表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/215

201、幻人の森 〜魔王セバスの力

「ひっ!?」


 俺が振り下ろした死神の鎌は、クルータスの顔の一部をかすっただけだった。左頬に一筋の血がにじむ。だが、それでいい。俺はそれを狙った。


 クルータスは、その傷口から裂けるように、二つに分裂した。だが、身体が裂けたわけではない。クルータスが二人に分かれたのだ。見た目も傷までもそっくりだが、その表情の歪みは違う。


「こういう憑依もできるのだな。魔王セバス!」


 俺は、一方のクルータスに死神の鎌を突きつけた。これは天界人にとって、強烈な侮辱に当たる行為らしい。


 当然、俺が鎌を突きつけたのは、本物のクルータスではなく、魔王セバスだ。魂の記憶に刻まれたブタ顔社長のいやらしい顔の歪みを、俺が見間違うわけがない。



「くっ……新人のガキが!!」


 俺が死神の鎌の角度を変えると、俺が鎌を突きつけていた方のクルータスは、パタリとその場に倒れ、ジューッと溶けるように消えていった。


(逃げたな、魔王セバス)


 溶けた霧のような物も、跡形もなく消えている。居場所を探らせないようにするためか、完全に消去したらしい。




「クルータスさん、大丈夫ですか」


「あ、あぁ? 俺は一体……」


 クルータスは、頬の傷がまだ痛むのか、その表情を歪めた。この顔は間違いなく、魔王セバスではない。完全に奴の影響は消えているようだな。


「あははは、やはり大魔王コークンの方が上だったな。分裂後はどっちが本体かわからなかったのに、ズバリ当ててるし、あははは、きゃははは」


(は? コイツ、壊れたか?)


 アイリス・トーリは、何がおかしいのか知らないが、爆笑している。彼女がここまで笑うのも珍しい。



「ちょっと、アイちゃん、どうなってるのぉ? カオルくんも、突然、死神の鎌を抜くから、びっくりしたわよ」


 俺が鎌を左手首に収納すると、やっとリィン・キニクが口を開いた。アイリス・トーリは、まだ笑っていて、話せない状態だ。


「あはは、だって、あの魔王セバスが、新人ぴよぴよ大魔王に、すっかり騙されて、しかもぉ〜、得意の憑依も強制解除されて〜、きゃははは」


(俺が、騙したか?)


「カオルくん、どういうこと? アイちゃんが何を言ってるか、わからないわよ〜」


「リィリィさん、俺にもよくわかりません」


「あははは、だってだって、ただの嵐を水帝のオリジナル魔法だと信じ込んで、ありがとう今なら話せるとかって、きゃははは。お腹いたーい。あははは」


(コイツ、まじで大丈夫か?)


 アイリス・トーリは、洞窟内なのに座り込んで笑っている。幼女アバターを身につけてないことを忘れてねぇか?


「でも、外の嵐には、魔力を感じるわ〜。カオルくんのオリジナル魔法じゃないの?」


「天界クラッシャーって何なんだーっていう、あれは、ただの叫びだ。極まった状態で吐き出した感情に、溢れた魔力がまとわりつくことは珍しくない。あははは、もう無理〜、きゃははは」


 彼女は、本当に笑いすぎて腹が痛いらしい。まぁ、安心したということだろうか。だが、俺の感情の変化で嵐が起こるのか?



「で? 天界クラッシャーって、何なんだよ?」


 俺が改めて尋ねると、まだひゃっひゃと笑っているアイリス・トーリは、何かを指差している。また、笑いがぶり返したらしく、話せないようだ。


(クルータス?)


 だが、指さされた彼は、何かを気にしているのか、思い詰めたような重苦しいオーラをまとっている。



 すると、リィン・キニクが口を開く。


「カオルくん、さっき、クルータス、おまえもか、って言ってたよね? どういうことなのかしら?」


 リィン・キニクは、クルータスの方をチラ見しながら、そう尋ねた。あぁ、そのせいで彼はあんなに暗いのか。まぁ、ガーディアンだとか、自分に任せろとか、自信満々だったからな。


「あれは、俺の言葉ではないです。トーリ・ガオウル様が、クルータスさんに怒っていると感じました。おまえも、乗っ取られたのかって」


 俺がそう言ったことで、クルータスはさらに暗くなっている。だが、隠すようなことでもないだろう。


「へぇ、カオルくんには、トーリ・ガオウル様の声が聞こえるのね。私には何も聞こえないわ〜」


「そうなんですか。まぁ、俺の場合は、聞こえるというのとは違うんですけどね」


 おそらく、俺が初めて、冥界からこの洞窟へと出てきたとき、トーリ・ガオウルが俺の魂に何かを刻んだためだろう。ある種の呪いかもしれない。



「クルータスが正気に戻っているうちに、魔王セバスの術を解除する方がいいんじゃないか?」


 笑い疲れたらしきアイリス・トーリは、変なことを言う。もう魔王セバスは跡形もなく逃げたじゃないか。


「もう、影響は残ってないだろ」


「魔王セバスの術は、そんなに簡単には消えない。私にまで……いや、早く解除しろ」


(コイツ、ころころと態度が変わるな)


 アイリス・トーリは、自分が変な術を受けていたことから、疑心暗鬼になり、こんな不安定なことになっているのか。


「そうね。カオルくんの嵐が収まる前に、解除する方がいいわ。外の嵐は、術を遮断しているみたいだもの」


 リィン・キニクまで、妙なことを言う。



「まぁ、大丈夫だと思いますけど……一応、皆への干渉があるようなら、洗浄しておきます」


 俺は、死神の鎌を取り出して、ぐるりと振り回した。オリジナル魔法は、死神の鎌を媒介にしないと上手く使えない。


 ブンッと空気が揺れただけだ。だが、ほぼ全員が、膝から下が崩れるように倒れた。この倒れ方は、風圧によるものではない。


(マジかよ……)


 それと同時に、外の雨音が静まった。嵐も突然、消えたのだろうか。




「これは、見事ですな。我が主人と認めてあげてもいいかな」


 何もない空間から声がした。その直後、スッと姿を現したのは、罪人27人のひとりだ。これで、トーリ・ガオウルの側近と賛同者が揃ったのか。


「デニタス、どこにいたのだ!?」


 クルータスは、頭を押さえながらそう叫んだ。崩れた人達も順次立ち上がり、頭を振っている。まさかとは思っていたが、アイリス・トーリの予感は的中だ。魔王セバスの術が残っていたらしい。


「ずっと、この場所にいたよ? 正確にはこの森にいた。僕は、番人だからね。皆、魔王セバスにやられていくから、姿を隠したのさ。僕だけでも、墓守りをしないとね」


(いや、違う……コイツは……)


「水竜リビノア様、人の姿にも化けられるのですね。いや、デニタスさんに憑依しているのかな」


 僕がそう指摘すると、彼はニヤリと笑った。


『ふっ、カオルはつまらないな。ワシを見破る者など、いないのだがな』


 デニタスという男の身体から、影のようなものが伸びた。今の声は念話だ。水竜リビノアは、こちらの世界とは別の世界にいるらしい。



「大魔王コークン、何の話をしているのだ? 水竜リビノアは、人の姿になどならないぞ?」


 アイリス・トーリは、俺の視線を追い、首を傾げている。彼女に見えないなら、水竜リビノアがいる場所は冥界ではないらしい。


「影だけですね。おそらく幻界にいるのでしょう。そろそろ、その時が近づいてきたのか」


 幻界が、このブロンズ星と交わる。魔王セバスが早々に逃げたのは、そのためもあるだろう。魔王セバスの潜入が失敗したとなると、次に動くのは、黒幕か?



 クルータスは、ハッとしたように口を開く。


「カオルさん、俺は、主要な者をここに集めてしまった。皆、すぐに、持ち場に……クッ、しまったな」


 森がざわめくのを感じた。これは……。



「カオルくん! 旧キニク国が!」


 リィン・キニクはそう言うと、スッと姿を消した。



『街道の北側が、火の海になっているぞ、カオル。これは陽動だろう。ワシはこの者と共にここに残る。行け!』


(ふっ、水竜リビノアはイキイキしてるな)



「皆は、ここを守ってください。旧キニク国は、俺が……」


「私も行く!」


 アイリス・トーリはそう言うと、俺の腕をつかみ、転移魔法を唱えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ