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198、幻人の森 〜ライールと魔王クース

「ちょ、おまえ!?」


 突然の彼女からのキスに、俺は心底慌てていた。失言を謝らなければと思っていたのに……なぜだ?


「契約のキス……じゃなくて受諾のキス?」


 そう言う彼女の頬は、ほのかに赤い。いや、コイツ、耳が真っ赤だな。俺も妙に意識してしまう。


(何なんだよ?)


 俺が言葉を探していると、アイリス・トーリはイラついたのか、不機嫌そうに口をへの字に結んだ。幼女アバターを身につけていないときにこれをやるのは珍しい。



「さっき、おまえのことは俺が守ってやる。邪気にまとわりつかれたら、いつでも俺が解除してやるって、言ったじゃないか」


「あ、あぁ。それとキスがどう繋がるんだよ」


「受諾だと言っただろ! あぁ、もうっ、新人ぴよぴよ大魔王は、そんなことも知らないのか」


「知らな……ちょ、おまえ……」


 アイリス・トーリは、言葉とは真逆で、不安そうに瞳を揺らしている。俺は、言葉を途中で止めた。知らないと言い切ると、彼女を傷つけてしまうような気がしたからだ。




『森の賢者の言うとおりね。見ていられないわ』


(は? 何?)


 消えたと思っていた緑色の光が、俺達の頭上に現れた。しかも、一つではない。どんどん増えていく。この森には、これほど多くの精霊がいたのか。



『カオルさん、貴方の言葉は婚姻の申し込みでしょう? それを受け入れると契約のキスが交わされるわ。常識でしょ?』


(えっ……)


『もちろん、ずっと前から、貴方達は互いに惹かれていたのは、皆が知っているのよ? だけど、ほんと、不器用な二人よね』


『リィリィが、頭を悩ませていたわよ? とっくに二人の気持ちは固く結びついているのに、鈍感なんだもの』


『死神も、悩んでいたわ。二人の結びつきによる冥界強化も完了しているのに、なぜか二人が気づいていないってね』


『やっと彼女が決断したのに、カオルが気づかないなんて、ありえないんだけどぉ?』


(言いたい放題だな)



 そんな緑色の光を追い払おうとしているのか、アイリス・トーリは、手を不規則に動かしている。いや、照れ隠しか。本気で追い払う気なら、魔法を使うだろう。



「俺と、結婚してくれるのか?」


 改めてそう尋ねると、彼女は、不機嫌そうに口をへの字に結んだ。幼女かよ。


「だから、受諾の……」


 俺は、不満げな彼女の反論を封じるかのように、彼女の口を俺の唇で塞いだ。さっきの仕返しのつもりだったが……。


(やべ、ムラムラしてきた)


 そんな俺の心を見抜いているのか、彼女は俺の腕をバシバシ叩く。口を封じても、念話がある。だが、彼女は、ただバタバタしているだけだ。



「ちょっと! 長いじゃないのっ! それに、みんなが見ているのに! それにそれに、今は、こんなことをしている場合じゃないわ!」


(言葉遣いが変わったな)


 アイさんが話す言葉遣いだ。


「先にやったのは、おまえの方だろ」


「みんなは、居なかったわよっ。それに、私が受諾する方が、この森の防御力が上がるもの」


「は? 森の防御力を上げるために、俺と結婚するって言ってんのか?」


「違うわよ! でも、どうせなら、防御力が上がる方がいいでしょ。魔王セバスだけじゃなくて、魔王ク……」


 彼女は、ハッとした表情で口を閉じた。


(何なんだよ、コイツ)



『あらあら、まぁ、もう、ほんと見てられないわね』


『世話が焼けるな。世話焼きな森の賢者を呼ぶか』


『そうね、森の賢者なら、話せるわね』


 緑色の光が、ごちゃごちゃと話し合っている。見ていられないなら、消えればいいんじゃねぇのかよ。



 ピカッと緑色の光が強く輝いた。




「あらら、こじれちゃったのね〜」


 目の前に現れた男は、羽が生えていて不思議な白い装備を身につけていた。一瞬、見覚えがないと思ったが、この声は、リィン・キニクだ。森の精霊が、本当に呼びやがった。


「リィリィさん? えーっと……」


 俺は、言葉が続かなかった。何から話せばいいか、わからない。


「リィン・キニク! 森の精霊をけしかけるなよ!」


 アイリス・トーリは、彼に逆ギレしているようだ。照れ隠しだろうか。だが、防御力がどうのと言っていた点が、俺としては、引っかかっている。


 この世界の婚姻制度は、種族や国によってバラバラだ。女神から与えられた知識を探ると……魔王同士の結婚は天界にとって脅威となるらしい。これが防御力の増幅という意味か?



「あらあら、アイちゃんってば、八つ当たりかしら? カオルくんに誤解させるような言い方をしたのは、貴女でしょ?」


 リィン・キニクにそう言われると、彼女は口をへの字に結んだ。今日は、これが多いな。


「リィリィさん、俺も鈍感だと、森の精霊達に叱られたみたいですが」


「ふふっ、そうねぇ。でもカオルくんは、何度もアイちゃんに気持ちを打ち明けていたわよね? アイちゃんが返事を失敗しただけよぉ〜」




 リィン・キニクは、クルッとその場で回転した。すると、緑色の光が、俺達の周りに規則正しく配置された。


「うふっ、これで大丈夫ね。カオルくんのさっきのオリジナル魔法で邪気は消えたけど、念のために精霊ガードよ」


「精霊ガード? 結界ですか」


「違うわよ。精霊が集まってるだけなの〜。だけど音は漏れないわ。何を話してもね」


 リィン・キニクは、見慣れた姿に変わった。


「あら、戦闘形を解除したのね」


「アイちゃんもカオルくんも居るんだから、大丈夫でしょ? どこから話せばいいかしら? カオルくんの誤解はそのうちアイちゃんが何とかするとして、私にしか話せないことを伝える方がいいわね」


 リィン・キニクは、スッと表情を引き締めた。


(何の話をする気だ?)


 精霊が取り囲む前は、俺と彼女のことで来たはずだったが、どうやら、それは傍受を警戒した芝居だったらしい。



「アイちゃんの口からは、制約があって話せないの。だから、私から話すわ。カオルくん、今から起こる争いに関する情報よ」


「リィリィさんは、そのために来たんですか」


「ふふっ、ケンカを止めるためでもあるわよぉ。カオルくん、ライールという名を知っているかしら?」


「はい? バブリーなババァ……じゃなくて、カオル姉さんは、シルバー星の帝都ライールの皇帝ですよね?」


「じゃあ、カオル姉さんの、名前を知ってる?」


「えーっと、確か、皇帝ノタン18世?」


「ふふっ、よく覚えてるね。だけど、不思議だと思わない? 街や国の名前って、特別なモノ以外は、その地域を統べる者の名前がついているわよぉ」


「シルバー星は、違うのかと思っていました」


「シルバー星もゴールド星も同じだよ。この森は特殊だから、大魔王コークンの名前がつかなかったのよ」


(そうなのか。確かに俺の名前はついていない)


 リィン・キニクは、チラッとアイリス・トーリに視線を移した。そして彼女が頷いたことで、再び口を開く。



「カオルくん、帝都ライールは、ライールが統治する監獄なの。ライールは、天界の一番最初の神でね。ブロンズ星では、魔王クースと呼ばれていたわ」


(は? 魔王クースは架空のモノじゃないのか?)



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