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200、幻人の森 〜クルータス、おまえもか

 俺達が洞窟に戻ると、トーリ・ガオウルの配下だったと言っていた男達が駆け寄ってきた。


 ここに集まっているのは全員ではない。えーっと16人か。確か、配下だったのが11人で賛同者を合わせると17人だと言っていたな。1人足りない。


 だが戦乱の準備のために、みな、あちこちに散っていたはずだ。もう、すべて終わったのだろうか。



「カオルさん! あ、あの!!」


(随分と慌てているみたいだな)


 俺の奴隷という形になっている彼らのほとんどは、天界人よりも有能だろう。魔王セバスが攻めてきても、こんなに取り乱すわけはない。


 それに、まだ、そもそも戦乱は始まっていないからな。


(戦乱じゃなくて、トーリ・ガオウルか)



「クルータスさん達にも、声が聞こえましたか」


「えっ? 声? カオルさんのオリジナル魔法には声は乗せられていなかったのでは……」


(あれ? 話が通じない)


 さっきの、トーリ・ガオウルの声は、精霊ガードの中にいた俺達にしか聞こえなかったのか。


 この洞窟は、おそらくトーリ・ガオウルの墓に繋がっている。俺が彼の声を聞いたのは、この洞窟内だ。だから、配下の彼らにも聞こえたのかと思い込んでいたが……。



「さっきねー、トーリ・ガオウル様の声が、水竜リビノアによって届けられたのよ〜」


 リィン・キニクが、フォローをしてくれた。


「森の賢者か。我が主人は……いや、今の我々の主人はカオルさんだが、えっと、かつての主人は何と?」


「うふふ、それは内緒よ〜。だけど、安心してくださいね。この森の幻影魔法は、強化されたわ〜」


(は? はぐらかしたか)


「先程、何かが駆け抜けた気配があったな。その後は確かに、マナの感じが変わった。カオルさんの浄化魔法かと思っていたが、水竜リビノアが声を届けたということは、我が主人の復活の時が?」


 数人の目が期待に輝いている。だが、今もう復活できる状態なら、水竜リビノアが墓を守る必要はない。さっさと復活すれば、そのチカラも魔王セバスに、いや、ライール・クースに奪われないだろう。



「クルータス、何を寝ぼけている!? トーリ・ガオウルの復活には、多大な時間とエネルギーが必要だ。まだその時期ではないことは、おまえも頭では理解しているはずだが?」


 アイリス・トーリは、毒舌キャラに戻っていた。だが、これは、彼女が自分を欺く為に作り上げたキャラだということが、俺にはわかってきた。本当の彼女は、不安で折れそうな心を必死に誤魔化している。


「シダ坊ちゃんは、相変わらず辛辣しんらつだな。おや? 何か、少し変わられましたな。なぜ、この森の精霊主が、貴女についているのです?」


(は? 精霊主がついている?)


 彼女の方に視線を移すと、確かに精霊の加護らしき光が見える。この森のもともとの精霊主のものかは不明だ。精霊主といっても、この森にもたくさん居るし、他の場所からきた精霊も多い。


(そもそも、精霊主って何だよ?)


 ヌシなら、ひとりだろうけど、たくさんいるから区別がわからない。



「精霊主なら、もともと私の近くにいたのではないか? 引き継ぎの儀式のときは、精霊ばかりだったようだが」


「そうでしたか。まぁ、精霊主も精霊も、この星では力の差はないようですがね」


(意味がわからねーな)


 俺が不快な顔をしたのか、アイリス・トーリは俺の顔をチラッと見て、ほくそ笑んでいる。コイツ、幼女アバターを着てないことを忘れてるよな?




「リィリィさん、精霊と精霊主って何が違うんですか」


 俺は、辺りを警戒しているリィン・キニクに、お気楽な質問をぶつけた。クルータス達も、俺達と話しながらも、ずっと辺りを警戒している。


 そういえば、俺に急ぎの用事があったみたいだ。だけど話が途切れても、その話には戻らない。俺達と話している間に、何かの状況が変わったらしい。


「精霊達が、精霊だと名乗ると精霊みたい。私にも違いはわからないわ。アイちゃんなら、知ってるのかしら?」


「精霊は、ここで生まれたモノだ。精霊主は、トレイトン星系から来たモノだ。だが、若いか否かは、精霊の持つ力には無関係だ」


(精霊の持つ力には?)


 俺は、彼女の言葉の選び方が気になった。妙に、引っ掛かりを感じる。そういえば、天界クラッシャーの意味も……。



「ふぅん、そういうことなのね。てっきり、精霊主は、天界クラッシャーを封じる特殊な精霊のことかと思っていたわ」


(うぉっ、きた! 天界クラッシャー)


「まぁ、そうだな。だから、この森には精霊主が多い。魔王クースは、霊体の間は天界クラッシャーだからな」


 そういえば、魔王クースのあの少年の職業は、天界クラッシャーだ。


「天界クラッシャーって、何なんだ?」


 俺がそう言葉に出した瞬間、アイリス・トーリは、ニヤッと笑った。


「その言葉を発したな? 水帝コークン」



 その直後、洞窟の外が騒がしくなった。確かに今の俺の言葉には、無意識だが魔力が乗っていたと感じたが……。


(何か、やらかしたか?)


 洞窟の外を遠視してみると、突然の嵐になっているようだ。強い雨が打ちつけている。




「ありがとう、カオルさん。今なら話せる」


 クルータスが口を開いた。


「俺に用があったんですよね?」


「あぁ、そうなんだ。賛同者の一人が、天界クラッシャーだったんだよ。キミのオリジナル魔法で、それがわかった。彼は、狂ったように、ひゃっひゃと笑って出て行ったのだ」


「えっ? 罪人27人のひとりが、天界クラッシャー? もしかして、魔王クースの霊体?」


「ほう、知っていたか。だから、オリジナル魔法を使って浄化してくれたのだな」


「出て行ったって……俺の処刑紋が刻まれていますよね?」


「あぁ、彼は乗っ取られて処刑紋だけを残して殺されたようだ。そして、その処刑紋を、別の者が受け継いだのだよ。我が主人の墓に近寄るために」


(何それ? すり替わったってこと?)


「じゃあ、俺が処刑を実行すると、そのスパイは死ぬんですね?」


「いや、処刑紋は魂に刻まれる。だから、もともとの罪人が消滅するだけだ。処刑紋を貼り付けている別人が、我々に紛れ込んでいたと考えてくれ」


 俺の頭の中は、大混乱中だ。


 トーリ・ガオウルの力を狙って、罪人27人の中に、そんな面倒くさいことをして入り込んだのか? 新人転生師の俺の知識には、そんな奇妙な転生方法はない。そもそも墓を狙うなら、他にいくらでも策はあるはずだ。


 それに、コイツは何だか……キャラが違う。



 俺は気づいたときには、死神の鎌を右手に持っていた。だが、アイリス・トーリは微動だにしない。リィン・キニクは目を見開いてキョロキョロしているが……。



「カオルさん? どうしました?」


 クルータスは、とぼけた顔だ。だが、このとぼけ方には見覚えがある。



『クルータス、おまえもか』


 俺が発した言葉は、俺の声ではない。俺の意思で発した言葉でもない。だが、感覚として伝わってきた。そうか、そういうことか。トーリ・ガオウルが怒っているのだ。


 俺は、死神の鎌を、驚く彼に振り下ろした。



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