193、天界 〜魔王セバスのオリジナル魔法
「アウン・コークンさんは、彼のオリジナル魔法をご存知ですか?」
フロア長アドル・フラットが、魔王セバスを冷ややかに見ながら、俺にそう尋ねた。さっきフロア長は、魔王セバスに、自分の息子だとか孫だとか言われていたな。同じ種族らしいが、魔王セバスの血筋からしかその種族は生まれないとも言っていた。
(だが、俺の記憶にはない)
魔王セバスも天界人だろうが、彼の種族に関する情報は、俺には知る権限がないのかもしれない。まぁ、どこかから転生してきた天界人なら、オリジナル魔法を持っているはずだ。
「いえ、知らないです」
「当然だよ。俺に関する情報は、次第に記憶から消えていくように、常時発動しているからね」
不敵に笑う魔王セバスは、すべてを見下しているように見えた。さっき、アーノンと名乗り、阿野という名も口にした。こいつは、一体、何なんだ?
「魔王セバス、話の邪魔をしないでいただきたい」
フロア長は、真顔で抗議した。吸血鬼みたいな彼の真顔は、ほんとコワイんだよな。あ、彼らは吸血鬼なのか? だが女神から与えられた知識によると、そんな種族は、この世界にはいない。
「ふふん、じゃあ早く話なよ、アドル。だけど、わかっているね? アウン・コークンは、水竜リビノアと同期しているから、いろいろな術が効かないよ?」
「私は、アウン・コークンさんに隠すようなことは、何もありませんから」
「へぇ、ふふっ。楽しみだね」
魔王セバスは、整った顔をしているのに、俺には彼のニヤついた顔は、前世のあのブタ顔の社長に見えてくる。これも、魔王セバスの術なのか?
「コホン。アウン・コークンさん、扉の外には、アイリス・トーリさんもいます。だから安心して聞いてください」
(は? なぜ、彼女が出てくる?)
フロア長は、そう前置きした後、俺を真っ直ぐに見て、話し始める。
「魔王セバスのオリジナル魔法は、分割憑依なのです。だから、諜報活動に優れているため、瞬く間に、ブロンズ星で絶対的な地位を築いたようです」
「分割憑依?」
「はい、今では、同時に10個以上の魂に憑依することができるようです。憑依の媒介に血を使うことから、憑依対象は完全な傀儡になり、憑依を解いた後も忠実な下僕です」
「えっ? 魔王セバスは、俺の前世の国に来たということですか」
「いえ、直接行ったわけではありません。誰も信じない彼が自分の国を離れるわけがない。憑依した自分の分身のような人物を使って、憑依対象者に接触するのですよ。すなわち、同じ種族の身内を使って、傀儡にするわけです」
フロア長も同じ種族だよな? 魔王セバスに利用される可能性があるということか。そんな彼の話を、魔王セバスはニヤニヤしながら聞いている。
「じゃあ、俺の前世の勤務先の社長は……」
「ええ、魔王セバスが憑依していたのでしょうね。カオルという名前を持つ人物ばかりを狙って狩っていたようだ。旧魔王トーリの領地を手に入れるために、死神と契約を取り付けた100年ほど前から、頻繁に狩っていましたね」
(は? 人殺しじゃねぇか!)
「なぜ、古の魔王トーリの領地にこだわっているのですか」
そういえば天界も、あの集落を探していたよな。だが、冥界の門は開き、アイリス・トーリ……いや、シダ・ガオウルが、冥界神ガオウルとなった。もう、天界も、あの集落にはこだわらないだろうが……。
フロア長は、チラッと魔王セバスの様子を確認したようだ。だが、魔王セバスは不敵に笑うだけだ。
「アウン・コークンさんの領地には、トーリ・ガオウルの遺産が眠っているのですよ」
「トーリ・ガオウルの遺産?」
「ええ。天界は、いえ、女神ユアンナ様はそれを回収したいと考えているようです」
「あぁ、女神の機嫌を取りたいから、魔王セバスがそれに協力しているのですか」
「いえ、女神ユアンナ様が見つける前に、魔王セバスは自分のものにしたいようです」
「ふぅん、強欲なんですね。そんなすごい宝が隠されているのですか」
「宝というか、チカラですね。トーリ・ガオウルが封じた自らのチカラの根源です。星を創り天界をも創る、創造神のチカラです。トーリ・ガオウルは、過大なそれを封じて、ブロンズ星の魔王となることを決めたようです。そのチカラが封じられているから、水竜リビノアはその恩恵を受け、そしてトーリ・ガオウルの復活の源ともなる」
(頭がチカチカしてきた……)
トーリ・ガオウルのチカラがどこかに眠っているから、魔王セバスも天界も、それを奪いたいということか? 冥界神を復活させたくないから、じゃないのか?
フロア長は、そこで話をやめた。俺が頭を整理する時間をくれたのだろうか。
俺の領地を、魔王セバスが欲しいのだと、フロア長は言っていた。領地を手に入れてから、ゆっくりとトーリ・ガオウルのチカラが封じられた何かを探すつもりだろう。
(あー、アイツは墓守りだったか)
水竜リビノアは、トーリ・ガオウルの墓守りだと、以前アイリス・トーリが言っていた。ということは、封じられたチカラは、トーリ・ガオウルの墓にあると考えるのが自然か。
「もう、わかっただろう? 大魔王コークン。キミの領地となっている箱庭は、俺に所有権限がある。死神との契約どおり、冥界の門は、俺が見つけたカオルの魂のおかげで、開かれたんだからね」
しびれを切らしたのか、魔王セバスは、俺をせかすようなことを言い出した。
「お断りします。俺を殺させた人に、なぜ俺が従わないといけないんですか。それに、あの森は、もう俺だけの箱庭ではない。新たな価値観が生まれた人間達の希望の地だ」
「あぁ、あの街道沿いの店には干渉しないよ? 死神との契約があるんだ。キミに拒否権はないよ。どうしても嫌だというなら、力づくで奪うだけさ」
魔王セバスは、ニヤッと、いやらしい笑みを見せた。あの社長が、コイツに憑依されていたなら、俺はコイツを殺せばいいのか。そうすれば、すべてが解決するんじゃねぇか?
「アウン・コークンさん、魔王セバスを殺すことはできませんよ。何人も同じことを考え、彼を手にかけてきた。しかし、血に触れると傀儡にされてしまうし、魔王セバスは即座に自己転生する。不死者なのですよ、我々は」
フロア長が、俺の考えを覗いたかのようなことを……いや、覗けないか。俺の顔に殺意が現れていたのか。
(ちょっと待てよ?)
死神との契約は、トーリ・ガオウルを捜し出せば、あの森を譲るというものだったよな? まだ、トーリ・ガオウルは復活してねぇじゃねーか。
トーリ・ガオウルの生まれ変わりを捜して、冥界の門を開けと言われたから、トーリ・ガオウルの響きを持つ者を狩りに行ったんだよな?
「アーノンさん、貴方はまだ死神との契約を、果たしてませんよ」




