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199、幻人の森 〜実在した魔王クースの正体

「リィリィさん、急に話が……」


 リィン・キニクは、シルバー星の帝都ライールは、バブリーなババァではなくライールという奴が統治していて、監獄だとも言った。


 そして、そのライールという奴は、天界の一番最初の神で、ブロンズ星では、魔王クースと呼ばれていただと?



 魔王クースについての知識は、俺の頭の中で整理できていない。話し手によって、内容がマチマチだからだ。



 俺が、初めて魔王クースに遭遇したのは、アシュ・ビルクが鎌に騙されて魔王クースを狩ったときだ。あの件で俺は、彼女と……大魔王リストーと共闘したのだったか。


 鎌に捕らわれていた魔王クースは、赤黒い霧のような状態だった。あの状態の魔王クースは、死神の鎌を使っても切れないから、防具代わりにも使えると言っていたか。


 あのとき俺は、魔王クースは、武器を強化する不死身の思念体の総称だと思っていた。



 魔王クースに対するイメージが変わったのは、魔王スパークと話していたときだったか。


 魂の記憶に古の魔王トーリの刻印がある者は、魔王クースに転生する可能性があると言っていた。そして、何かの条件が揃うと、あの集落で魔王クースとして生まれる。


 ドムもそうだが、マチン族の多くにはは古のトーリの刻印がある。魔王トーリの末裔であるという証だ。


 あの集落には、魔王クースの霊体だという少年がいる。見た目とは違って年齢が0歳だったのには驚いたが、職業が天界クラッシャーだったよな。その職業の意味は、その後、聞く機会はなかった。


 ただ、あの少年は……魔王クースが、まるで自分のことを、古の魔王トーリかのように言っていたっけ。


 魂の記憶に刻む古の魔王トーリの刻印は、術者の呪いらしい。おそらく、その呪いには古の魔王トーリの意思が込められていて……。


(あー、もう、魔王クースって何なんだよ!)




「カオルくん、ちょっと混乱してるみたいね〜。だけど、どれも、正しいみたいよ」


 リィン・キニクは、俺達を取り囲む光に次々と視線を移している。精霊が俺の考えていることを伝えているのか。



「私からは、制約があって話せない。だが、魔王クースなら、あの魔王セバスを操ることが可能だ」


 アイリス・トーリは、言葉を選びながらも、これから起こる襲撃の黒幕は、魔王クースだと言っているのか? だが、魔王クースが生まれる集落は、この森にあるのに……。


(全く、わからねーな)




『ライールが天界を統べる神だった頃、ブロンズ星では、魔王クースと名乗っていた。トレイトン星系では、彼は、ライール・クースという名の幻界の神だ』


(は? この声は……)


『ライール・クースが幻界の神だから、ブロンズ星では、理解が難しい不思議なモノを幻のモノという意味で、魔王クースと総称するようになった。私に関わることも同様だ。だがそれは、ライールが自分の名を忘れさせないための策であったようだ。音には縁が繋がる。忘れさせないことが、彼には重要だったらしい』


 突然の念話は、間違いなくトーリ・ガオウルの声だ。俺に、息子を救ってくれと言ってきたあの声だ。


『もうすぐブロンズ星は、幻界に入る周期を迎える。今回の交わりは、数時間にも及ぶだろう。どうやらライールは、私のチカラを奪いたいらしい。自ら引きこもったはずの幻界に飽きたようだな』


 俺だけでなく、アイリス・トーリやリィン・キニクにも聞こえているらしい。二人の反応は、全くの別ものだ。リィン・キニクは不思議そうな顔をして精霊に確認を取っている。一方で、アイリス・トーリは……。


「ち、ちちう、え? どうして?」


 彼女は、パッと上を見た。俺もそれにつられて見上げると、森にかける橋をすり抜けて泳ぐ細長いモノが見えた。


(水竜リビノアか)



『ふっ、シダ、いや今はアイだったか。久しいな。精霊ガードにリビノアが干渉できるようだから、声を伝えている。カオル、私の子を守ってくれて感謝する。そして森の賢者、墓守りへの配慮に感謝する』


「あわわわ、トーリ・ガオウル様! ひゃあぁ〜。精霊達も大騒ぎですわよ」


 リィン・キニクが妙な裏声を出している。確かに、俺達を取り囲む光の瞬きが、とんでもなく激しい。緑色だけでなく、様々な色に変化している。いや、新たに集まってきたのか。


『そうか。だが、あまり時間はない。戦いの前にリビノアが消耗してしまう。私からの用件を簡潔に伝える』


 俺が頷くと、彼女も頷いた。リィン・キニクと精霊は、まだ大混乱中だが、何とか必死に耳を傾けて聞こうとしている。念話だから、耳を傾けてというのも変だが。



『私は、幻界がこの森に交わるとき、逆に幻界のエネルギーを奪うつもりだ。ライールの皇帝が協力を申し出てくれた。彼女は、幻界の魔物神ディーを従えている。幻界の魔物神は、嘘を嫌う性質があってな。ライール・クースを追放したいらしい』


(あっ! あのシャチか)


 バブリーなババァの私室で絵画のフリをしていた、シャチのような白い不思議な魔物だ。虚偽を裁くらしく、嘘を聞くと身体の色が変わるんだったな。


「ポチですね。それで、俺達はどうすれば?」


『カオルは、ディーに会ったことがあるのか?』


「はい、嘘発見器みたいな魔物ですよね。シルバー星のライールの皇帝の館で……」


『それは心強い。ディーに会って生きているということは、魔物神に認められたということだ。リビノアも面識がある。だが、アイには面識がない。協力してやってくれ』


(よくわからねぇが……)


「はい、わかりました。具体的には、臨機応変にということでしょうか」


『あぁ、水帝となったキミなら、ディーとも話せるかもしれない。私の願いは、幻界の過剰なエネルギーを奪い、ブロンズ星を満たすことだ。そして、私のチカラを奪われないように守ること。ライール・クースは、天界クラッシャーだ。だから、天界にしか縁のない者には太刀打ちできない。気をつけてくれ』


(天界クラッシャーって……何だ?)


 そう尋ねようとした瞬間、精霊達がパッと散ってしまった。危険を察知したのか。




「精霊ガードが消えちゃったわねぇ。内緒話は、ここまでだわぁ〜」


 リィン・キニクは、ここに現れたときの姿に戻った。白い羽のある不思議な服だが、これが彼の戦闘形だと言っていたか。


「とりあえず、皆と合流するか」


 アイリス・トーリは、何事もなかったかのようにスタスタと歩いていく。転移を使わないのは……今、サーチを受けているということか。


(くそっ、天界クラッシャーって何なんだよ?)


 今すぐ尋ねたい気持ちを、俺は必死に抑えた。こんなに知りたい衝動が強いのは……トーリ・ガオウルが、その音に何かの術を仕込んだのか?



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