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194、天界 〜クルータスという男

「は? 死神との約束を果たせていない、だと? 冥界の門が開いたではないか」


(ふぅん、本人も気づいているらしいな)


 魔王セバスの口調には、いつものような威圧感がない。


「古の魔王トーリ……いや、トーリ・ガオウルの生まれ変わりを捜して、冥界の門を開くということが、死神との契約だったのでしょう? それで、トーリ・ガオウルの響きを持つ者を、手当たり次第に殺したのでしょうが、トーリ・ガオウルはまだ生まれ変わっていませんよ」


 俺が冷たく言い放つと、魔王セバスは眉間にシワを寄せた。


「キミは、それを根に持っているのか。俺がキミを殺したって? だが、前世よりも今の方が、圧倒的に有能なスペックだろう? それ以上に何を求めるのだ? そんな強欲な青年ではなかったはずだがね」


 魔王セバスは、あのブタ顔社長の雰囲気をチラチラと出してくる。俺が不快になるからだろうか。性悪どころじゃねぇな。


「人殺しがよく言いますね。あの嵐の日に崖が崩れたのは、偶然だったのでしょうが……いや、魔法が使えるのか」


「ふふっ、あの星にはマナが少ないからね。あまり大きなチカラは使えないし、偶然を装うというのは案外難しいものだ」


 そう言いつつ魔王セバスは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。やはり、コイツがやりやがったのか。あれで死んだのは俺だけじゃないはずだ。


(今更、こんな議論は意味ねぇか)


 俺は、頭を切り替えた。



「話を戻しますが、アーノンさんは死神との契約をまだ果たせていない。だから、あの領地に関する権利は貴方には無い」


「は? キミは頭が悪いのかね」


(わざと口調を変えやがった)


 あのブタ顔社長の口調に、俺は反射的に嫌な顔をしたのだろう。魔王セバスは、ニヤリと笑っている。そうか、こうやって、はぐらかしていくのがコイツの話術か。


 憑依されていたブタ顔社長は、完全に魔王セバスか。そう考えると対策がひらめいた。あの頃は立場上、できなかったことだ。


「アーノンさんこそ、頭が悪いようですね。いっそ、このやり取りを、貴方を知る全員に伝えてみましょうか。他の人達に、判断してもらいましょう」


「は? 何をおまえは……」


「こちらの世界にはSNSはありませんが、俺のオリジナル魔法を使えば、簡単に伝達できるんですよね。他の人達の反応に従いましょう」


「何を……」


「貴方のオリジナル魔法による下僕がどれだけ居るかは知りませんが、水竜リビノアが協力してくれたら、天界だけでなく、ブロンズ星もシルバー星もゴールド星も、さらにはトレイトン星系にも……」


「やめろ! 死にたいのか!」


 魔王セバスは、ブルブルと怒りに震えている。


(やはり、同じか)


 あのブタ顔社長は、異常に体裁を気にしていた。SNSでは、加工アプリを利用して顔を修正し、有能なイケメン経営者を装っていた。それを暴露しようとした社員は、謎の失踪をしていたっけ。


「SNSよりも、俺のオリジナル魔法の方が伝達スピードは速いですよ。そして今の、死にたいのかという脅し、ふっ、いただきましたよ」


「まさか、今、流しているのか! おまえ……いつから流していた!? そういえは、アイリス・トーリは扉の外だな。まさか、おまえらが……」


 魔王セバスは、顔を真っ赤にしている。興奮して血圧でも上がったのか? あのブタ顔社長も、赤い顔で怒鳴り散らしていたな。




「落ち着いてください。貴方の負けですよ、魔王セバス。死神との契約は、まだ果たされていない。そもそも死神が、トーリ・ガオウルの力を他者に渡すわけがないでしょう」


 フロア長が、静かにそう話すと、魔王セバスが目を吊り上げた。これは、ブタ顔社長の激昂時の顔だ。


「何を、おまえまで……」


「貴方もわかっているのでしょう? どうにかして強大な力を横取りするつもりだったのでしょうが、トーリ・ガオウルの生まれ変わりを見つけるということは、もう、彼の力は生まれ変わった彼に引き継がれたということですよ? だから貴方も、シダ・ガオウルの響きを探したのですね」


 フロア長が、真顔でそう言い放つと、魔王セバスはチッと舌打ちをした。フロア長の真顔は怖いもんな。


「俺は、冥界の門を開かせたじゃないか。当然の報酬を得る権利があるはずだ」


 魔王セバスは、引き下がらない。まぁ、そうだろうな。だが、さっきの脅しが効いたらしい。言葉の勢いが変わった。



「じゃあ、俺のオリジナル魔法で……」


 俺がそこまで話したときに、扉がスーッと開いた。




「お話し中、失礼する。意味のない議論で、私の主人の時間を奪わないでいただいたい」


(誰だ?)


 突然、入ってきた男は、どうやら俺のことを主人と呼んだらしい。俺が奴隷転生させた人間だろうか? いや、人間なら天界には来られないか。


「クルータス……様、なぜ、誰が?」


「カオルさんは、私の主人だ。見えていないのか? まぁ、真なる力を持たぬ魔王には、見えないか」


(魔王セバスが、様呼びした?)


 俺の表情を読み取ったのか、その男は姿を変えた。あぁ、罪人27人のひとりじゃないか。


「クルータスさん?」


「カオルさん、すまない。先程の姿は、天界でのアバターだ。だが、アレじゃないと気づかないからな」


「あ、あぁ、なるほど」


 アバターを身につけると、処刑紋らしきものは消える。おそらく、そちらが狙いだろうが……。


 俺がそう考えていると、彼は気まずそうに目を逸らした。


(マジかよ)


 俺の思念を覗けるということは、天界人の誰よりも格上だということだ。あぁ、トレイトン星系の人かもな。



「さぁ、カオルさん、こんな男の戯言たわごとに付き合っている時間が惜しいです。ブロンズ星へ戻りましょう。塔の所有権がエメルダさんに移りました。俺達に彼女の世話はできません」


(は? 俺もできねぇぞ)


「いや、あのさ……」


 反論しようとした俺を、フロア長が仕草で制した。


「アウン・コークンさん、貴方の領地のあの森には、名前がつきましたよ。確認しておいてください。それから、転生師としての仕事は、引き続きお願いしますよ?」


「は、はぁ」


「では、カオルさん、参りましょう」


 クルータスという男は、俺を応接室から引っ張り出すと、扉の前にいたアイリス・トーリに目配せをしていた。


(彼女が呼んだのか)



「死神から事情は聞きました。魔王セバスは、おそらく力づくで来ます。早く戻って準備をしますよ」


 彼は小声で囁くと、いきなり転移魔法を発動した。



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