この襲撃を指揮しているなら、俺達に負けはない」


「えっ? どうして。魔王セバスのオリジナル魔法は、天界人でさえ簡単に操るわ」


「俺は、魔王セバスの……いや、ブタ顔社長のやり方を知っている。確かに、これは陽動だ。だが、陽動に乗ったフリをするぜ」


「ちょ、どういうこと?」


「おまえは、俺の援護をしてくれ。飛竜が使う嵐は、俺にはどうにもできねー」


「わ、わかった。えっとー?」


 アイリス・トーリは、全然わかってないらしい。頭が回らないのだろう。おそらく、彼女の頭の中には、いろいろなフラッシュバックが起こっている。


「まず、この火の海を消す。そして飛竜を捕まえて、幻界神のとこに殴り込みに行くぞ!」


「へ? そんなこと……」


「できる! おまえは、自分に自信がなさ過ぎるんだよ。冥界神だろ!? 幻界神を超えてみせろよ」


「は? 冥界神が幻界神を超えられるわけないだろ。トレイトン星系は、法治制度を重んじているのだぞ? 定められた序列は変えられないことくらい、言われなくても理解しろ、スカタン」


「序列の話じゃねーよ。実力の話だ」


 俺がそう反論すると、彼女は、ポカンと呆けた顔をした。だが、スカタンと言い出したから、そろそろ大丈夫か。


「実力でも、そんな……」


「おまえが苦手とする部分は、俺が補えるようだ。おまえには、もう魔王セバスの洗脳は効かないんだぜ? それに、幻界の魔物神らしいディーという魔物は、バブリーな……じゃなくて、カオル姉さんが従えてるんだろ? どう考えても、おまえに負けはないだろ」


「あ……っ」


「なんでもかんでも、ひとりで抱え込もうとするんじゃねぇぞ。ほら、行くぞ。俺が火の海を消そうとすると、飛竜が妨害するはずだ。おまえは、飛竜を捕獲してくれ」


「捕獲方法は?」


「任せる。うっかり殺しても俺がすぐさま転生させるから、気にすんな」


「は? 私がそんなヘマをするわけないだろ、スカタンっ!! いくぞ!」



 アイリス・トーリは、俺の腕をつかむと、一気に、火の海の中心へと移動した。


(ふっ、いいスカタンだったじゃねぇか)



「熱いな。早く消せ」


「はいはい」


 飛竜が慌てて、こちらに向きを変えて迫ってくる。かなりの数だ。飛竜は通常時でも、幻界へ飛んでいける。今、既に幻界と交わっているなら、この飛竜の大半は、幻界に生息する魔物だろう。


 飛竜を操るのが魔王セバスなら、俺が火を消したら、おそらく飛竜は分散して、俺の領地を攻撃するはずだ。ブタ顔社長は、質より量だとか言って、嫌がらせにチンピラを大量に使っていたもんな。



 俺は、彼女が杖を構えた横顔を、チラ見した。


(もう大丈夫そうだな)


 俺は死神の鎌を取り出すと、グルンと大きく振り回した。



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